第9話:崩れゆく要石と向き合う時

 真壁基氏は自室に籠もり、眠れぬ夜を過ごしていた。


 碧純の「私、全部あげてもいいよ」という言葉が頭を巡り、心の要石が崩れ落ちそうだった。


「俺、どうすればいいんだよ……お前を妹として守りたいのに、こんな気持ちが止まらない」


 机の上の原稿を見つめ、新作の妹キャラが碧純そのものであることに気づいた。


「もう逃げられないのか……」


 一方、真壁碧純はリビングで涙を拭い、決意を固めていた。


「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てくれるまで、諦めないよ」


 兄への愛は、兄妹を超えたものだと自覚していた。


 実の兄ではないと知った日から、基氏への気持ちは特別だった。


 翌朝、碧純はキッチンで朝食を作りながら、いつも通り声をかけた。


「お兄ちゃん、朝ご飯できたよ。出てきてよ」


「……うぃ~」


 疲れた顔で現れた基氏は、テーブルに座り、黙って味噌汁を啜った。


「お兄ちゃん、昨日、ちゃんと寝た?」


「寝てねえよ。お前が変なこと言うからだろ」


「変なことじゃないよ。私、本気だよ。お兄ちゃん、私のことどうしたいか、ちゃんと教えてよ」


「昨日言っただろ。抱きたいって」


「……ほんと?」


「あぁ。でも、それじゃ駄目なんだよ。お前は俺の妹なんだから」


 碧純は箸を置き、基氏をまっすぐ見つめた。


「お兄ちゃん、私、妹でもいいけど、女でもいたいよ。お兄ちゃんが私を抱きたいなら、それでいいよ」


「何!? お前、マジで頭おかしいのか!?」


「頭おかしいのはお兄ちゃんだよ。私、ずっとお兄ちゃんのこと好きだったんだから」


 基氏は目を閉じ、深呼吸した。


「碧純、俺、お前を傷つけたくないんだよ。こんな気持ち持つ俺が許せねえ」


「傷つけてもいいよ。お兄ちゃんになら、私、全部あげてもいいって言ったよね」


「……お前、そんなこと言うな。俺、我慢してるんだぞ」


「我慢しなくていいよ。お兄ちゃん、私のことちゃんと見てよ」


 空気が張り詰めた。


 基氏は立ち上がり、碧純に近づいた。


「お前、本気か?」


「うん、本気だよ。お兄ちゃん、私のこと女として見てくれるなら、それでいいよ」


 基氏の手が震えた。


 碧純の肩に触れ、彼女の瞳を見つめた。


「俺、お前を……」


 言葉が途切れ、基氏は碧純を抱き寄せた。


「お兄ちゃん……」


 碧純の声が震え、基氏の腕の中で涙が溢れた。


「俺、駄目な兄だよ。お前をこんな風に思っちまって」


「駄目じゃないよ。お兄ちゃん、私のこと好きなら、それでいいよ」


 二人はしばらく抱き合ったまま動かなかった。


 基氏の心の要石が崩れ、抑えていた欲望と愛情が溢れ出した。


 だが、その瞬間、基氏は我に返り、碧純を離した。


「駄目だ……こんなんじゃ、お前を壊す」


「お兄ちゃん、離さないでよ。私、壊れてもいいよ」


「良くねえよ! お前は大事な妹なんだよ!」


「お兄ちゃん、私、妹だけじゃ嫌だよ。お兄ちゃんの女になりたいよ」


 基氏は頭を抱え、部屋に逃げ込もうとした。


「お兄ちゃん、待ってよ!」


 碧純が追いかけ、ドアを叩いた。


「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てよ! 逃げないでよ!」


「……碧純、俺、時間くれ」


 ドア越しに呟いた言葉に、碧純は立ち止まった。


「時間って何? お兄ちゃん、私のこと嫌い?」


「嫌いじゃねえよ。大好きだよ。だから、考えさせてくれ」


「……分かったよ。でも、私、待ってるからね」


 碧純は涙を拭い、リビングに戻った。


 その日、基氏は原稿を放り出し、部屋で考え込んだ。


「お前を妹として守るか、女として愛するか……俺、どうしたいんだよ」


 過去の葛藤が甦った。


 碧純への欲望を抑えるため、実家を離れ、二次元に逃げ込んだ。


 だが、碧純がすぐそばにいる今、逃げ場はなかった。


 夕方、佳奈子からメッセージが届いた。


『基氏、碧純とどう? 仲良くしてる?』


「……仲良くしすぎてるよ、母さん」


 返信せず、基氏はスマートフォンを置いた。


 その夜、碧純は夕飯を作り、基氏を呼んだ。


「お兄ちゃん、ご飯できたよ。出てきてよ」


「……分かった」


 テーブルに座った基氏は、黙って食べ始めた。


「お兄ちゃん、私のこと考えてくれた?」


「あぁ、考えてたよ」


「どう思った?」


「……お前を女として見てるよ。昔からな」


 碧純の目が輝いた。


「ほんと?」


「あぁ。でも、それじゃ駄目なんだよ。俺、お前を傷つけたくない」


「傷つけてもいいよ。お兄ちゃん、私のこと好きなら、それでいいよ」


「好きだよ。妹としても、女としてもな」


「……お兄ちゃん」


 碧純が立ち上がり、基氏に近づいた。


「お兄ちゃん、私を抱いてよ」


「何!? お前、マジで言ってるのか!?」


「うん、マジだよ。お兄ちゃん、私のこと女として見てくれるなら、それでいいよ」


 基氏は目を閉じ、深く息を吐いた。


「碧純、俺、お前を大事にしたいよ。こんな気持ち持つ俺が許せねえけど、お前がそれでいいなら……」


「お兄ちゃん、私、嬉しいよ」


 碧純が基氏の手を握った。


 その瞬間、基氏の心の要石が完全に崩れた。


「お前、俺の大事な妹だよ。でも、女としても愛してる」


「お兄ちゃん、私もお兄ちゃんのこと愛してるよ」


 二人は見つめ合い、初めて異性としての距離を縮めた。


 基氏は碧純を抱きしめ、彼女の額にキスをした。


「お兄ちゃん……」


「碧純、俺、駄目な兄だな」


「駄目じゃないよ。お兄ちゃん、私のことちゃんと見てくれたから」


 その夜、二人の関係は新たな段階に進んだ。


 兄妹を超え、愛情と欲望が交錯する道へ。


 だが、その先に何が待つのか、二人はまだ知らなかった。

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