第6話 破滅へのスイッチを手に入れる
山口が殴りかかってくる。
俺はその拳をワザと喰らった。
頬がジンジンする。
涙が出てくる。痛いからじゃない、生理現象だ。
「まだ生きてるけど? 殺すんじゃねえの?」
「舐めやがってぇ!!」
また殴ってくる。
蹴ってくる。
俺は一切反撃しなかった。
受け身こそ取っているものの、距離を取ることすらしない。
「喧嘩強そうな見た目して、すっげー軽いパンチ」
「じゃあ反撃してみろよ!!」
そのタイミングで三峰がやってきた。
「お、おい!! なにしてるんだ!!」
さすがのバカ教師も止めに入るよな。
騒ぎに気づいた他の教師も駆けつける。
「なにしているんだ山口!!」
「だ、だってこいつが……」
「こんなことして、ただで済むと思っているのか!!」
済むはずがない。
確実に停学は免れまい。
学校ってのは融通が効かないところだ。いかな理由であろうと殴れば停学なのだ。
二週間? 一週間くらいか?
叶うなら退学が好ましかったけど、そこまで罪が重くなるとは思えん。
とにかく、これで鬱陶しいのが一人消える。
俺は手を出していないからお咎めなし。
そりゃ可能なら山口をボコボコにしてやりたかったが、俺はまだ学校から、舗道さんから離れるわけにはいかない。
舗道さんとの連絡手段が手紙のみだしね。
にしても妙だな、二条のやつ、今日は山口を止めなかった。
再度山口を見やる。
どうせしばらく会うこともないし、別れの挨拶ぐらいしておくか。
「俺を殺せなかったな山口。コノハと付き合えず俺も殺せず、いったいお前は何ならできんの? しょせん二条の子分。金魚のフンってところか」
「て、てめぇ……。やり返す度胸もないくせによぉ!!」
「やり返すわけねぇだろアホタレ。俺まで謹慎したくねぇもん。そこんとこよく考えろ、マヌケ」
「なっ!?」
「世の中、攻撃しないで相手を排除する方法なんていくらでもあるんだよ、山口。良い勉強になったな」
瞬間、三峰が俺の肩を掴んだ。
「おい荒川!! どうして山口を挑発するんだ」
三峰のバカが怒鳴ってくる。
「無実の罪でギャーギャー言われたので」
「まだそんなこと言ってるのか!! そんな態度じゃな、先生力になんてなれないぞ」
最初からなる気なんかないだろ。
よかったな、協力しない口実ができて。
「そんなに無実を証明したいなら、きちんとした証拠を出せ!!」
それが出来たら……。
待てよ?
そうか、証拠がないなら……。
放課後、俺はみんなが帰った頃を見計らって隣の教室に入った。
百目鬼コノハと、視線が重なる。
「ちゃんと来たんだ」
「まーねー」
あの騒動の後、俺はコノハにメッセージを送った。
放課後、残っているようにと。
「呼び出した割には遅いじゃん」
「ちょっとコンビニ寄ってた。ATMで金を下ろすために」
「ふふん♡♡ 本当ならみんなの前で渡して欲しかったけど、まぁいいや。聞いたよ? 山口と喧嘩したけど殴られっぱなしだったんでしょ? ダッサ」
安っぽい挑発は無視。
「二条はいないんだな」
「部活。ほら、サッカー部のエースだから」
つくづく、主人公様だな。
「でも今日は早く終わるみたい。だからこのあとお家デートするの♡ あ、意味わかる?」
「そっかそっか」
財布を取り出す。
2万円を抜き取り、コノハに渡す。
「まいど♡♡」
「これで、俺がお前に金を借りてるって嘘、なかったことにしてくれよ。もう揉め事はたくさんだ」
「嫌に決まってんじゃん。バカじゃないの? あんたは永遠に私のATM。今度は来月までに5万持ってきてよ。じゃないと、無理やりレイプされたってことにするから」
「せめて、先にお前に貸した16万返してくれない?」
「はぁ? 意味なくない? どうせまた私に渡すんだから」
「……わかったよ」
「ギャハハ!! あんたってホント、臆病者だよね。ダッサいな〜。まぁ安心しなよ、先生たちからもいろいろ聞かれたけど、本人たちで解決するから親には黙っといてって言ったから」
それでも普通は親に言うけどな。
ここの教師どもには期待しないでおこう。
「二条は……」
「あー、うっさい。もう私行くから。ばいばい、負け犬」
「……ちっ」
コノハが去っていく。
バカなのはどっちだ。
ポケットからスマホを取り出す。
録音ボタンを停止させる。
証拠がないなら作ればいい。
簡単な話だ。
本当なら二条の悪事も喋らせたかったが、強引に話を切られてしまったんじゃしょうがない。
とはいえ、これだけでは不十分。
あの女のことだ、『無理やり言わされた』とか抜かしやがるかもしれない。
それに、これを公表する絶好の機会も欲しい。
いろんなやつに聞かせて回っても、嫌われ者の俺の相手なんかしてくれないからな。
先生は頼りにならんし。
なら、次は……。
「あっ!!」
やべ、そういえば朝のHRでシャーペン落としてない。
すっかり忘れてた!!
どうしよう、一応明日、駅に行ってみるか。
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帰宅後。
冷蔵庫から麦茶を出していると、
「ソウちゃん!!」
母さんが血相変えて接近してきた。
「ただいま」
「せ、先生から電話があったわ。お金のトラブルだって……。そ、それにその顔……」
ほう、親に報告したのか教師ども。
三峰と違ってマトモな先生がいたのかな。
まぁ、山口を停学処分にするなら、保護者に説明しないとだもんな。
「平気、心配しないで」
「で、でも……」
「母さん、俺を信じて。俺なら大丈夫。何も悪いことはしてないから」
「ソウちゃん……」
「明日二週間ぶりに父さんが帰ってくるんだろ? デートの予定でも立ててなよ」
まだ母さんを巻き込みたくない。
しかし学校から保護者に連絡があったということは、親同士で揉める可能性もある。
だからこそ、録音した音声以外の確たる証拠を早く手に入れたい。
「頼りないママでごめんね」
泣きそうな顔でそう告げてきた。
母さんは小心者でネガティブだ。
優しくて温かい人だけど、戦いには向いていない。
「いっつも頼りにしてるよ。美味しくて栄養満点なご飯を作ってくれるから。俺がこうして元気に立っていられるのも、母さんのおかげだよ」
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※あとがき
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