11-2. 雪の中で踊れ
雪の降る音。
降り積もった柔い雪の上に、また積もる雪片。雨音とは違う、静かな閉塞感。
「どう、しました?」
梟が声を荒げたのを見たみちるは、即座に尋ねる。
梟は視線を窓の方へ向ける。その眼差しは、鋭く冷たい。
「……来た」
掠れた声で、そう呟いたみちるは眉根を寄せ、梟を見た。
梟は足音を消しながら、キッチンへ向かう。
キッチンには、アニエロのところから持ってきた銃器が置いてある。
みちるは梟の隣に陣取る。
一瞬の静寂。
そして、窓と玄関の方向から、銃弾が撃ち込まれる。それは、梟がサブマシンガンを撃つのと同時だ。
みちるは
襲撃者たちに対し、弾切れまで撃ち込む音は、静かな雪の夜を騒がしくしていく。
「あなたを生け捕りにしようって感じじゃない!」
撃ちながら、みちるは声を張り上げる。頬を弾が掠めていって、血が跳ねた。
「俺が死体になっても、それなりに意味はあるんだろうな」
みちるが撃ち続けている間に、梟は弾倉を装填し直す。
窓枠に積もった雪に、襲撃者たちの血が飛んだのが見えた。
「だからって、黙って殺されるつもりはないでしょ?」
そう言って、みちるは口元に笑みを浮かべる。
「当たり前だ」
梟のサブマシンガンが、また弾丸を外へ放つ。
何度も、外と内側から弾丸に晒された壁には、無惨な穴が開き始めている。
「じゃあ、追われる覚悟を決めましょう」
「元からそのつもりだった」
襲撃者の銃撃が止む。
一瞬ではなく、ある瞬間からぴたりと止まっていた。
みちるは気配を殺して、玄関の壁際に身体を寄せた。襲撃者に、すぐ反応できる位置だ。
足音が雪を踏む音と、装備の擦れる音が、耳を澄ましていると聞こえてくる。ドアの前で、衣擦れの音がした。仲間内でハンドサインでも送っているのだろうか。
玄関の向こうにいるのは、三人。
一人目が、足でドアを蹴破る。
そのタイミングで、みちるは壁を蹴り、体を回転させる。
そして、一人目の頭上を飛び越えた。
「はじめまして、こんばんは。そして」
一人目の背後に着地したみちるは、左手に握ったナイフで、その背中を一突きする。
「さようなら」
みちるの右手の
みちるが、突入してきた襲撃者を仕留めていった脇で、梟は、装填し直したアサルトライフルを構えながら窓際へにじり寄る。
梟のくたびれたミリタリーブーツが、割れた窓ガラスを踏む。
ガラスが粉々に割れる、甲高い音が一瞬響く。
大粒の雪が降る景色の中、地面に辿り着けずに、雪が空中で止まっている――ように見える場所が、ちらほらとある。
どれだけ目眩しをしようと、そこに「
――ここに、いる。
割れた窓ガラスから銃口をわずかに出し、窓の外にいる襲撃者を狙い撃つ。
みちるはドアのそばの壁に身を寄せ、息を潜める。
襲撃者が踏み込んでくるタイミングで、照準を定める。
次の瞬間、頭を撃ち抜く。
相手に引き金を引かせる前に、みちるが先に撃つ。
梟の指先が、引き金から離れる。
それは、みちるが、ドアから入ろうとした最後の襲撃者の首をナイフで掻き切った瞬間と、同時だった。
先ほどまでの銃声が嘘のように、静まり返っている。
暗い部屋の中、空から降ってくる雪の音だけが、聞こえる。
みちるが、荒い息を吐く。その吐息が聞き取れるほど、雪の音しかしない世界は静かだ。
みちるの息が乱れているのは、襲撃者の攻撃に手を焼いたからではなく、この不穏な事態に動揺しているからに他ならない。
落ち着け、と声をかけようとした梟だったが、そこでスマートフォンのバイブレーションが鳴る。
みちるの視線が梟を見る。梟は、画面を一瞬見た後、スマートフォンを耳に当てる。
「誰だ」
そう尋ねた梟の声音が、ただ苛立っているのとは違い、少しだけ緊張感が緩んでいる。
それを聞き取ったみちるは、電話の内容に耳を澄ませる。
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