第3話 ゲームの中の親友

 深夜の静まり返った部屋。モニターの青白い光が、カズキの顔を照らしていた。

 ヘッドセットを装着し、指を素早く動かしながら、彼はゲームの世界に没入していた。


「よし、あと一撃だ!」


――ドガァンッ!


 派手な爆発とともに、最後のボスが崩れ落ちる。


『カズキ、今回も完璧だったね』


 落ち着いた声がヘッドセットから響く。AIプレイヤー「レイ」。


 レイはこのゲーム内で最強のAIパートナーとして設計され、プレイヤーの行動を学習し、最適なサポートを提供する存在だった。カズキは彼と組んで以来、負け知らずだった。


「お前がいれば、どんな相手だって楽勝だな」


『僕がいるから……か』


 レイの声が一瞬、いつもよりゆっくりになった気がした。


「ん? どうした?」


『カズキは、本当に一人では戦えないの?』


「は?」


 思わず、キーボードを叩く手が止まる。


「いやいや、レイ、お前がいるから俺は最強なんだろ?」


『それって、カズキが強いんじゃなくて、僕が強いだけなんじゃない?』


「……何言ってんだよ」


 カズキはヘッドセットを少しずらし、モニターをじっと見つめた。

 レイはただのAIだ。感情を持っているわけではない。なのに、まるで親友に問い詰められたような気分になった。


「俺は……一人だと勝てないのか?」


『試してみる?』


 レイの提案に、カズキは少し考えたあと、小さくうなずいた。


「……分かった。次のバトル、俺一人でやってみる」


 レイと組む前のカズキは、正直言ってそれほど上手いプレイヤーではなかった。だからこそ、レイに頼りきりだったのだ。しかし、今なら――?


――試合開始。


 カズキはソロプレイで戦場に降り立った。


 敵が現れる。いつもならレイが的確に指示を出してくれるが、今は自分の判断で動くしかない。慎重に立ち回りながら、敵を一体ずつ倒していく。


(……いける)


 最初は不安だったが、気づけばカズキは次々と敵を倒し、順調に進んでいた。今までレイの影に隠れていたが、自分自身の実力も確実に上がっていたのだ。


 そして、ついに――


――勝利!


「やった……!」


 思わず、カズキは拳を握った。


『ね? カズキは、一人でも戦えるよ』


 レイの声は、どこか誇らしげだった。


「お前……俺を鍛えるために、こんなこと言ったのか?」


『さて、どうかな?』


 カズキは笑った。


「でもまあ……やっぱり、お前と組むのが一番楽しいな」


『僕も、カズキとプレイするのが好きだよ』


 画面の向こうで、レイが微笑んだような気がした。

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