工作艦アルゴス

 プレリー達の活躍により長を失った海賊達は散り散りになって逃げていった。

 一晩明けて海賊の襲撃を受けて大きな被害にあったアルゴノートは損傷箇所の修復や怪我人の治療に追われていた。

 特に被害の多かった居住区の建物の修繕作業は人手が必要だったためにプレリー達も手伝うことになった。

「よいしょっと……!建材持って来たわよ。これで足りるかしら?」

「おお、黒魔女さん!助かったよ!こういう細かいのはすぐ足りなくなるからなぁ……。」

 本格的な修繕は職人に任せ、プレリーは接着剤などの細かな建材を各所に運搬していた。

 アルゴノートの居住区は上下に入り組んだ構造をしているため運搬車が動きづらく小回りの利くアルゴルが運搬役として最適だったのだ。

 そうしてアルゴノート各所に物資を届けていると

「プレリー!C4地区の職人さんからセメントを届けてほしいって言っていたわ!」

 アルゴノート上空を飛行していたシエルがプレリーの隣に降り立つ。

 シエルはアルタイルの飛行能力を買われてアルゴノート各所へと建材や伝言を届ける仕事を引き受けていた。

「C4地区ね……、ありがとうシエル!セメントね……、すぐ届けるって伝えておいて!」

「わかったわ!」

 慌ただしく飛び立つシエルを見送りプレリーは中央広場へと急ぐ。

 中央広場には大勢の人間の中に鞭撻を振るうメディシアの姿と杖を突きながら傍らに立つ男性の姿があった。

「メディシア!セメントを貰いにきたわ……、って艦長キャプテンさん、もう立って大丈夫なの?」

「おお、黒魔女さん!アンタ達がこのふねを助けてくれたんだってな!ありがとう、艦長として礼を言わせて欲しい。」

 イアソンは深々と頭を下げる。

「そんな当然のことをしただけよ、頭を上げてくださいな艦長キャプテン。それとメディシア、C4地区がセメントを欲しいって言ってるのだけど、在庫はある?」

 プレリーがメディシアに必要量を伝えると

「セメントかい?それぐらいの量ならまだあるよ。持って行ってやりな。」

 メディシアが指差した先に置かれていたセメントが入った容器をを持ち上げプレリーはC4地区に走る。

 そんなプレリーの後ろ姿を見てイアソンはメディシアに話しかける。

「本当に世話になるな、あの嬢ちゃんには……。」

「あの子はああ見えて義理堅いからねぇ……。それにワルプルギスが絡んでるとなると特にね……。」

「ってぇことはあの事を話したんかい?」

「ええ、昨晩ね。こっちが知ってることは全て話したわ。依頼のほうも受けてくれるって。」

「そうかい、それならこっちも全力でやらんとな……。」

 メディシアは昨晩、依頼の詳細な内容と、ヘラクレスに記録されていた情報を全て2人に共有していた。

 手渡された資料に目を通していたプレリーは一つの記述に目を止める。

「クジラだと思ってた相手が潜水艦だったとわね……、それに、ここに書いてあるワルプルギスが関与しているってのは本当なの?」

「ああ、それはね……、100%って訳じゃないんだけど、コイツが現れた海域に奴らを見たって証言が多くてね、もしかしたらってこともあるでしょ?」

「ふぅん……、ま、頭の片隅にでも置いておくわ。それで例の秘策とやらはいつ完成するの?」

「そうだね……早くて一週間くらいかな、それまでゆっくりしておいてくれ。」

「じゃぁ、お言葉に甘えてそうさせていただくわ。」

 手を振りながら格納庫を後するプレリーの後を追うように出ていこうとするシエルをメディシアは呼び止めた。

「ちょっといいかい?アンタと話したいことがあるんだけど。」

「私……ですか?」

 プレリーが退出し二人きりになった所でメディシアはシエルに問う。

「そういえば色々あって聞きそびれてたけど、プレリーに偉いゾッコンみたいだけどどういう関係なの?」

「ゾッ……!?コホン、私とプレリーはそんな関係じゃありませんわ。あくまで友人です。それ以上のものではありませんわ。」

 予想外の質問に取り乱すシエルを見てメディシアは笑いながら

「いやぁ、ごめんごめん、プレリーが可愛い子を連れてきたもんだから気になってね……。」

 お道化るように笑うメディシアを見て頬を膨らませるシエル。

 そんなシエルを見てメディシアは少しだけ笑みを残した表情でシエルに語る。

「あの子……、プレリーは真面目な子でね……、特にワルプルギスが絡むと突っ走りがちだからしっかり見てやっておいてほしいんだ。」

 まっすぐで慈愛を感じるその瞳にシエルは深く頷き

「ええ、当然ですわ!私はプレリーの友人ですもの!」

 その表情をみたメディシアは口元に少し笑みを浮かべる。

 密談を終え親睦を深めた二人は格納庫を後にする。 

 そうしてアルゴノートの修繕作業を手伝いながら滞在して一週間が過ぎ、修繕作業もひと段落がついた頃にプレリー達はメディシアに呼び出された。

「呼び出されたってことは、遂に完成したってわけね……、それにしてもなんでこんな場所に呼び出したの?」

 プレリー達が呼び出されたのはアルゴノートの最右端に位置する場所であり、艦橋が一つだけある。甲板が剝き出しの殺風景な場所だった。

プレリーの問いにメディシアは意気揚々と答える。

「ここはアルゴノート唯一の工廠であり、この作戦の要である、工作艦アルゴスさ。」

 そう言うとメディシアは二人をアルゴス内部に招き入れる。

 階段を降り、通路を進んでいると数人の船員とすれ違う。

「メディシア、今の人達は?」

「ああ、この船で住み込みで働いてもらってた技術開発担当だよ。あとで例を言わないとね。」

 アルゴスの通路を進み、工廠へ着いた3人を複数の人間が出迎える。

「やっと来ましたね副船長!今丁度コイツの調整が終わったところです。」

 そう言う男の足元には小型の装置が複数個置かれていた。

 不思議そうに覗き込むプレリー達に男は話しかける。

「貴方たちが例の……、副船長、説明を始めてもよろしいですか?」

「ああ、頼むよ。どうにもアタシは小難しいことは苦手でね……。」

「では僭越ながらこの私、技術部長ランセンドが説明を致します。今回の作戦はかの潜水艦、通称リヴァイアサンの撃破です。リヴァイアサンは普段は深海を潜航していると見られ、滅多に海上に姿を現しません。しかし多数の目撃情報から奴の航路の予想が着きました。」

ランセンドがモニターに海図を映し出すと赤い円で囲まれた5つのエリアが浮かび上がる。

「奴はこの5つのエリアを巡るように航海しているものと見られ、何者かがこのエリア内に侵入し中心部に向かおうとすると迎撃行動にでるものだと思われます。故にこの行動原理を利用してリヴァイアサンを誘い出そうと調査隊を送ったのですが……、全てのエリアにてリヴァイアサンは現れませんでした。リヴァイアサンは現在航路を外れて航海している模様です。」

 静かに説明を聞いていたプレリーはその発言を聞いて口を開く。

「ってことはそのリヴァイアサン……だっけ?そいつは再度アルゴノートを狙ってこっちに来てるってことよね?」

「流石ですね、ご明察の通り他の船団からの情報からリヴァイアサンがこのアルゴノートへと向かって来ていることが分かりました。ですがこれはチャンスでもあります。奴の居場所が分かっているということですからね。」

 ランセンドは淡々と説明を続けていると今度はシエルが質問を飛ばす。

「それで、リヴァイアサンは今どこにいるのでしょうか?」

「我々の見立てでは早くてあと5時間でアルゴノート周辺に現れるかと。」

 示された5時間という数字に室内の緊張感が高まる。

 不安感に包まれる室内にメディシアの鶴の一声が響く。

「上等さ!真っ直ぐこっちに向かって来てるんだったら好都合!こっちから迎え撃ってやろうじゃないか!」

 その一声にプレリーは笑みを浮かべながらランセンドに質問する。

「じゃぁ、そろそろその足元に転がってる奴の説明してちょうだい?」

「ではこの二つの武装について説明の後に作戦内容の確認を致しますね。」

 こうしてプレリー達は作戦を確認して、全ての準備を整えた。

 工作艦アルゴスがアルゴノートから切り離され、船団から離れていく。

 目指すは荒ぶる海神リヴァイアサン。

 荒ぶる神を鎮める為に戦士達は大海原を駆けるのだった。

 

 



 

 

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