淡墨の深層 第二十六章 伯父さんの忠告
酔っぱらって帰って来て、いきなり……
「曲を作った……聴いてくれ。歌詞もできてる」
そう言って唄い出した、シンのバラッドに感心してしまった僕は……
「なるべく早く仕事見つけさせて、追い出すから」
と、あやさんへは約束していたにも拘らず……
引き続きその後も、シンを同居させたままだった。
そんなシンの……「割と良い曲を作れる」なんて一面が判ったところで……
普段の……酒癖の悪さや素行の悪さが直るはずもなく……
仕事も、口では「探している」とは言うものの……
見つかる気配もないままだった。
にも拘らず……
自分で飲み食いする分の予算は、何故かいつも持ってはいた。
「今の所持金が無くなったらアウト」
最初に言っていたストックは疾うに無くなっているはずなのに……
なにか、犯罪的なことに関わっていなければ良いが……。
そんなある日……
店はシフト休で、シンと一緒に部屋に居た僕だったが……
アパートへ……珍しく、シンへの訪問者。
その壮年の男性は……シンの伯父だと名乗っていた。
もう一人、連れの男性もいたが……関係は何も紹介されないまま、話が始まった。
シンからは第一声……
「俺がここに居るって、伯父さんがどうして知ってるんだよ?」
「そんなことは、調べれば判るんだ!」
訪問者は、伯父さんなのか。
そして……? 調べれば……?
そうか。連れの男性は……探偵か何かなのだろう。
伯父さんの話に拠れば……
シンの母親はその当時、鳥取県の旅館にて住み込みで働いていたが……
体調を崩してしまったので、シンに戻って来て欲しい……
そんな事情らしかった。
「だいたいお前は何故ここに住んでいるんだ⁉ 仕事は何をしているんだ⁉」
それに対してシンは……僕と出会った経緯や、今は求職中である旨を答えていたが……
最初から怒りモードだった伯父さんは、すぐさまブチ切れてしまい……
「お前は、またそんな嘘を!」
と言うや、シンを拳で殴りつけた。
しかも……何度も、何回も。
『求職中』との部分は、確かに僕から見ても疑わしかったが……
顔中を血だらけにされたシンを、放っておくわけにも行かず……
「やめて下さい!」
と、止めに入ったのだった。
「今、シンが言った説明は……全部本当です!」
『求職中』が疑わしい部分は、この際どうでも良かった。
「なんだとぉ! アンタもこの嘘つきの仲間か?」
「シンがどれだけ噓つきなのかは知りませんが、これ以上この部屋で暴力行為を続けるなら……警察を呼びますよ!」
「なにぃ⁉」
伯父さんの怒りは収まらないらしく……
僕はその連れの、探偵らしき人へ向き直って伝えた。
「カーペット……血がこんなに付いてしまいましたけど、どなたの責任でしょうかね?」
それからシンへも……
「シン、大丈夫か? 救急車呼ぶか? それと……被害届、出すか?」
それを聞いた、その『連れ』の方から伯父さんへは、耳打ちをするように……
「浅田さん……ここは一旦……」
「……ったく! シン! 伝えたからな! アンタも……こんなヤツを匿っていたら、ロクなことにならないぞ!」
と……捨て台詞の如き言い草で、怒りモードのまま去って行った伯父さんだった。
別にその……匿っているわけではなくて……バンドのメンバーだし、宿無しだと言うから同居させているだけなんですけど……。
その時はそう思っただけだったが……
伯父さんの最後の『忠告』は……
その後……本当に具現化してしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます