第7話 番長、掴む

西園寺が出て行った後。

ヤスの腕のツりを治してやり、獅子王とヤスは話し合っていた。


「当面は家の問題も身元の問題も解決したな、ヤス」

「棚ぼたでやんす。けど、一般人とは思えないでやんす。この家の大きさもそうでやんすけど、何者なんでしょう?」

「政治家の娘……いや、海外勤めって言ってたな。金持ちってことくらいしか見当つかねえな」


身元保障もしてくれて、寝床ももらえて幸運である。

しかし、


「……世話になりっぱなしも悪いし、何かしねえか?暇だし」

「家事とかどうでやんす?こんなに広いでやんすから、掃除も大変でやんすよ」

「おっし、やるか!」


まずはご飯を作るのはどうだろうか。


獅子王は料理はチャーハンぐらいしか作れないが、ヤスは何でもござれのエキスパート。

自由に使って良いと言われたので、お言葉に甘えよう。


「俺はゴミでもまとめておくか」

「それじゃ、アッシは冷蔵庫の中を失敬して(パカッ)、…………あれ?」

「どうしたヤス?」


何故か冷蔵庫の前で立ち尽くすヤス。

気になったので獅子王も冷蔵庫を覗くと、


冷蔵庫の中

•卵2個

•ヨーグルト(賞味期限切れ)

•とろけるスライスチーズ1枚


冷蔵庫の大きさに対して、スカスカだった。

続いて冷凍庫は、


•デッカいバニラアイス(2口食べた形跡)

•冷凍餃子

•冷凍チャーハン


「人様の冷蔵庫開けて言うのもなんだが………なんか意外だな」

「そうでやんすね。野菜があって、冷蔵庫にはタッパーに入った料理がズラ〜とストックされてるもんかと」

「このデッカい箱のバニラ。最初テンションで買って、すぐ飽きたんだろな」

「一人暮らしあるあるでやんす」


獅子王と話しながらも、これでは料理が出来ないと判断したヤスは冷蔵庫を閉める。


ふと、台所にあった大きめの蓋付きゴミ箱が気になった。ゴミ箱を中を確認すると、空の弁当ケースや宅配ピザの箱が。


「料理、苦手なんでやんすかね?」

「あんな美人でも俺らと変わんない食生活なのか」


であれば、なおさら心のこもった手料理を食べさしてあげたいが、調理する物が無い。

うーむと悩み、獅子王は思いつく。


「ヤス。俺らの虎の子の小銭。あれで食材買ってきて何か作れないか?」

「アッシ達の全財産でやんすか?それは、………うーん?」


一抹の不安はあるが、身元保証人になってくれるという話だ。

今後はバイトで稼いでいけばいい。


「恩には報いるべきだ」

「……そうでやんすね。アッシは買い物に行ってくるでやんす。アニキはその間、」

「部屋の掃除くらいなら出来るから、任しとけ」

「では、行ってくるやんす!」


ヤスはそう言って颯爽と買い物に出かけた。


「……さて、掃除しますか」


残った獅子王は掃除のため、周りを散策するが、


「……綺麗だな」


プロが掃除したのかってくらい、綺麗だ。

ソファ下やカーペットの裏、テレビの裏も確認したが、埃ひとつない。


掃除するところが無さすぎて、バルコニーへ移動する。

バルコニーに通じる大きなガラス戸を開けて出てみると、とんでもなく広い中庭と、オシャレな椅子があった。

そして、もちろんここも綺麗。


「掃除するとこ無ぇじゃねえか。……手持ち無沙汰だな」


『にゃーん』


「ん?……猫。野良か?」


庭園を見ながら何をすべきか考えるていると猫の鳴き声が。

視線を横に向ければ、1匹の三毛猫が歩いていた。


この家の飼い猫かとも思ったが、首輪も無いし、先ほど家内を散策した時に猫を飼っている痕跡は無かった。


「にゃ〜ん♪」

「野良にしては人懐っこいな、コイツ」


しゃがんで目を合わせれば、猫は近づいてきて獅子王のスネに体を擦り付けてきた。

ゴロゴロ喉を鳴らし、やけに甘えてくるので撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。


猫はもっと撫でろと言わんばかりに、ゴロンと腹を見せてくる。


「……さてと。何か出来ること探すか」


しかし、獅子王はそれを介さずにバルコニーから移動する。

家の中へと戻り、ガラス戸を閉めて、


「にゃー!」

「あ、おい!」


するりと閉まる直前に隙間から、家へと入り込んだ猫。

慌てて捕まえようとするが、遊んで貰えると勘違いしたのか、するりするりと避けて、逃げていく。


獅子王は家具にぶつからないよう気をつけながら猫を追いかけるが、見失ってしまった。


「どこ行った?」

『にゃ〜』

「2階か!……って、行けねぇ」


西園寺から「2階には行くな」と釘を刺されている。


猫に呼びかけて降りて来てもらうか、と悩んでいると、


───ガタンッ!


何かが倒れる音がした。

高価な物が壊れでもしたら、と最悪のケースが獅子王の頭をよぎる。


「ああ、しょうがねえ!」


背に腹はかえられない。

心中で謝りながらも、急いで2階へ。


階段を上がれば2階も広く、大きな廊下に鏡合わせのように扉が6つ。


廊下に猫の姿はない。

5つの扉は閉じているが、


「ここだけ開いてる」


一つだけ、扉の隙間に服が挟まっているせいか、少し開いている。


恐らく猫はこの部屋にいるが、


「どう見ても女もんの服だよな、コレ」


扉に挟まる形で廊下に出ている服は制服らしきのスカート。

たぶん、西園寺の部屋だここ。


女子高生の部屋に入るのはどうしたものか、と躊躇したが、


───ガシャンッ!!


「だあぁぁぁ、南無三!」


再度何か倒れる音がしたため、やむを得ず入る。


「ネコ出てこ………ん?」


そこは、女子高生の部屋らしくなかった。

家具はベッド、机、ソファ、本棚と、どれも一級品のようだが、とある理由で一階の物とは違いくすんで見える。

脱いだ服が床に羽織りっぱなし、壁際には本棚があり、テキストが1/10、残り1/9は漫画。

ベッドの上にはやたらめったらな物が乗っており、慌ててこの部屋に物を詰め込んで片したみたいな印象。


率直に言ってごちゃっとしていた。

西園寺のシャンとしたイメージに合わず、別の人の部屋にでも入ったかと錯覚した。


野郎おれらの部屋みたいに散らかってるな。……いや、こっちの世界だと西園寺は男子校生なわけだから、これが正常なのか?」


……って、そっちじゃなくて。


「ネコどこだ〜。出てこーい」

「にゃー」

「声は……ベッドの下か」


床に脱ぎ捨てられた服を踏まないように気をつけながら、ベッドに近づく。

獅子王は大きい体を屈めベッドの下を覗くと、暗い中に二つの小さな光が。


「……にゃ」

「逃げるなよー………捕まえた!」

「にゃッ?!ニャ、ニャニャ!!(コンッ!)」

「暴れるなって………なんか蹴ったな?」


素早く猫の首をむんずと掴み、暴れる猫を逃さないように気をつけながらベッド下から引き摺り出す。


途中、猫が暴れている時に何か蹴った音が。

先ほど落下音がしていたし、何か猫がベッド下にでも物を落としたのかと思い、右手で猫を確保しながら、左手をベッド下に突っ込む。


件の物はすぐに掴めたので、取り出して確認する。


「ん、んん〜〜〜〜〜?」


それは、薄いプラスチック製のケース。

Blu-rayケースである。


ジャケットは、ムキムキなガタイの良い野郎が陸上部の格好をしている。

そして、見たくもねえが、服のサイズが合ってないのか下がぴちぴちでモッコリが強調されている。


その、タイトルは、


「ええと、なになに?『高身長◯ックス筋バキバキ陸上部コーチの腕立て練習台にされた私達〜肉欲陸上祭〜』」


しばらくして、………………


「ああ、これAVか」


───ガシャン!


獅子王の背後から何か落ちる音が。


猫はしっかり今も掴んでいる。

ヤスは現在買い出し中。


ということは。


「──────」


チラリと見ると、部屋の扉の前でバックを落とし固まっている西園寺が。


凛々しい顔立ちは固まっており、しかし、視線は獅子王の持つBlu-rayディスクケースに。


沈黙は数秒、そして、西園寺の肩がワナワナと震え、顔が赤くなっていき、


「……ぅ、ワァアアアアアアアアアアアアアッッッ$#☆♪ーーーー!!??!」

「待て、これには訳が待っ!ヌゴオッーーー?!」


獅子王は奇声を上げた西園寺に見事な巴投げを喰らい、部屋から叩き出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る