第2話 小物で最低な悪役くん
「最低だな、お前」
何も悪いことなんてしていないのに、学年一の人気者に殴られた。
周りの同級生たちも、冷ややかな目で俺を見下している。
「無理やり百目鬼さんと付き合ったんだって?」
「そのうえ金せびってたのかよ、小せえやつ」
「根暗で気持ち悪い奴だと思ってたけど、これだらチー牛は」
「キッショ」
呼吸が荒くなる。
嫌な汗がダラダラ流れて、寒気すら感じる。
二条がコノハを抱き寄せた。
「安心しろ、俺が守ってやる。俺には仲間がいっぱいいるんだ」
「ありがとうナルタ。好き……」
また、キスをした。
俺とはまだしていないのに。
これは……なんだ? 夢? ヤバい幻覚?
「うわあああああ!!」
反抗する気なんか起きなかった。
ただ全身を駆け巡る恐怖から、逃げるしかなかった。
家に帰り、俺はすぐにベッドの中に潜った。
幸い、まだ家族は帰ってきていない。
「どうなってんだ……どうなってんだよ!!」
金をせびった?
俺は貸していた側なのに。
コノハのやつが二条を騙して、味方につけたのか?
金を返したくないから。
瞬間、電話がかかってきた。
コノハからだった。
「も、もしもし?」
『あー、ごめん。伝え忘れてたんだけど、私があんたに金貸してるってことになってるから。明日みんなの前でお金払って。とりあえず2万』
「ふ、ふざけんな!! 二条に本当のことを話してやるぞ」
『……ふふ』
「なに笑ってんだよ」
電話口から流れる声が変わった。
『もしもし? 荒川?』
「二条?」
『残念だけどお前、俺を引き立てる悪役なんだわ』
「は?」
『ていうか全部俺の指示。実は一ヶ月前からコノハと遊ぶようになってさ、いろいろ聞いたんだよね。んで、お前への借金返済に困ってるっていうから? 俺が手を貸したわけ。コノハって可愛いじゃん? 助けてやるのがヒーローの務めでしょ』
コノハの小さな喘ぎ声が聞こえてきた。
『ちょっ、太ともはくすぐったいってぇ』
『じゃあ胸から?』
『ほんと、スケベなんだから♡』
こいつらが今なにをしているのか、想像してしまうような会話。
助けたって何だよ。ヒーロー?
ふざけるな、ただの浮気だろ。
『てかお前さ、コノハとまだキスもしてなかったってマジ? 男として情けなさすぎるだろ。もったいないな、せっかく俺がいろいろ仕込んでやったんだから、お前も味わえばよかったのに。俺に調教されたコノハ使ってさ』
スマホを握る手に力が入る。
これが、これがあの二条の本性。
表では明るい主人公キャラみたいに振る舞って、裏では平気で人の尊厳を踏みにじる、外道。
『もしもし〜、ソウくん? なんかもう金貸してくれなさそうだし、別れよっか。んじゃ、2万よろしくね。でないと、クラスメートから嫌われたままだよ? イジメられたくないでしょ?』
『おい、早くしろよ』
『じゃあねソウくん。ばいば〜い』
そこで通話が切れた。
そして、俺はようやく理解した。
コノハは、はじめから俺のことなんか好きじゃなかったんだ。
ただ、金欲しさに利用していただけ。
そして二条は、すでに何度もコノハを抱き、自分の人気を高めるために、コノハ同様俺を利用した。
吐き気がする。
親になんて言えばいい。
せめて、借用書でもあればよかったのに、そんなもの作りもしなかった。
完全に、コノハを信じて力になろうとしたから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結局、親には言えず朝を迎えてしまった。
素直に話せば良かったのだろうが、父は仕事でずっと家にいないし、母はこういった揉め事に不向きな性格をしているから。
あれから何も食べていない。何も喉を通らなかった。
学校に行きたくない。
けど、親に心配をかけさせるわけにはいかない。
バス停から降りる。
二条が俺の前を歩いていた。
隣に誰かいる。長い黒髪の、コノハとは違う女性。
確か名前は……
二人は楽しそうにお喋りしながら、学校に向かっていた。
こいつ、コハルだけじゃなくて他にも女がいるのかよ。
ヒーローとして。
そう、あいつは自分をヒーローだと豪語した。
主人公気取りなんだ。だから、いろんな女にモテて当たり前だと思っていやがるんだ。
教室に入る。
みんな、俺を見てクスクス笑っている。
学校の主人公様に罰せられた小物の悪党。
そんなふうに、俺をチラチラ見てくる。
朝のHRがはじまる。
担任の三峰先生が出席を取る。
一人の男子生徒が手を上げた。
二条の取り巻きの、山口だ。
「先生、荒川くんが来ちゃってるんですけどぉ」
ビクッと、肩が跳ねた。
「おいおい、なにがいけないんだ?」
「こいつ2組の百目鬼さんから金奪ってんすよ。対処しないとニュースになっちゃうんじゃないんすか〜?」
してない。
俺はそんなことしていない。
全部コノハと二条の嘘なんだ。
先生も困っている。
すると、
「おい山口、やめろって」
二条が止めに入った。
「これは俺とコノハとあいつの問題だ。きっと、あいつだって改心する。部外者が口出しすることじゃねえぞ」
「わ、わりぃ」
「荒川、俺もコノハも、待っててやるからな」
カッコつけたセリフを吐きやがる。
取り巻きの生徒たちが二条を褒め称える。
「器が違うよなぁ」
「二条くんカッコいい!!」
「お前聖人すぎるだろ」
違う、違う違う。
そいつは聖人なんかじゃない。
やばい、泣きそうだ。
堪えろ。そして考えるんだ。
きっと、きっとあいつらが嘘つきだってみんなに知らしめる方法があるはずなんだ。
だけどどうすればいい。
俺一人で、なにができる?
そして放課後。
俺は担任の三峰先生に呼び出された。
誰もいない教室で、二人きりになる。
「山口たちが言っていた話し、本当なのか? 金をどうのって」
「…………」
「正直に話してくれ。荒川」
話すべきだ。
そうだ、話すんだ。
俺一人じゃなにもできない。
けど、先生と一緒なら、なんとかなるかもしれない。
助けてくれるかもしれない。
「実は……」
すべてを話した。
コノハに騙されていたこと。二条のこと。
喋れば喋るほど、言葉と共に涙が溢れてくる。
俺は無実だ。悪いことなんか何もしていない。
なのに、どうして。どうしてこんな目に。
「辛かったな、荒川。まさかあの二条が……」
「先生、俺、どうしたら……」
「うーん。難しい問題だ。二条はクラスの、いや学年のまとめ役みたいなやつだからな。変に刺激すると面倒だ」
「面倒って……」
「百目鬼にお金を返したことにしてもらって、問題は解決したって、二条からみんなに伝えてもらうしかないな。そしてみんなの前で二人に謝るんだ」
このとき、俺は己がいかに愚かなのか思い知った。
「悪いが、荒川一人のためにクラスを混乱させたくない。荒川だって嫌だろう? だから、悪いけどここは我慢してもらって」
俺はとことん、人を見る目がないのだと、思い知ったのだ。
「親には秘密にしておいてくれよ、大事になるとみんなが迷惑する。安心しろ、俺が百目鬼を説得して、少しでも荒川にお金を返すように言っておくから。な?」
「……はい」
自分でもわかる、魂の抜けた返事。
理解も納得もしていない。ただのその場しのぎの返事。
「さすがだな荒川。一緒に頑張ろうな!!」
「でも、先生、俺……」
「まてまて荒川、この話は一旦ここで終わりだ。どのみち、証拠なんかないんだろ?」
「……そうですね」
俺は、どこまでも無力なのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※あとがき
次回からヒロインと絡みます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます