第18話 新入生探し

「…よし、これで大体地図は完成したかな」

「迷路になる魔導院をこんなに分かりやすくするなんて...!ノアくん凄いね!」

「あ、ノア。ここ隠し部屋あるぞ」

「本当だ。忘れてた」

「あ!このカフェの場所にオススメメニュー書いてもいい?」

「う、うん、いいと思うよ」


追加で記入をしていき、漸く完成した地図を黒板の前で難しそうな本を読んでいるヒスイに渡すと今回の入学生分と自分たちの分を複製してくれた。

魔法を学んだらこういうことも出来るのか…とじっと見ているルクヴェスに気づいたのか、彼は地図を渡しながら告げる。


「君もしっかり学んでいけばきっと出来るよ」

「本当か?」

「うん」


そっか…、と少し嬉しそうなルクヴェスはその後ノア達の元に戻っていった。

彼らももらった通信機の説明書を見ながら試行錯誤を試している。

自身の受け取った通信機を取り出し、同じく使い方をみてみることにした。




「それじゃあ、担当場所を決めようぜ!」

「そうですね!まずは見つけてから合流します~?」


ゼクスとエイルの言葉で生徒たちは集まる。

去年のフェリチータ達は二手に分かれて各自見つけ次第合流し、そして全員で行動していた。


「けど、途中からルクヴェスいなくなったよな?」

「あーまあ、ちょっと色々見てた」

「ノアくんも途中で迷子になってたね!」

「あはは…気になったものが多くてついね」


ノイズとメノウの言う通り、ルクヴェスとノアは別行動をしていた。

今回の生徒も性格によっては勝手に行動する者もいるだろう。ならば…


「んーだったら見つけ次第その子を案内するとかはどうですか~?」

「それ面白そう!」


エイルの提案にルナはキラキラした目で賛同する。

確かにそれなら情報共有するのは誰が何人対応しているか分かるだけでいいだろう。

何より人によって案内の仕方は変わることから効率が良さそうだ。


「いいね、一応ペアを決めて案内していこう」

「エイルくんノイノイがサボらないように見ておきますね!」

「げっ、だ、大丈夫だって!おれちゃんとやる時はやる男だぜ?」

「そー言っていつも授業中音楽つくってるじゃないですか~!」


皆が各々提案していると、それまでずっと聞いているだけだったルクヴェスはなあ、と声を上げた。


「最後は、あの人達が連れてってくれたあの場所で合流するのはどうだ?…あそこは、みんなで見たいなって」


皆がルクヴェスをじっと見ている。何か悪い事言ったか?と思ったが、次の瞬間ノアが口を開いた。


「いいね、あの場所は僕も好きだよ。区切りをつけるのにいい場所だし、最後にみんなで合流するの良いと思う」

「確かに!他の生徒さんの姿も見たいしルクくんの提案にさんせーい!」

「わたしも異議なしー!」

「エイルくんも賛成ですー!」

「おれもいいと思うぜ!」


皆の反応に、ルクヴェスは少し口角が上がった。嬉しそうにしている彼の隣に立っていたノアは同じく笑みを浮かべる。


「新入生さんもきっと気に入ってくれると思うよ」

「…だと、いいな」

「あ、ルクは僕とペアだけど気分転換に散歩してても大丈夫だよ」

「え、いいのかよ」

「うん。案内位一人でも出来るし。最後に合流できれば誤魔化せるよ」


クスクスと悪戯気に微笑むノアにルクヴェスは相変わらず自分に優しいな…と思ってしまった。彼の提案に頷くと、丁度魔導院の鐘が鳴った。


「はい、それじゃあきっと入学生達も準備が終わった事だろうからみんな頑張ってね」

「よっしゃ!見つけるぞー!」

「あっ!待ってください~!」

「私たちも行こう!メノウ!」

「うん!行こうー!」


パタパタと各自教室を後にする皆を眺め、ノアとルクヴェスも共に行こうかと話しかける。

ヒスイにお辞儀をして出ようとすると、今度は彼から呼び止められた。


「ルクヴェスくん、あまりお昼寝し過ぎると涎の跡がつくからね」

「え…」

「ふふ、冗談だよ。ノアくん、ルクヴェスくんをあまり甘やかしすぎないんだよ?」

「…勿論ですよ」


まさか聞こえてたのだろうか?何て些細な事だが冷や汗をかいたがどうにか抜け出せた。

二人はとりあえず庭園に向かっていくと、ルクヴェスは恐る恐る話始める。


「ヒスイって地獄耳なのか?」

「うーん、多分?」

「仮面越しだから怒ってるのか分かんないんだよな…」

「ふふ、ルクでも怯える者があるんだね」

「おれを何だと思ってるんだよ」


むう、と片方だけ頬を膨らませる彼に、ノアは火に油を注ぐように笑いだす。

一年共に過ごすと最初は大人しい奴だと思っていたが、実際はとても優しくそしてルクヴェスのやりたいことを尊重してくれる。話しやすさからも、今ではとても仲良くなれていると思う。


「じゃあルク、とりあえず夕方ごろには”あの場所”に来てね」

「…やっぱ俺も案内手伝うことにする」

「ふふ、じゃあもし見つけたら連絡して」


急な意見の変更に特に怒りもせず、ノアは笑顔で返し別行動することにした。


…時刻はあの頃と同じくお昼時。


きっと新入生はお昼ご飯を食べているだろう。頭の中でそう考えていると、自分のお腹も反応を見せてきた。まずは腹ごしらえからだ。気分的に今日は購買で買って庭で食べたい。

選んだのはその場で用意した温かいスクランブルエッグとこのイディナローク魔導院で栽培している野菜たちを挟んだタマゴサンドだ。これは最近のルクヴェスのお気に入りのメニューの一つでもあり、クラスメイトにも人気を得ている。

庭園に着き、空いたベンチでサンドイッチを開け口に含んでいると、何か既視感のある視線を感じる。


無言で向いてみると、数時間前に見たぬいぐるみを抱えたロコが恐る恐るルクヴェスを見つめていた。数秒間固まった末、自身の耳元につけていた発信器にスイッチを入れる。


「あー、俺。…一人新入生見つけた」

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