第20話 偽りのヒロインによる心からの謝罪

 家に帰って制服のままベッドに転がる。

 ため息をつきながら、校長室での話を振り返る。


 やはり、百目鬼コノハは俺が手を下さなくても自然と堕ちていくだろう。

 学校側がコノハの罪を認め、山口家が大事おおごとにしてくれているから。もし満足がいかない処罰なら、後から俺がガソリンを撒いてやることもできる。


 なら堕ちたコノハと山口を使って、どう二条を陥れるか。

 録音放送の初撃の傷が癒えぬうちに追撃といきたいが。


「ソウちゃん、ごはんよ〜」


 部屋の外から母さんの声がした。





 母さんと二人で晩飯を食べていると、チャイムが鳴った。

 また山口だったりして。なんて期待しつつ玄関扉を開けてみれば、中年の男女が立っていた。


「荒川ソウイチくんのお宅で間違いないでしょうか」


「えっと、そちらは?」


「わたくし共は……」


 百目鬼コノハの両親であった。






「この度は私どもの娘がご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」


 玄関先で土下座をして、やつが俺から奪った18万を封筒に入れて渡してきた。

 当のコノハ本人がいないのだけどね。


 しかし意外だな、てっきりコノハに似たタイプの性格かと予想していたんだが。

 両親が何度もペコペコと頭を下げる。


 困った。俺が謝られる立場なのは間違いないが、この人たちに土下座されても気分がいいもんじゃない。


「あー、えっと、頭を上げてください。コノハさんは?」


「あのバカ娘は……」


 父方が一旦その場から離れる。

 近くに停めてあった白いSUVのスライドドアを開けて、娘を強引に引き摺り下ろした。


「いたいっ!! やめろ!! 離せよ!!」


 百目鬼コノハが俺の眼前に連行される。

 充血した眼で、俺を睨む。


「コノハ、いい加減に謝りなさい!!」


「なんで!? 私なんも悪いことしてないもん。あの音声だって私の声じゃないし」


「まだそんなこと言ってるのか!! どうして素直にごめんなさいができないんだ!! 自分がしたことがまだ理解できないのか!!」


 本当だね。

 往生際の悪いやつだ。

 おそらく山口の家族にも同じような対応をしたな。


「コノハの声じゃないって? ならちゃんとしたところで調べてもらおうか」


「はぁ!? 私の声だとしても無理やりお前に言わされたんだよ!!」


 論理がめちゃくちゃだな。

 逆にこっちの日本語能力がおかしいのかと思えてくる。


「ならすべての判断は法廷に委ねよう」


「へ?」


「それとも世間様に判断してもらうか? 俺は別に構わないぜ、あとで訴訟されようとな」


「なに言ってんの?」


「お前の顔写真と名前と住所とあの音声を全部拡散してやってもいいってことだよ」


「そ、そんなことしたら訴えてやる!!」


「だから、その覚悟ならあるって言ってんじゃん」


「うっ……」


 嘘だけどね。

 いや、コノハの態度次第かな。


 と、コノハの母親が泣き崩れた。


「それだけはどうか、どうかお許しください。この子は、まだ子供なんです」


 子供だからってして良いことと悪いことがある。

 相応の罰を受ける必要だってある。


 泣き縋る母を横目に、コノハは苦々しそうに歯を食いしばった。


「みっともないことしないでよ」


「あんたのせいでこうなったんでしょ!? もうおじいちゃんだって長くないのに、余計な心配かけたら可哀想でしょ!!」


 うわー。

 生々しいな。


 グレた娘と苦労する親。

 他人の家の揉め事って、どうも耳を塞ぎたくなる。


「山口の家はなんて?」


 コノハ父が答える。


「山口さんのお宅は雑誌記者ですので、今回の件を週刊誌で報じると仰っておりました」


「あらら」


「しかし、なぜかつい先ほど、保留にすると……」


「ん? なんでです? 示談金でも払いました?」


「い、いえ、そんなことはしてません」


 ではどうして。

 何か事情があるんだろうけど。

 記事にしてマズいことでもあったのか?


「お子さんの五郎くんが、やめるよう言ったとかで」


 何故だ。

 いつか他のマスコミに自分のことも晒されると恐れたか?

 まさかまた内申に関わるとか抜かすんじゃなかろうな。


 うーん、またあいつに会って話をしないとだな。

 あいつも二条やコノハに復讐したがっているはずだし、臆させてたまるか。


「てことなら、俺が報じないとっすね。ネットで。どうすんだよ、コノハ」


「……」


「黙ってんなよ。ほら、どうすんだ」


 コノハが涙目になる。

 そして、


「やめて」


「なにを」


「謝るから、やめて」


 ほう、必死な母親を見て心が折れたか。

 意外と家族思いなのかもな。

 家族にだけ優しいのもどうかと思うが。


「謝るわよ。謝ればいいんでしょ」


「上からな態度だな」


「あ、謝らせてください」


「どうぞどうぞ」


 コノハが両膝をつく。

 スマホを取り出し、ビデオ撮影を開始する。


「撮らないでよ」


「黙れ」


「くっ……」


 両手を地面につけて、


「ひどいことをして、本当に、すみませんでした」


 頭を下げる。

 ふぅ、とりあえず謝らせたな。


「あ、顔は上げるなよ。18万も奪ったのに、一回の謝罪で許されると思うなよ」


「へ?」


「あと17回、大きな声で謝罪しろ」


「あ、あんた……」


「それとも17万9999回にするか?」


 ぐぐっと拳を握りながら、コノハが吠えた。


「ごめんな、さい。ごめんなさい」


「あと15回」


「くっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいいいいいいっっっっ!!!!」


 勢い余って20回謝ったね。

 あ〜あ、本人も親も泣いてるよ。

 自業自得なんだけど。


「恥ずかしいよな、親の前で謝るの」


「こ、これで、許してくれるんでしょ?」


「ついでにさ、明日学校で、みんなの前でも謝ってくれよ」


「は? あと15回だって言ったじゃない!!」


「まぁいいじゃん。本当はあと17万9999回だったんだから」


 先ほど受け取った封筒を返す。


「これはそんとき渡してくれ」


「が、学校なんか行けるわけないでしょ!? どんなことされるか……」


「俺は行ったが? お前らに悪役にされてもな」


「…………」


「そして二条もグルだったと証言しろ」


「…………」


「返事はどうした。拡散しちゃうぞ?」


「わ、わかり、ました……」


 ふん。

 ハナっからネットに拡散する気なんかねえよ。

 下手に盛り上がると、マジで俺や俺の周りの人間まで困らせることになるからな。



 明日、みんなの前で二条も仲間だったと打ち明けさせる。

 もちろん、それだけで二条帝国が滅ぶわけがない。

 あいつはコノハと違ってまだまだ人気者で人望もある。


 とてもみんなが信じるとは思えない。


 しかし、事実なのだから証言させて損はない。

 みんなの頭の中に刻んでおくのだ。真実を。

 コノハにやったように、印象を下げておくのだ。


 あぁ、『やったように』ではないか。こいつが勝手に自分の印象を悪くしたのか。

 そして山口も使って、確実に二条にトドメを刺してやる。


「ソ、ソウくん」


「なに?」


「わ、私たち、やり直せないかな?」


「これ以上親の前で恥を晒すなよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日の早朝、俺は携帯の着信音で目を覚ました。

 知らない番号だ。てかまだ5:30じゃねえかよ。

 業者か? 非常識なやつめ、怒鳴りつけてやる。


「もしもし」


『センパ〜イ。おはようございま〜す♡』


「はっ!? な、なんで!?」


 二条ミツキの声だった。

 嘘、どうして? なんで電話番号知ってんの??


『実はこの前のゲーセンでぇ、スーフォアくんに教えてもらったんです〜』


「……お掛けになった電話番号は現在使われておりません」


『今さら遅いですよー』


「な、なんのようだよこんな朝っぱらから!!」


『なにって、ラブラブモーニングコールじゃないですか〜♡』


「そういうのマジでやめて。俺ギャルっぽい子に弱いから」


『あ〜、だから百目鬼コノハを』


 それ以上言わないでくれ!!

 くっそー、黒歴史!!


「んで、マジでなんのようなのさ」


『センパイにご忠告』


「忠告?」


『たぶん百目鬼コノハと山口を使ってアニキを追い詰めようとしてません? それ、無駄ですから』







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

コノハへの罰は長期的に続きます。

次回更新は28日です。

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