淡墨の深層 第二十四章 本当に…信用できるの?

 突然転がり込んで来たシン。

 その後……否、既に少しずつ狂い始めていた『何か』に……

 僕は未だ、気付いてもいなかった。


 僕が編集した店内BGMのヘヴィー・メタルで意気投合し、その日の内に飲みに行き……

 一緒にバンドを組もうと言う話へ発展すると当時に……

 シンは彼女にアパートを追い出されて、住むところが無いからしばらく泊めてくれとの話にもなったのだった。


 だがそれを、深く考えようともせず……安易に許したのはあくまでも僕だったのだから……

 すべてをシンのせいにするつもりもなかった。


 それから暫くは……シンとの『楽しい生活』……?

 悪く言えば……『怠惰な生活』とでも呼ぶのだろうか。


 それは……享楽と……反省と……言い訳とが…

 不規則なサイクルを繰り返しながら……

 後悔へと落ちてゆく姿だったのかもしれない。


 4月から一人暮らしを始めた僕にとっては『同居人がいる』という初めての状況だったが……

 年は一つ違い……同年代のメタル野郎同士、心を開ける『友達』ができたと……

 僕はむしろ、喜んでいたんだ。


 二人で飲んで騒いで……

 それまではツバキの二次会以外、どこかの居酒屋で飲むことなんて……

 お店の改装打ち上げの時くらい……仕事絡みくらいしか無かったが…

 そんなシンと、外へ出かけることも多くなった。


 しかし最初の一週間くらいで判ったこと、それは……

 シンは度を越すと、酒癖が非情に悪かった。


 居酒屋を出ても、通り道の酒屋やコンビニでウイスキーのポケ瓶を買い……

 ラッパ飲みしながら歩いていた。


「おら! れいも飲めよ!」


 などとボトルを渡されて……つい一口飲んでしまう、僕も僕だったが……

 酷かった時など……

 池袋の東口駅前広場に居た、20代後半くらいのスーツ5~6人……

 その中の一人に因縁をつけて、ケンカを売ろうとしたこともあった。

 一番体も大きい、体育会系を選んで。


 確かにその体育会系は、シンのことを見ていた。

 そこでシンが……「なに見てんだよ!」と、絡んでいく。


「やめろシン! ボトル持って大声出してりゃ、誰だって見るだろ! すいません。コイツ、酔っ払ってるもんで……謝ります!」


 そんな僕の声は虚しく……

 細身で身体の小さなシンは、たちまち体育会系に持ち上げられ……

 投げられそうになった手前で周りの仲間から……


「やめとけよ!」

「こんな奴、相手にすんな!」


 と、抑えられて……なんとか事なきを得た。


「大丈夫か? 怪我してないか?」

「ああ……まぁ……」

「まったく……いい加減にしろ! もう帰るぞ!」


 シンはその夜、いつの間にかいなくなり……

 次の朝も帰って来なかったが……

 このまま同居させておくことには、早くも疑問符だった。


 恋人であるあやさんと、同居人であるシンの『顔合わせ会』もしたが、あやさんからはその直後……


「あのシンて人、本当に……信用できるの?」


 そう言われてしまったんだ。

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