第18話 農業改革始動!

「よしっ、六等官として、まずはこの魔王領の農業を立て直すぞ!」


 サクラは新たな住まいで、気持ちを引き締めた。まずは現状をきちんと把握しなければならない。

 サクラは市場庁舎の資料室に足を運び、過去の農業に関する記録を調べ始めていた。

「うーん、やっぱり穀物自給率が低いな……」


 その時、背後から元気な声が響く。

「何か困っているの?サクラちゃん」


 振り返ると、ゴブ太がにこやかな顔で立っていた。


「あ、ゴブ太。ちょうど気になることがあったのよ」

 サクラは資料を指し示しながら話し始めた。


「ここには冬小麦の収穫記録しかないんだけど、他の作物ってあまり作られていないの?」


 ゴブ太はしばらく資料を眺めた後、軽く肩をすくめて答える。

「んー、実はあんまり他の作物には手を出してないんだよね。魔王領の土地では、冬小麦が一番育ちやすいってことで、ほかの作物を育てる余裕がないって感じかな」


(……やっぱり、多様な作物を育てるって発想自体が、あまり根付いてないのかも)


 サクラは少し考え込みながら、内心でため息をついた。

「それにしても、これじゃ土地がどんどん痩せちゃうわね」


 ゴブ太は真剣な顔でうなずいた。

「そっか、土地のことも気になるんだね。でも、大丈夫!サクラちゃんのアイデアがあれば、きっと解決できるよ!」


 その言葉に少し安心したサクラは、資料を閉じると、すぐに兵隊長アルドリックの執務室へと向かった。


「兵隊長、ご相談したいことがあります!」


「む、サクラか。どうした?」


 いつも通り冷静な口調で応じるアルドリックに、サクラは勢いよく語り出す。


「魔王領の農業を改善するために“三圃制さんぽせい”っていう農法を導入してみたいんです!」

「土地というのは、同じ作物ばかり育てていると、必ず地力が落ちていきます。それを防ぐために、耕作地を三つの区画に分けて――

――毎年、秋まき、春まき、休耕と順番に区画を回していくんです。これなら土地が休まって、栄養も回復しますし、違う作物を植えることで病害のリスクも分散できます!」


 アルドリックは、サクラの説明を静かに聞き終えると、顎に手を当ててしばし考え込んだ。


「……なるほど。理にはかなっているな。一度、陛下に相談してみよう」


 *****


 魔王城――


 重厚な扉の前に立つ衛兵が、アルドリックの来訪を魔王ゼファードへと伝える。

 低く威厳ある声が響き、入室が許可された。


 アルドリックは恭しく膝をつき、頭を垂れた。

「陛下。サクラが提案いたしました“三圃制”という農法について、ご報告がございます」


 魔王ゼファードは、深紅の瞳を細め、静かに口を開いた。

「……うむ。土地の地力を回復させるという話であったな?」


「はい。私もサクラより詳しく説明を受け、理にかなった農法だと判断いたしました。しかし――」


 アルドリックは慎重に言葉を選びながら続けた。

「この農法を導入するには、現在の農地制度が障壁となります。魔王領の農地は国家から農民に貸し出されている形式です。休耕を強制する場合、反発が出る可能性もございます。

また、貸し出しから日が浅い土地も多く、無理な介入は、民からの信頼を損なう恐れもあります」


 魔王は深く頷いた。

「……民の信頼は、国家の根幹。軽率な行動は慎むべきだな」


 そして少しの沈黙の後、再び口を開いた。

「だが、サクラの提案は、長期的に見て魔王領の食糧問題を解決する有効策であろう。――まずは、以前の試験畑での成果を待って、それを元に更なる計画を立てるべきだ。

 成果が出れば農民たちも納得しよう」


「はっ、確かに。成果が出れば、農民たちも理解し、協力してくれるでしょう」


 アルドリックは深々と頭を下げた。



 数日後、市場庁舎にて――


 サクラは再びアルドリックに呼び出された。

「陛下と話してきた」


 重々しい口調でそう言われ、サクラは息をのむ。

「……いかがでしたか?」


「陛下は貴様の提案にご興味を持たれた。そして、まずは既存の試験畑の成果を見て、その後の展開を考えるよう命じられた」


「……あの畑の結果を見て、次に進むのですね」


 サクラは、少し安心したように頷く。


「ああ。成果が出れば、農民たちの理解も得られるだろう。その上で次のステップを踏み出すことになる」


「わかりました! 試験畑の管理、引き続き頑張ります!」


 サクラの瞳は、希望に満ちた光で輝いていた。

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