疑心暗鬼

 サインとカヤが扉から出てくると、そこには調査団とシン、そして聴衆がいた。サインはそれを視認するとその場で立膝をつき調査の内容を話しだした。


 「私達調査団は未知の国、サウンドラ王国ならびに大和のあった大地へと赴き、調査を行いました。しかし1週間の猶予の内手掛かりを掴めたのが本日だけでした。そこで分かった事が二つあります。一つ目はサウンドラ王国の王女、カヤがこの真っ平な大地を形成した事。二つ目は魔法という科学では説明のつかない術を使って生活していた事を私の隣にいる少女、カヤが説明してくれた事です。今回の調査期間ではサウンドラ王国のたった一部の歴史を知る事すら叶わなかったですが、今後の各国の動きに重点を置いて調査を進めたいと思います。私からは以上です。」


 その場にいた調査団、大統領を除く全ての人間がサインの言葉を聞き、驚いていた。国消滅事件の犯人がサインの隣にいることに。それだけで恐怖に支配され、ざわつく聴衆たち。するとシンが口を開いた。


 「皆のもの。彼女は私たちの大切な国民を救ってくれた。未知の土地に行くという任務をサイン率いる調査団が快く引き受けてくれたのだ。まずは彼らに盛大な拍手を。そして恐怖する気持ちも分かるが、カヤの話を聞いてほしい。彼女が我が調査団に迫っていたブルと思われる戦闘機をたった一人で討ち破った事に。救ってくれたのだ。それだけで十分だろう。」


 大統領は聴衆に対して淡々と言葉をかける。しかし、それでもシンの言葉を信じ切れない聴衆。するとカヤが前に出て語りだした。


 「私、カヤ・サウンドラはサウンドラ王国王女です。5千年もの間大和以外の国との外交を絶ち、自国の文化を壊さないようにしてきました。私は空間を操る魔法、禁術魔法を得意とする魔法使いです。しかし、崩壊寸前だった大和の軍勢に襲われ恐怖のあまり私の中に眠る魔力が暴走して、二つの国が消滅したのです。」


 5歳とは思えない言葉を巧みに使いこなしたカヤ。この数百人、いやセキト国民も中継で見ている中ではっきりと真実を言うカヤに対し、サインはただただ驚いていた。しかしその言葉でさらに膨れ上がる聴衆の恐怖心。この国も滅ぼすのではないかと冷や汗をかく。この疑心暗鬼を解くにはカヤ自身が有益なものを提供するほかなかった。


 「カヤ。あの透明な剣をまた出せるか?」


 「えっ?」


 サインは何故かカヤに剣を皆にみせるよう促す。なぜか分からない様子のカヤだったが、シンの方に目をやるとシン自身もただ頷いていた。


 「…分かりました。私の唯一の魔法をお見せします。」


 カヤは深呼吸をし、目を瞑りながら魔力を腕に集中させる。すると彼女の周りを白い光が纏っていき、詠唱をしている間誰もがカヤに意識を向け科学では説明つかない謎の術に見入っていた。そしてカヤの右手に透明な剣が宿る。


 「これは私の攻撃魔法”無明剣”といいます。この術は祖国サウンドラ王国の初代国王が天災から民衆を守るために使われたものなのです。私のはまだ不完全ですが…。」


 その剣は初代国王から受け継がれた古の術。それはとても美しかったが磁場が発生しているのか周囲の空気が揺れ、恐怖を植えつけるには十分すぎるものだった。しかし、困惑する聴衆に対しカヤはさらに言葉を続ける。


 「私はサインさんたち調査団をこの剣で守りました。こんな危険な存在である私に手を差し伸べてくれた調査団、いやこの国を天災から守りたいのです。だから私をどうかこの地に置いてくれませんか!!」


 その瞬間静寂が訪れる。聴衆はどうしても彼女を受け入れきれなかった。真っ平の大地を生成した張本人をこの国に入れたくなかったのだ。そんな静かな空間でたった一人、シンのとなりにいた15歳くらいの金髪の少女がカヤの元へと駆け寄る。


 「こらカノン!勝手に動くな!!」


 シンは自身の娘、カノンを止めようとする。しかし、カノンは聞く耳をたてずカヤの元へと辿り着き、カヤの手を取った。


 「ねえ君!その魔法…?をもっとみせてよ!どうやっているの?気になるな!!」


 「全く…。私の娘はこれだから…。」


 カノンはシンの娘であり、世界中の珍しいものに興味を持つ子だった。そのため魔法は彼女にとって好奇心を揺さぶるものだったのだ。カヤはただ困惑していたが、その興味を向けている一人の少女に内心ほっとしていた。


 「えっと、その、私はまだこの剣しか生成できなくて…。」


 「その剣は切れ味すごいの?どうやって生み出したの?」


 さらにカヤに詰め寄るカノン。その様子を見たシンはこれじゃあ埒があかないと考え、ある提案をする。それは自国の国衛隊に所属しないか?というものだった。


 「カヤよ。君は今私たちの国を守りたいと言った。ならば国衛隊でこの国の生き方を学ばないか?国衛隊は簡単に言ってしまえば軍隊。しかし、それは周辺国に攻撃をしかけるためにあるわけではない。自国を守る為にあるのだ。国民よ、これなら納得するだろう?」


 大統領の提案。それは国民にとって不安を煽るものだった。しかし、今この状態を抜けるにはシンの言葉を信じるしかなかった。


 「シン大統領。カヤはまだ5歳です!国衛隊の入隊条件は10歳以上の健康良好な者のみです!まずはカヤ自身の持つ魔法を極める方が吉ではないでしょうか?」


 サインは焦る。危険な場所にカヤを送るとパニックで魔法が暴発してしまうだろうと考えたからだ。そんな言葉に頭を悩ませるシン。


 「…分かった。ならばサイン、そして今回サウンドラ王国に向かった調査団の中の学者たちから代表で一人ずつ、そしてカノン…。君達にカヤを任せよう。彼女と接点のある君達なら国民も安心するはずだ。あと、カノン。お前は私がなに言っても意見を曲げなそうだから、カヤたちについていけ。」


 「いいの!!お父さんありがとう!!」


 カノンは喜び、カヤによろしくねと挨拶をした。カヤはただ頷き、シンの言葉にしたがった。


 「だが、カヤにはもう一つしてもらわないとならない事がある。それは私と共に、国際緊急会議に参加してもらう事。この事は他国にも知らせないといけない。魔法を使える人間は君以外にいないからな。」


 「はい。分かりました。」


 そしてその場はお開きとなった。


・・・


 カヤはシンと二人で話していた。


 「シン大統領。私は貴方方に利用される存在になるだろうと思っていました。どうして私に自由をくれたのですか。」


 「それは今の世界情勢に関係している。とある砂漠の国では奴隷制度という恐ろしい制度がある。それはその土地の民をまるで家畜のように扱い自由を奪う制度だ。カヤは今の世界にとって特別な存在。もし私が君を受け入れなかったら最悪解剖されていただろう。だからこそ大国である我が国セキトが受け入れるのが吉だと考えた。それに私は人が好きだ。たった今セキトの国民となった君は、自由に生きる権利があるだろうと考えた。それだけの理由だ。」


 「シン大統領は私のお父様に似ています。私のお父様も国民を第一に考えていました。サウンドラ王国はその土地柄、天災が多かった。飢饉もよく起きていた。それでもお父様は国民を見捨てる事がなかったのです。その姿に憧れていた私でしたが、私の魔法は未知数。こんなに簡単に壊れると思わなかったのです。」


 この時カヤの手は震えていた。しかしカヤはそれでも前に進む決心があった。


 「カヤ。過去は変えられない。だがその気持ちを持ち続ける事は大切であり、それがこれから先の未来を支えてくれるだろう。サインたちと共に魔法の勉強に励み、自身の力を制御できるようになるよう頑張れ。私も間接的ではあるが支援する。」


 「ありがとうございます。」


 明日は国際緊急会議。カヤは初めて外部の人間と関わる事となる。

 

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