第12話 星を穿つ魔法
「死ねよ、ニンゲン! てめぇらも一緒に地獄に落ちようじゃねぇか、あ゛あん?」
その言葉とともにトゴロスは地面に倒れ込んだ。
魔力が切れたことにより身体から力が抜けたのだ。
通常であれば、この時点で戦闘は終わる。だが、相手が自滅覚悟で攻撃した直後であれば話は変わってしまう。
「ままま、マズイですぞ! レッド・ノヴァと言えば、超級魔法の一つ! あれだけでウラギーリ森林が消えるほどの威力です!」
「ヨクゥニーナさん、結界魔法で防ぐことは出来ませんか!?」
「ユーシャさん、ごめんなさい。破片ならともかく、あの規模のものとなると私では力不足です」
最後の最後で置き土産を残していきやがって……っ!
ハムは心の中で毒づきながら、頭をフル回転させる。
この規模のものとなると逃げることは不可能だ。俺やシッタ、ヨクゥニーナはもちろん、ユーシャも。ラレッタなら逃げ切れるかもしれないが、全員を担いでいくわけにもいかない。
「賢者候補殿、何か手はありませんか!?」
「無理だぜ、無理! こちとら命かけてんだ、生半可に止められるもんじゃねぇぜ、あ゛あん?」
トゴロスが何かを喚いているが無視する。
構っている時間は無い。今にも隕石が落ちてもおかしくはないのだから。……隕石?
「――ラレッタ!」
「はいですっ!」
ピッと敬礼してみせるラレッタ。
作戦の成否に関わらず、ラレッタには重要な役割を果たしてもらうことになる。
「……お前に、任せてもいいか?」
「もちろんです。ラレッタは、ちゃんとやり遂げますよ」
「そうか」
その言葉をハムは信用した。
「ラレッタはヨクゥニーナを担いで、ハジマリノ街に戻ってくれ!」
「ヨクゥニーナは」
「私がするべきことを成し遂げましょムシャムシャ」
「栄養補給はほどほどにな!」
「では、行ってきます!」
ラレッタはパンを咥えているヨクゥニーナを担いで、ぴょんと跳んでいった。
何も聞かなかったのは、信頼してくれていると捉えていいのか。……今は考えなくていいか。
「ユーシャ」
「は、はい!」
「俺たちを守ってくれ」
「――任せてください!」
あとは――。
ハムは残ったシッタ・ガブリに目を向ける。
「シッタ、あれを壊すぞ」
「はいぃ!?」
「はっ。何言ってやがる。あれを壊せるわけねぇだろ、あ゛あん?」
素っ頓狂な声をあげるシッタにハムは詰め寄る。
「ちょっと前に言っていた、星を壊す魔法。それを教えてくれ!」
「へっ!? え、そ、その! えーっと、それは、だな。うん、賢者候補殿でもまだ早いかと思うので、そのー」
「いいから! 教えてくれ!」
「いやいや、本当に。まだ早いんじゃないかなーと」
「いいからっ!」
肩をビクリと跳ねて、シッタは目を逸らす。そしてバツが悪そうにボソリと呟いた。
これまでずっと隠してきた秘密を。
「じ、実は我輩、適当を言っていた。それっぽい聞いたことある話を知った風に言っていただけでな……その魔法の使い方とかは全然――」
「そんなことは知っている! 聞いたことがあるんだったら、魔法自体はあるんだな!? どんな魔法だ、なんでもいい。特徴を言ってみろ!」
「えぇ!?」
シッタ・ガブリが知ったかぶりをしていることは、ハムは見抜いていた。
「え、えーっと、なんかこう、星を貫通して爆発させるような、魔法?」
シッタの説明はふわっとしていて曖昧だ。
けれど、それで十分だった。
魔法が存在すること。ある程度イメージが出来ること。
この二つの条件が満たすのであれば、
「――問題ない!」
ハムは両手を空にかざす。
燃え盛る星屑が目前まで迫っている。
だが、恐れはない。きっとどうにかなるとそう信じて。
「――《
――閃光が隕石を貫いた。
それ同時に凄まじい轟音が鳴り響く。
隕石を貫いた閃光が、星の中で爆発を起こしたのだ。内部からの破壊の衝撃を受けた星屑はひび割れ、破裂する。
それは本当に一瞬のことで、この場にいた誰もが何が起きたのかを即座に把握することは出来なかった。
だが、
「――《反刃》!」
守って欲しいと頼まれていたユーシャは動き出していた。ハムとシッタの前に立ち、飛来する欠片を叩き切る。
「バカな……」
信じられないものを見るかのように目を見開き、トゴロスは呟いた。
「……あっちも、間に合ったみたいだな」
木々の隙間から見えるハジマリノ街。
その街を覆うかのような半透明な膜がはられていた。
「トゴロス」
ほっと胸を撫で下ろすと、忌々しそうにこちらを見るトゴロスに目を向ける。
「……なんだ、勝ち誇りてぇのか? そうだな、てめぇらの勝ちだ。これで満足かよ、あ゛あん?」
「お前、ラレッタのことを殺す気はなかったんだな」
「あ゛?」
「最初の攻撃も、この隕石の魔法も、どちらもラレッタ一人であれば逃げれた。違うか?」
そうでなければ、なんの策もなくラレッタを落ちてくる石から庇った自分が無傷であるはずがない、とハムは言った。
トゴロスはその言葉に否定も肯定も返さず、ただ忌々しげに舌打ちをした。
「ユーシャ、シッタ。俺たちも街に戻ろう。トゴロスは俺が担ぐから道中の戦闘は――あ、れ?」
その時、ハムは自身の体に違和感が生じる。
それが何かを把握するよりも前に、視界がぐるんと動いた。――倒れたのだ。
その事実を正確に認識するよりも前にハムの頭に白いモヤがかかる。
音を立ててハムは倒れた。
それを見たユーシャは血相を変えてハムに駆け寄る。
深刻な魔力の欠乏。
限界を超えた魔法の行使により肉体、精神がともに損耗し、その結果、肉体を休止させようと意識が途切れたのだ。
死者はゼロ。意識不明者は一。
かくして、ウラギーリ森林での攻防は終わった。
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