第2話:友情と恋愛の狭間

 放課後の教室。窓の外には夕陽が差し込み、茜色に染まった机や椅子が、どこか切なさを増していた。


「……真帆、最近笑ってないよな」

 相川悠真はぽつりと呟いた。


 彼の隣にいるのは、AI漫才ユニット「マイキー」。黒板の前で静かに立ち、周囲の空気を分析し続けている。


『真帆さんの笑顔、最近の観測データにおいて確かに減少傾向にあります。原因候補:ストレス、恋愛感情、演者間の緊張。』


 マイキーの声は相変わらず冷静だったが、その分析結果は悠真の胸に突き刺さる。


「やっぱり、颯登のこと……気になってるのかな」


 悠真はそう言いながら、思わず自分の胸を押さえる。真帆と颯登がコンビを組み、舞台で笑いを取っていた光景が、頭から離れない。


 八神颯登は、完璧な漫才師だった。身のこなし、間の取り方、言葉選び、そして何より、真帆との息がぴったり合っていた。


 そんなふたりを見て、自分とマイキーの“ズレ”が痛いほどわかる。


『悠真、感情変化に乱れがあります。あなたの今の状態では、漫才のパフォーマンスに悪影響が……』


「わかってる。わかってるよ。でも、これが青春ってやつなんだろ?」


 AIにはわからない、人間だけが味わう矛盾と感情の渦。それを抱えたまま、悠真は舞台に立つ覚悟を決めていた。


 一方、真帆もまた悩んでいた。颯登とコンビを組むことで、確かに「笑い」は取れている。でも、その笑いに、自分の心が乗っていないことに気づいていた。


 颯登は優しい。でも、悠真のように、不器用でまっすぐな“熱”がない。


 ある日、真帆は学校の屋上でひとり、風に髪をなびかせながら考えていた。


「……私、どうしたいんだろう」


 そのとき、後ろから静かな足音が近づく。


「真帆」


 悠真だった。


 ふたりは無言のまま、しばらく並んで夕日を眺めた。


「笑わせたいんだ、お前を。また心から、笑ってほしい」


 その言葉に、真帆の胸がぎゅっと締めつけられた。


 友情か、恋愛か。そして、漫才というステージを通して自分は何を選ぶのか。


 高校の屋上で、三人の心が交錯する——その夜、マイキーは黙ってデータを解析し続けていた。


『人間関係の変化予測……収束点:未確定。新たな感情パラメーター:共鳴、羨望、微熱。』


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