お互いに夢で見るほど大好きな両片想い百合の話

小鳥もち

夢野 沙羅は夢を見る

第1話

 夢を見た。


 目の前には少女がいる。彼女は足を崩して、いわゆる女の子座りというものをしている。そして、私はこの少女をよく知っている。でも、それは私からの一方的なもので、きっと向こうからすれば私は視界の端にあるぼやけた背景程度でしかないだろう。


 ただ、そこは重要じゃない。


 端正な顔立ちをしていて、たぶん、綺麗よりはかわいいに分類されるタイプだ。

 胸は平均よりも少し大きいぐらい。少なくとも、私よりは大きい。

 私が通っている高校の制服を着ている。当たり前だ。彼女は私のクラスメイトなのだから。


 彼女はなにも言わず、なにもせずこちらを見ている。その姿は、まるで奇妙なフランス人形のようで、でも奇妙なことに不気味とは思わなかった。

 ただお互いに女の子座りをしながら向かい合って、過去を無視するように時が過ぎていく。


 ふと今いる場所に意識を向けてみるが、あまりよくわからない。自分の部屋にいるような気もするが、ところどころ違っているような気もして、少しだけ居心地が悪い。


 そのとき、なにを考えたのだろうか、彼女に触れたいと思った。こういうのを、魔が差したというのだろう。


 私は彼女の頬に向かって手を伸ばした。私の腕の長さで足りるほどの距離感で、いとも簡単に彼女の頬に触れられる。

 少し押すだけで、沈んでしまう。沈まぬよう力を抑えて、滑らせるように撫でれば、感覚が研ぎ澄まされてむしろ自分の指先のざらつきを感じる。そのまま唇まで移動させて、下唇に人差し指を引っ掛ける。そして、下にずらせばその先から白い歯がその姿を覗かせた。


 この先、なにをすれば良いのかは思いつかなくて、私はそのまま手を落とす。人差し指だけで気管をなぞるように首を通り過ぎていき、最終的には鎖骨に着地する。

 先ほどの頬とは対照的に骨らしい硬さをもつそれに驚きつつも、気にせずそのまま更に下へ落としていく。


 そこにあるものは、私にもあるものだけれど、私には彼女ほどないもの。そして、他の場所とは違って、気安く誰でも触れることができるような場所じゃない。だからか、心臓が罪悪感とともに高揚を伝えてくる。今さら罪悪感などを感じるのは、むしろ失礼なのではないかと、適当に言い訳を並べて意を決した。


 膨らんだそれの輪郭に沿うように、脱力しつつ指先を登らせる。一瞬一瞬、心臓はばくばくと早い割には、頭は夢のせいか真っ白になっていて、時の進みが異常に遅く感じた。

 頂点に近づけば近づくほど、今悪いことをしているなと、罪悪感が募っていく。けれど、変な興奮が罪悪感をかき消して、判断力を鈍らせた。


 手を広げ、べたりとくっつかせた。指一本一本がその膨らみに丁度合って、触覚的に形が伝わってくる。ここまでしてしまったのなら、もうなんでもいいだろうと、私はそのまま手に力を入れて押し付ける。

 反発よりも柔軟さが勝っているそれは、私の手を一切拒まず、されるがままに押し潰されていく。そして、段々と柔軟さよりも反発が勝っていったころだった。


 ドクンッ。


 微かな揺れがあった。同時に、手を通してその音が伝わってくる。

 それが心臓の音だということは、考えずともすぐに気付けることだった。でも、それは生命を感じない、ただ心臓だから動いているのだという、非常に淡泊なものに感じるのだ。


 心臓の音を確かめたかった。


 そういうことで、今の行動を片付けることにした。


 上半身には触れた。次は下半身だろうかと、視線を落とす。そのとき、彼女のふとももの上にある手が視界に入った。手は下半身ではないけれど、触れたい場所なのは間違いなかった。


 手首を持って、そのまま持ち上げる。ここが夢の中だからか、思っていた以上に軽くて、簡単に持ち上がる。

 片方の手で彼女の手首を掴みつつ、もう片方の手で彼女の人差し指に触れる。指の形、間接の位置まで確かめるように付け根から先の方まで動かしたら、私は手を広げて、指を彼女の指の間に差し込んでいく。


 こういうのを、恋人繋ぎというのだろうか。


 恋人繋ぎどころか、手を繋ぐという行為すら母親との思い出しか存在していないが、これこそが私の望んでいたもののように思える。

 変な場所に触れるよりも、もっと意味がありそうで、変に心臓も焦らない。


 ただ、少し寂しくも感じた。

 私は、彼女の手が落ちないようにした上で、触れている。それなのに、あちらからは一切触れてこない。もし、ここで彼女が握り返してくれればと、思ってしまうことはいけないことなのだろうか。

 そもそも、今の彼女に自由意志が存在していないからこそ、これまでの一方的な触れ合いが許されているのだから、握り返してくれるなんてありえないのだった。


 一方的に繋いでいる手を、一方的に離す。

 残ったのは、寂しさから生じる意味のない苛立ちだった。

 視線が落ち続けるなか、彼女の手をどかしたことで現れたのは、彼女のふとももだ。


 スカートに覆われたその先には、彼女の足が出ている。そしてその足は、更にタイツで覆われていた。

 微かな苛立ちが私を突き動かして、私は手を潜り込ませた。


 彼女のふとももに手を置いて、そのまま奥へ奥へと滑らしていく。スカートに覆われていても、手の感触から中身が伝えられて、その度私の心臓は震えた。


 私は今、間違いなくダメなことをしている。

 それに気付いているけれど、既にダメなのは確定しているから、今のこれも誤差でしかないと、自分に言い訳をしている。


 奥へ滑らしている手を、内側にずらす。奥へ進む度、ふとももの形を伝えるように、肉の膨らみを顕著に感じる。


 ああ、ダメだ。


 そう気付いている。わかっている。ただ、理性は夢に溶かされていた。

 顔全体に熱が溜まっていて、夢の中なのに喉が渇きそうだ。目の水分も蒸発してしまいそう。鼻息が異様に熱い気もする。

 きっと、私は今、自分に幻滅してしまいそうな表情をしているのだろう。


 もしそれを彼女に見られたらどうなるのだろうか。いや、それ以上に気になるのは、彼女も私と同じような表情をしているのかだ。

 同じような表情をしているのなら、もう全てがむちゃくちゃになりそうだし、むちゃくちゃにしてしまいそうだ。


 ずーっと下げていた顔を上げて、彼女の顔を確認する。


 彼女は、無表情だった。


 ―――そこで、目が覚めた。

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