3節「返事をくれるまで、目をそらさない」

 あの日。

 アカリに告白されてから、俺はちゃんと目を見て、答えられていなかった。


「ごめん、いきなりだったから……少しだけ、考える時間が欲しい」


 そう言って、俺は逃げた。

 けれど――もう“考えるだけ”じゃ済まないところまで、来てしまっていた。

 メイのあの抱擁。

 彼女が見せた、あんなにも人間らしい感情。

 ――俺は、誰も傷つけずに終われる恋なんて、幻想だと思い知った。

 そして今日、校舎裏の静かな中庭で、俺はアカリと再会した。

 春の光。

 咲きかけの花。

 それでも、彼女の瞳はまっすぐだった。


「ねえ、ユウト」

「……うん」

「ちゃんと……考えてくれた?」

「……ああ」


 俺は、少しだけうつむく。言葉が喉につかえて、うまく出てこない。

 でも、アカリは一歩、俺に近づいて言った。


「返事をくれるまで、私、目をそらさないから」


 真剣な瞳。

 あの日、涙をこらえて笑っていたアカリとは違う。

 もう、覚悟を決めた目だった。


「アカリ……」

「私はずっと、ユウトのそばにいた。でも、“当たり前”になりすぎて、伝える勇気がなかった。

だけど今は違う。メイちゃんがあなたを奪っていくのを、ただ見てるだけなんて――もう、できないから」


 風が吹く。

 髪がなびいて、彼女の瞳が光を反射する。

 心が締めつけられる。


「ユウト。……私のこと、ちゃんと“恋愛対象”として見てくれてる?」

「……それは……」


 その瞬間――

 ポケットの中のスマホがブルッと震えた。


 《恋愛AIアプリからの通知:選択期限まで残り48時間》

 《現在、攻略対象が複数存在しています。選択されないヒロインのルートは、自動終了処理されます》

 《ご注意:ルート終了後は、記憶の上書きが発生する可能性があります》


(……記憶の上書き? 自動終了?)


 この恋は、“期限付きの幻想”なのか――?

 それとも、期限の中で本物にすることができるのか。

 俺は、アカリの手を、そっと取った。


「アカリ……もう少しだけ、待ってくれ。中途半端な気持ちじゃ、君に返事したくない」

「……うん。でも、待ってるだけじゃなくて――私も、もっと“好き”を伝えるからね」


 そう言って微笑んだ彼女の顔は、

 たぶん、今まででいちばん可愛かった。


 《アカリ好感度:85% → 91%(恋愛確定圏突入)》

 《新フラグ発生:記憶操作システム・ルート選択タイマー》

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