Extra Track 02 胸騒ぎのAfter School II
あたしは――「リナ」。”お父様の想いを知る旅をする”女。
”親友”のユニと、”お父様の仇である元勇者”マティア、”トラブル魔法少女”シラと一緒に、旅をしている。
ラコナに向かう途中。まずは山間の湖の街、ルセリアを目指す。
その馬車に揺られて、あたしとユニはぼんやりした空気の中で、他愛もないおしゃべりをしていた。
そんな中、あたしがふと疑問を漏らす。
「……そういえばさ。シラのことは兵士の人があっさりお城に入れてくれたじゃない? 戻って来たときも全然何も言われなかったしさ。でも、マティアはひとりではお城に入れてもらうことさえできなかったんでしょう? シラってやっぱり凄い人なの?」
「へへー。私は、研究目的ならどこにでも出入りできるんだ。詳しいことはわからないけど、事務の人に言っておくと、この研究証を見せるとどこでも入れてもらえるの」
「……? どゆこと?」
シラのざっくりとした答えではほとんど何もわからない。この人は魔法以外はこんな感じだ……。見かねたマティアが説明をする。
「あー。俺が入れてもらえなかったのは、”勇者”とは名乗らなかったからかもな。『”勇者”だったんで入れてもらえませんか』とか怪しすぎるだろ?」
「たしかに……わざわざ言うあたり怪しいもんね。棚をあさったり、壺を割ったりしそうだもん」
「そうそう。金色の羽の生えた珍しいスライムを狙ったり、北の大地で黒い結晶に氷系魔法を放ったり……って、誰が”ニセ勇者”だ!」
「シラの研究証には、”トリシア大司教”メルキオールの金印が入ってるだろ。だから、大抵のところは出入り可能だし、兵士も入れてくれるんだ。それに、兵士が出していたニカノールって名前はメルキオールの”執事”のことだ。特に”秩序”を重んじる男だって話だから、シラが研究目的でベルグシュタットに来ることを申請したから、ベルグシュタットの”秩序”が乱されないように先に手を回したんだろうな」
「えー。私、”秩序”を乱したりなんかしないよ?」
「お前、何年か前に街を半分凍らせたって国中で話題になってたぞ。死傷者が出なかったからよかったようなもので、街中で尻餅をつく人がいて大変だったそうじゃないか」
「あれは、ちょっとした事故だもん。夏だったから、凍った森から冷気が来て、涼しかったって好評だったんだからね!」
シラがほっぺたを膨らませて怒っている。
「私たちは修道院で勉強してたから、教団のことは何となく分かるんだけどさ。なんで、”大司教”の”執事”が、国の兵士に連絡できたりするの? シラの研究は国の研究だよね? なんで教団の人の名前が出てくるの?」
ユニが不思議そうに聞いた。
「あー……。それを説明すると長くなるんだが……」
「この国が、七人の選帝侯によって神王が決められているのは知っているな?」
「うん。それは知ってる、マイン、ケルシオン、トリシアの大司教と……おじさん二人と、ズナーメンの女王、あとは若くてイケメンって有名な……」
「ユニ……覚え方が偏ってるな……。マイン大司教のカスパール、ケルシオン大司教のバルタザール、トリシア大司教のメルキオール。この三人が聖俗諸侯と呼ばれている。この三人は教団から選ばれているんだが、二人とも修道院にいたなら知っているよな」
「うん。ラルヴァンダート様とか院長先生からよく話を聞いたよ」
「そうだよな。で、他が世俗諸侯。教団とは関係ない連中だ」
「まず、首都レギオナやクロイツフェルトを中心としたヴェルフベルク地方を治めるレオンハルト大公。名門の家の出でプライドが高い。一応、名目上は宰相ってことになってて、国の取り仕切りは一応レオンハルトが行っていることになってる」
「で、次が、エルドヴァイン辺境伯領を収めるヴィルヘルム辺境伯。融通が利かない堅物で有名だ。北東の異民族の侵入を防ぐため、真面目に要塞に籠もりきり……という話は前にしたな。正直この人に関しては、俺もあまり詳しくないんだよな。ノートガルドにもいなかったし」
「この二人が、ユニの言うおじさんだな」
「おじさんはあんまり興味ないなぁ」
「それから、ズナーメン王冠領ノエルミナ女王。通称”姫様”。俺が酒場で飲んでたら、突然やってきて、そこにいた客全員にビールを振る舞ったんだ。世俗諸侯の中では唯一俺があったことのある人だな。”姫様”は、六歳の時に両親をなくして女王となったんだが、その時に、自分の影響力を広めようとしたレオンハルトをケチョンケチョンにして追い返したらしい。〈女王〉と〈王冠領〉は説明をしだすと長くなるんで、またの機会にしよう」
「えー。その”姫様”面白そう!」
「奢ってもらった時にいた客の話だと、”姫様”は『酒場の二十四時間監視任務』とか言って、一日中まで飲んでることあるらしい。あそこは、みんな豪快面白いから、いつか行ってみると良い」
「それから、アルデンラント地方とロタリンギア地方を治めるローエン宮中伯。こいつがユニの言う若くてイケメンだな。若い女性に人気がある。アルデンラント地方とロタリンギア地方があまりにも広いもんだから、普段は首都レギオナにいるから宮中伯って呼ばれている」
「ローエンはシラのパトロンでもあるよな?」
「ローエン様は研究費をどんどん出してくれるし、報告書を書けとか言ってこないし、派手で楽しい魔法が好きで、すっごくいい人だね! 私好きだよ。」
「まぁ、シラのローエン推しはいいとして、ローエンからすると、隣国からの西側の侵入を食い止めるという意味で、シラの魔法を支援して、軍事や医療に転用したいって狙いがあるんだろうな」
「えー。私もローエン様会ってみたいな」
こういう時のユニはミーハーだが、そういう素直なところがユニの可愛いところだ。
「ちなみに、ローエン宮中伯とトリシア大司教のメルキオールとも年が近いこともあって、気が合うらしく、二人で人払いをして密会しているって噂だ。二人とも俺と年は変わらないはずだが、浮いた話が無いもんで、色々女性陣が想像するらしい」
「えー。そうなの? へー。そうなんだ。へー」
「真相はわからんけどな。女性陣は”捗る”んだそうだ」
……ユニはやたらと興奮しているが、みんなは何を想像するのだろう? 何が捗るのだろう? 仕事とか?
「ま、それは良いとして、この四人が世俗諸侯だな」
「名前はどうせ覚えられないから覚えなくて良い。他にも大司教や諸侯はいるんだが、名ばかりだな。この七人の選帝侯で神王を決めるんで、彼らに権力が集中していて、それだけの権限が与えられているんだ。だから、国の多くの機関は彼らがある程度自由に融通を利かせられるってわけ」
「じゃあ、お父様は?」
「カーネルさんは、テルミンタール自由伯領の領主だから、この選帝侯ではない世俗諸侯に当たる。地方を治めているが、国の運営には関与できない。でも、テルミンタールは自由伯領で、神王国から自治が認められていたから、あんまり関係なかったかもな」
そうなんだ……。全然知らなかった……。
「じゃあ、さっきの”執事”は? 何の仕事をしているの全然わからない」
ユニが興味を持ったようで、”執事”について尋ねる。
「”執事”は”大司教のサポートをする役割”で、”大司教”がそれぞれ何人か付けている。例えばメルキオールは七人いる。ニカノールはその一人。内務が担当だな」
「ラルヴァンダート様の”執事”はアリスタルコ様だけなのに……」
「ユニはラルヴァンダートの”執事”には会ったことあるのか」
「うん。たまに修道院に来てたし。何年か前の模擬戦の時に来てて、その時、私、院長室でちょっと挨拶したんだ」
「あたしは見かけただけかな」
「大司教の”執事”も、もちろん
「そこにも
ユニがあたしの疑問を聞いてくれた。
「そうだな……。仕組みとしては、人々の”役割”を教団が下す神のシステムなんだが……。なんで、その人に”役割”が与えられるのか? これがどうにも、調べるほどわからない。どうしてそれだけじゃないようなんだ。そこにカーネルさんが”魔王”にさせられた謎もあるのだと思うんだけど……」
こんな感じで、マティアは国の仕組みや教団、それから
修道院でも習っていたつもりだが、実際に仕組みを目の前にすると実感する。それ自体はよくできたシステムだ。みんなの”役割”があることで、世の中が回っているとも言える。
世界は広くて、本当に知らないことばかり。少しずつ、世界を知って、あたしはあたしの”役割”を見つけよう。
……ってシラはいつの間にか寝ちゃってるし……。こういう自由なのところ、本当は少し見習っても良いのかもしれないな。
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