第8話 オーガファイターとの交戦
俊敏に森の奥へと進むルディ。
その後ろに俺とエリスさん。
彼女がCランク冒険者であることは嘘ではないらしい。
疲れているなら、お姫様抱っこを提案するつもりだったのに!
俺に幸運は訪れないのか!
後方を見るとベルフィがクックックと小さく笑っている。
そして最後尾に巨大メイスを軽々と肩に担ぐアレッサが続く。
大森林に入って一時間ほどで、ファングウルフの群れを討伐。
ファングウルフは狼系の魔獣である。
ヘルハウンドと同レベルの強さで、群れで襲ってくるのが厄介だ。
二十体以上に襲われたが、俺達の敵ではなかった。
それから四十五分後、ハイオークの一団と遭遇、これを撃破。
ハイオークはオークの上位種であり、大森林では中堅の魔獣である。
それをエリスさんは、矢のように俊敏な動きで、ハイオークを細剣で斬り刻んでいく。
その身のこなしに、速さが売りのルディも驚いていた。
彼女が危ない時に、ショットガンで助ける俺の予定は脆くも崩れたのである。
森の中で草地を発見したので、そこで皆で休憩を取る。
「エリスさん、これを食べて」
「……ありがとうございます」
俺はスマホで取り出した、固形食品を彼女に手渡す。
この食べ物は、前世の日本で売っていた栄養補助食品をフィオナ様が気に入り、天界の神様達に食べさせてあげようと、謎加工をした食べ物である。
俺はこの食品を、『ナゾメイト』と呼んでいる。
神々の不評に遭い、倉庫に大量に眠っているので、俺がありがたくいただいているのだ。
小さくて可愛らしい唇で『ナゾメイト』を一口食べ、エリナさんは片手で口元を押える。
「……美味しい」
「でしょ、でしょ。これを食べると、すっごく元気になるし、小さな傷だって回復するだから」
「そうなの! 毎日食べてると、筋肉がモリモリつくのよね!」
アレッサさん、あなたは食べ過ぎです。
毎日大量に食べているアレッサは、見た目ではわからないが、謎食品の影響で筋肉が強靭に進化しているのだ。
彼女は嬉しいと喜んでいるから、止めることもできないんだよな。
『ナゾメイト』を少量を食べるだけなら問題はない。
今回のような遠征の時にはとても助かっている。
水と食料を補給した俺達は、森の奥を目指して歩き始めた。
ルディは樹々の間をすり抜けて、どんどんと先に進んでいく。
彼女は五感が鋭敏で、どんな些細な匂いや音も見逃さない特技を持つ。
しばらく暗がりの森の中を歩いていると、ルディが急に停止して、腕を真横に伸ばした。
彼女の合図で立ち止まり、周囲を観察する。
……樹々の揺れる音は聞こえるが、妙に静かだ。
そう感じた瞬間、ルディの凝視している方向の樹々がバキバキと折れる。
そしてオーガファイター五体が姿を現した。
オーガファイターはオーガの進化系の一種で、腕が四本ある狂暴な魔獣である。
その剛腕で巨大な鉈を操り、獲物を簡単に惨殺する。
「いつものようにやるぞ!」
「それじゃあ、私からね」
ルディは素早く腰のホルダーから短剣を取り出し、両手で投擲を開始した。
その短剣がオーガファイターの皮膚を切り裂く。
オーガファイターの筋肉は硬く、短剣の攻撃では裂くことができない。
しかしこれでいい。
彼女の投擲したナイフには、ポイズンスネイクの喉袋から抽出した猛毒が塗られている。
すぐに死ぬことはないが、これで動きを鈍らせることができる。
「まだまだ」
ルディは駆けながら、短剣をもう一度投擲し、もう一体のオーガファイターの体を傷つけ、茂みの中へ消え去った。
その動きに合わせて、アレッサがバックラーを構えて、毒を受けていないオーガファイターへ突進していく。
「あなたの相手は私よ! 押し合いなら負けないんだから」
ドンという強烈な音がして、両者がぶつかり合う。
すると、ジリジリと彼女の脚が後ろへ押されていく。
「まだまだー! 勝つのは私よ!」
雄叫びと共に、彼女の筋肉が盛り上がる。
するとオーガファイターが力負けして、ズルズルと後ろへ押され、仰向けに吹き飛んだ。
その隙を逃がさず、巨大メイスを振り下ろすアレッサ。
オーガファイターを絶命させて、アレッサは巨大メイスを振り上げる。
「どんどん、かかってこーい!」
ニコニコと微笑む彼女から遠ざかるオーガファイター。
強引に体を倒されて、お腹をグシャ……
屈強な魔獣でも、気が引けるよな。
「それじゃあ、僕も始めるとしよう」
残る三体に向けて、ベルフィがステッキを振る。
『アイスブリット!』
彼の周囲に氷の弾丸が無数に現れ、高速でオーガファイター達に襲いかかる。
アイスランスと同じく、アイスブリッドもベルフィの得意魔法の一つである。
以前に聞いたベルフィの説明では、一つ一つの威力は小さいが、アイスブリッドのほうが貫通力があり、魔力消費のコスパがいいそうだ。
オーガファイター三体の体に無数の穴が穿たれるが、まだ致命傷には至らない。
すると毒を受けていない一体が、エリナさんに急接近する。
俺の想い人に何しようとしてんだよ!
目の前に二体のオーガファイターが接近しているが、それに構うことなく俺は無我夢中でショットガンの フォアエンドをスライドさせ、スラッグ弾を撃つ。
ドン!
大きな銃声が響き、エリスに襲いかかろうとしていたオーガファイターの頭が吹き飛んだ。
「バカ! 気を抜くな!」
ベルフィの警告する声に反応して、顔の向きを変えると、二体のオーガファイターが突っ込んできた。
「ヤベ!」
咄嗟にショットガンを投げだし、予備のデザートイーグルを構えて発砲する。
しかし、胴体に大穴を開けたオーガファイターが、俺の右肩を斬り飛ばし、右腕が宙を舞う。
そして、もう一体が、俺の胸に鋭い鉈の一撃を放った。
次の瞬間に、傷口から血が大量に噴き出し、体全身に激痛が走り抜ける。
「グオォッ!」
地面に倒れ込む俺に、オーガファイターが追撃をかけてきた。
惨殺を覚悟した瞬間、俺を襲っていたオーガファイターの体がバラバラに裂かれた。
その後ろにエリスさんが返り血を浴びて立っている。
まさかエリスさんがオーガファイターを殺したのか?
あまりの速さに、彼女の攻撃が見なかったぞ。
毒を受けていた個体とはいえ、Cランク冒険者では苦戦する相手なのに……
そこまで頭を過るが、俺は痛みに耐えられず、意識を失うのだった。
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