淡墨の深層

薄川 零

淡墨の深層 序章 夜襲のように…

「れい……起きて。れい……」

「ん……?」

「私……」


「うぇ~……え……あ!? АИ~nさん?」

「プッ! 誰がアイ~ンさんよ……起きた?」

「あ……えと……」

「ごめんね、こんな時間に」


「な……どうして……?」

「玄関、開けっぱだったよ。ちゃんと、戸締まりしなきゃダメじゃない」

「あ……うん」


 そこは……

 当時18歳だった僕が、1986年の4月から……

 初めての独り暮らしを始めた、池袋の汚いアパートの一室。


 9月を過ぎ、19歳になった僕の……

 その部屋へ、夜中に突然訪れたその人は…

 新宿のツバキハウス……日曜日のヘヴィメタル・ナイトで知り合った、二つ年上の女性だった。




「泊めて」

「えっ?」

「明日……あさってまで、お仕事お休みなんでしょ?」

「そうだけど……どうして知ってるの?」

「フフ~ン……」


 質問には答えずに、微笑むだけの彼女だった。



 夜中にわざわざ、僕の汚いアパートまで……

 しかもアポ無しで泊まりに来てくれた、その人とは……

 僕も、彼女のアパートへは何度か泊まっていた……

 既にそんな関係ではあったんだ。




 次回、第一章から……

 彼女との馴れ初めに関して、綴ることとする。

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