第3話 あなたたち、一体なんなの?

 私は腕を組んで二人を、正確には一人と一匹をじっと見つめて睨んでみた。


「……御影、あなたにはいろいろ聞きたいことがあるわ」

「……はい。何なりと」

「質問その1!なんで御影は魔法使いなの?」

「違うよ!御影くんは魔法・成人男性なの」


 ティンクのツッコミに私も御影も頭を抱えてため息をつく。


「質問の本質はそこではないでしょう」

「そうね。なぜ御影は魔法・成人男性の力を持っていたのかって質問だったわ」

「あ、そういうこと?それなら、多分6年くらい前に御影くんがマジカル・ワールドに迷い込んできた時に私が力を与えたんだ。そういうことね?」


 マジカル・ワールド、多分異世界のことだ。6年前……とすると、私が小学3年生くらいの時だ。御影はそんなに前から……?


「私ってば、なんでそんな長い間気づかなかったのかしら」

「深夜にマジカル・ワールドに行って早朝に帰ってきてますからね」

「え、行き帰りできるの?」


 御影は頷き、マジカル・ジュエルを取り出した。


「私は少し特殊でして、人間でありながら結界魔法が使える類の魔法使いなんです」

「てことは、普通人間には結界魔法が使えないってこと?」

「その通りです。なので、普通はあそこに迷い込んだら、この世界の私はです」


 終わり。自然と生唾を飲んだ。


 ティンクが話を続ける。


「結界魔法はね、普通はエルフの中でも選ばれし人、もしくは500年の修行をした人にしか使えないの。でも、御影は何か使えるんだよね。神様に選ばれたとかかなぁ」


 エルフ、神様 —— そういう存在もこの世界にいるのだろうか。いや、いるとしたらマジカル・ワールドだろうか。とにかく、御影が特別で、マジカル・ワールドとこの世界を行き来しているのは分かった。ん?待って ——


「とりあえず、分かったわ。じゃあさっきまでのを踏まえた上で、また質問するわね。質問その2!なんで御影は異世界を行き来しているの?」


「ああ、それは ——」

「それも簡単!御影はマジカル・ワールドでバウンティ・ハンターをしているからだよ!」


 御影の回答を待たずティンクが答える。彼はため息をついた。


「バウンティ・ハンター?何それ」


 御影は諦めたような顔で口を開く。


「……賞金首稼ぎのことです。賞金首、依頼されたターゲットの命を狩り、その報酬をもらう。そういう職業です」

「へぇ、なんかカッコいいわね」


 ティンクが羽を動かしながら、御影の肩の周りを一周する。


「でしょ〜?!御影ってば、こないだはSランクの魔物を討ち取って100万ゴールドを手に入れたのよ!」

「ひゃ……?!」


 あまりの額に声が出なくなってしまった。ゆ、夢がある。私もやってみたい……


「お嬢様の能力では、結界魔法が使えません」


 御影に思考を見透かされて、思わず口を尖らせる。


「あなたと一緒に行けばいいじゃないの」

「そう簡単でもありません」


 御影は私の目を見て話す。


「この世界とマジカル・ワールドの時間軸は完全に同期しているのです。つまるところ、放課後にマジカル・ワールドに行ったとしても、そこも夕方ということ」

「あ、それじゃあ寝る時間が……」

「勉強の時間の心配もしてください」


 あちらの世界の様子も気になるのだが、それはまだお預けってことか。


「そういえば、そもそもマジカル・ワールドで手に入れたものってこっちに持って来れるの?」

「もちろん!それであたしがここにいるの」

「あ、確かに。……ティンクは御影からこの世界の話を聞いていたの?」


 ティンクはこちらを向いて、頷く。


「そう!結構昔からね、この世界のことを御影に聞いてたの。それでどうしても我慢できなくって、ついに今日ついてきちゃった」


 浮いていて小さいティンク、話し方も身振りも可愛い。


「この世界には魔物どころか魔法、人間以外に会話できる種族もいないって聞いたんだけど……」


 そうだ。本来はそんなものこの世に存在しない。でも、そうじゃなかったら、今日私たちが出会ったアレは何だった?


「本来は、そうです」


 私が答えるより先に、御影が話す。


「そうね、魔法は迷信ってヤツよ」

「はい、この世界では魔法ではなく科学が発達していますね。しかし、今日のアレは魔物としか考えにくい」


 やはり御影もアレを魔物と捉えていた。


 魔物がマジカル・ワールドからこの世界に流れ込んできたのには理由があるはず。結界魔法が使えて、御影が自由に行き来できるなら、こういう可能性があるのではないだろうか。


「もしかして、御影が間違って連れてきたんじゃない?」


 御影は顎に手をやり、少しの間黙る。多分、ここ最近の自分の行動を振り返っているのだろう。


「そんなことないでしょ!御影くんはあっちから戻る時、ゴールドとジュエルとこっちの世界のもの以外、何も持って帰らないんだから」

「ゴールドは持って帰るのね」


 ならば、違いそうだ。


「……忘れているだけか気づいていないだけで、本当に小さな魔物が私に飛び乗ったのかもしれないです。しかし、あの魔物は女性が流した涙から出てきて、彼女を乗っ取った。こんな魔物は今までに見たことがありません」


 御影はだ。察しが良くて、所作の一つ一つが正確なのだ。その上、記憶力もいい。私が御影を信用しすぎているだけかもしれないけれど、前者の線は薄そう。そして、難関ダンジョンを攻略したって言ってたし、見たことない魔物はいるにしても少ないはず。ならば、御影がこっちに持ってきたっていう線は薄いかも。


「うーん、御影じゃないとしたら、どういうことなのかしら」

「それについて今考えても埒があきません。他にお聞きしたいことがあるのではないでしょうか。」

「……ま、そうね。これで最後の質問にするわ」

「質問責めの割には少なかったね〜」

「会話の中で大体分かったからね。質問その3!ティンクって何者?どういう存在なの?」

「えっ?う〜ん……」


 当の本人が悩んでいる。でも、妖精のアレコレって結構難しいのかな?私の疑問に答えたのは、御影だった。


「ティンクは、妖精 —— 人間に戦う力を与える者です」

「戦う力」


 意味を咀嚼するために、そのまま言葉を発音する。私にはオウム返しの癖がある。


「はい。今日、あなたも力を手に入れたでしょう?」

「そうね、少女・剣士……かっこいいわね、改めて考えてみると」


 そう、私は本物の薙刀を握った。上手く扱えていたかどうかは置いといて、真剣を握るだなんて、カッコ良すぎる。


「話を戻しましょう。私も、初めはティンクに力をもらいました。妖精たちは、人間に眠っている力 —— パッシブを引き出す能力を持つのです」

「なるほど。そのパッシブって世界線とか関係なく誰でも持ってるのね」

「誰でもってわけじゃないよ!」


 そのタイミングで、ティンクがやっと口をひらた。


「本当に、選ばれた人間にしかパッシブは現れない。宇宙によるけど、パッシブを持ってるのは大体10万人に3人くらいだって大賢者様が言ってた。マジカル・ワールドはそれが100人に3人だっけ?」

「10万分の3……私と御影がソレってこと?」

「そうだね!それに御影くんは結界魔法も使えるんだから、確率でケーサンするともうとんでもなくなるんじゃないかな?」

「うっひゃ〜〜、御影ってば、すごいじゃない」


 そう言っても、御影は顔色ひとつ変えない。いつも通り、冷たい表情だ。


「ま、ティンクはその妖精の一人ってことです」

「なるほど、理解したわ。他に聞くことも……特にないわね」

「これで質問責め終わり〜?」

「終わり!!」

「やった〜解放された」

「さっき少ないって言ったくせに……」

「あれ、そうだっけ?」


 この子、ちょっと忘れっぽい部分があるのかな。それを含めて可愛いのでいいんだけど。


 しかし、まだ解決していない疑問がある。なぜ魔物がこちらの世界に来たのだろうか、ということ。でも、調べようにも私はこの世界とマジカル・ワールドを行き来できない。


「御影、魔物がこっちにきた理由、調べてくれない?」

「了解しました」

「ただ、それを理由に迎えが遅れたら給料カットだからね!」

「……わかっております」


 そのあと、暫く雑談して程なく私の質問責めは終わった。


「私はこれにて。ティンク、あなたはどうしますか?お嬢様ともう少しお話ししますか?」

「え、いいの?!じゃあもうちょっとおしゃべりしよっかな」

「仕方ないなぁ、ちょっとだけよ」

「ちょっととは言わずにさぁ、ね?」

「では……失礼しました」


 御影が部屋から出ると、ティンクは早速私の目の前にきて、話しかけた。


「さて、杏里ちゃんだっけ?名前は御影くんから聞いてるよ」

「うん、私は西園寺杏里。よろしくね!」


 これから、ティンクとおしゃべりする。なんだかとてもワクワクした。

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