第11話 会長さんに会ってみます
王城の応接室――先日王子とお話をしたところとはまた別の部屋です。私はその部屋の前にいます。
「この先にレガシア商会の会長さんがいるんだね」
「そうっすね」
王城に訪れている会長にメイドさん伝いに会えるか聞いてみたところ、奇跡的に時間があったという事で、様子を見てみることにしました。
「……いきなり殺されちゃうとか無いよね」
「さすがに王城だし無いと思うっす」
バレてないよね。私が姫様を匿っていること。うん、バレては無いと思うんだけど……思うんだけどさ。
うう……これだけ考えるなら帰れば良かったのに……なんで会うって言っちゃったんだろう……
「良いから入るっすよ」
「あっ、ちょっ、ちょっと」
リリナが待てずに扉を開けます。
「失礼するっすよ~」
「そんないつもの口調で……失礼します」
部屋に入ると、中央には立派な机と椅子。大きな窓からは外の庭園が見渡せて、壁には絵画や装飾品が程よく飾られています。どこか重厚な雰囲気だけど、圧迫感はない品の良い空間。
そんな部屋にあまり似つかわしくない人物が、堂々とした態度で椅子に座り、グラスを手に酒を飲んでいました。髭が口元をすっかり覆い隠してしまっており、その……恰幅がとても良い方です。いかにも商人らしい、壮年のおじさんでした。
「うん?……ほう、貴様か。わしに挨拶をしたいというのは」
「……はい」
ぎょろりとした目つきで、いかにも品定めをされるような様子で見られた気がします。
でも……不思議と緊張感は消えました。この人が……クーデターを起こそうとしている張本人。ごくりと自分の唾を飲み込む音が聞こえました。深呼吸を一つ。
「初めまして。お祭りに出店をする『マジカルシュガー』店主兼辺境伯付錬金術師のミナモです」
出来るだけ丁寧に挨拶をすると、会長はガッハッハと愉快に笑いました。
「わざわざ挨拶などいらんのに偉いのう!このトルサート王国1大企業のわしの時間を取って挨拶など!」
「……ごめんなさい」
「冗談じゃよ!」
違う意味で冗談じゃないですし、挨拶でもありません。情報収集です。私は胸の奥で静かに、ふつふつと湧き上がる怒りの源流を静めこませながら顔を上げます。
「師匠、落ち着いて」
リリナがそれに気づいたのか小さな声を掛けてきます。うん、平常心平常心。
「これ、あの、手土産っていう訳じゃないですが……」
いや、手土産なんですけど。なんかもうよくわからない気持ちになってきました。
「これ、クッキー、焼き菓子、ですが……」
恐る恐る差し出すと、会長は興味深げにそれを受け取り、鼻を近づけて匂いを確かめます。
「ほう……」
一つ手に取り、ぽいっと口に放り込みました。
「……美味いじゃないか!」
まるで子供のように満面の笑みを浮かべ、会長は豪快に笑います。
「光栄です」
「思い出したぞ。少し話題にはなっているのは貴様じゃな?珍しい菓子屋だと」
会長の視線が私を値踏みするように見ています。
「貴様、今の今まで何をしていた?」
「それが……実は記憶喪失で……」
私の言葉に会長は顎髭を指でなでながらうなずきました。
「ふーむ、なるほど。事情があるようだな……もし時間があればわしの商会に来ないか?」
……えっ、スカウトですか?
唐突な誘いに驚いていると、リリナが小さく声を上げます。
「おお、師匠、やっぱり目をつけられてたっすか?」
「リリナ……」
「……冗談っす」
私の雰囲気を察してか、和ませようと冗談を言うリリナですが、残念ながらそんな気持ちじゃないです。ため息を軽くし……ちょっとリリナに悪いことをしてしまった気がします。。何かで埋め合わせしましょう。
それはともかく。会長はグラスを机に置き、背もたれに体重を預けながら続けます。
「目をつける、というほどではない。ただの興味じゃよ。だが、明日であれば奇跡的に時間がある。来ると良い。色々と話をしよう」
会長はにやりと口元を緩め、グラスを持ち上げ、またお酒を飲みます。
どうしましょう……商会ですか。見ようによっては敵の本部という事になるでしょう。
「真面目な話、行っても良いと思うっす」
私の耳元で耳打ちをします。
「情報収集も出来るっす。更には商会としての経営手腕の情報も……」
……二番目のはリリナの趣味じゃないかな。うん、まあ、でも、そう、これは良い機会かもしれません。明日の訪問で、この商会とクーデターの関係を少しでも掴めれば。
「じゃあ、お願いします」
「決まりじゃな!ガッハッハ!」
会長の豪快な笑い声が部屋に響き渡り、私は改めて小さく頭を下げました。明日、一体どんな話になるのか。不安と期待を胸に、私はリリナと視線を交わしました。
――
「と、いうことで商会の本部に行きます」
「いや、ということって言われても、展開が急すぎるわよ」
ばあやの家でアフタヌーンティーを楽しんでいるアーニャに私は言います。
「よく行けるわね、私にあそこまで言われておいて」
紅茶をすすりながら呆れたような顔で私を見ています。
「いや、成り行きと言いますか何って言いますか……」
「あたしの助言っすよ。敵情視察は一番情報を得やすいって前に軍記で読んだっす」
勝手にアフタヌーンティーから勝手にサンドイッチを奪って食べます。
まあ、危険なのは私も知っていましたけど、私なら辺境伯付だし危険も軽減されるでしょう……多分。
「ところで……」
「ん?どうしたの?」
「ここにいる間ずっとなんか食べてるんです?」
昨日も同じの食べてたような……?
「だって私狙われているんだもん。あー、外出たい。暇ー」
ほんとに緊張感ないですね……
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