21/ねるねるねるねるねるねるねるねるねる
「流石ねシルルセスタ」
「シトゥネ!?」
「様をつけなさい。私は一応ダークエルフの祖先であり爵位は高いのよ?」
聞きなじみなど当然ない声色で、年長じみた口調。それが本当にグリフェノルではないことを裏付ける要因。しかし謎の声が発した言葉とシールの本名から彼女の知り合いであることは確かだ。
続けて謎の声はシール以外が疑問に思ったことを答えるように声を出す。
「改めて皆さん初めまして。私はエルフの森長老。シトゥネ・ルークラ・ネルネ・ルエよ。ちなみに今はこのクズみたいな魔王の体を借りて話をさせてもらってるわ。そもそもなんなのよそこの人間。最初は貴女に乗ってこの話するつもりだったのに、弾かれまくって魔王に入るしかなくなったじゃない」
「ね、ネル……ねるねるねる〇?」
魔王から発せられた凛とした声。その主はエルフの森にて長老、いわゆる女王的な立ち位置にいるシトゥネ。当然シールよりも偉い存在であり言葉だけでも風格が滲み出ていた、
しかし、そんなのはものともしないのがシャネアだ。グリフェノルの時のように長い名前に頭を悩ませては、ふざけた名前を口に出していた。
「ネルが多い! 第一何よねるねるねる〇って! まるで私が二、三人いるみたいじゃないの!」
「え、じゃあシトゥネだから、シネ」
「略し方がドストレートな殺害予告! というか私エルフの森の偉い人なんだけど!?」
「じゃあねるねるね、ねるねるねるね、ねるねるね」
「なんでリズムに乗って増やすの!? あとゲシュタルト崩壊するからやめて!? ……はぁ……もういいわ、ねるねるでもなんでも」
「ん。それでシカは何を伝えに来たの?」
「いやそこはねるねるねる〇じゃないの!? カはどこから来たの!?」
もはやシャネアと関わる上での洗礼と言うべきか、シトゥネが直ぐにシャネアに踊らされていた。当然怒りが蓄積してはいるが、何よりもどっと疲れるほどに振り回されていることに悔しさが勝っている。
もういっそ、こいつら全員出禁にしてやろうかと考えたシトゥネだが、彼女たちがここに来た理由を知っているが故に、それを行動に移すことはなくシャネアの問いに答えることにした。
「はぁ……私がここに来たのは、今までの行動を見てきた上で貴女たちに忠告するためよ」
腰に手をつけ、見下すような眼差しを向けるとそう声を出した。忠告などされる筋合いはないが一体何に対してなのか、更に疑問が増える。
いや、忠告というより嫌われることに思い当たる点はいくつかあった。
魔王の存在と今しがたのシャネアの言葉。そしてシャネアと魔王が旅を始めて直ぐに森を荒らした――とトレントが言っていただけだが――ことがある。それだけで嫌われたり、出禁になりうる可能性があるのは充分説明がつく。
だがシトゥネが続けて話したのは、思い当たる節とは全く別のものだった。
「一応言っておくけど別にトレントのことでも、魔王のことでも、貴女が私を虐めたのも関係は無いわ。貴女が元の世界に戻るために、その方法を私たちのところで聞きに来たのでしょう? 確かにあれを知識として会得しているけれど」
「なら教えてホエール」
「ホエールって何よ!? ルエはあるけどホエール入ってない!」
「鯨。でっかい魚。哺乳類」
「さすが異世界人ね……そんなのこっちに居ないから詳しく教えて欲しいわ」
「それより本題」
「貴女が始めた話でしょう!? ……ねぇ、シルルセスタ。この子ぶっ飛ばしていいかしら……」
少しずつ話が進む度にシャネアがふざけるため、いよいよシトゥネの我慢も限界に近い。何とか笑顔を保ってはいるが眉間に皺を寄せていたり、ただならぬ雰囲気を出していたりとしており怒り心頭な様子。
これにはシールも同情しかなくシトゥネの言葉に呆れながらも頷いた。
いつもならノエルが阻止を試みるはずだが、ノエルも流石に同情の意を示しており、シャネアに目を合わせることはなかった。
守る人はいない。その事実に顔を青ざめ大人しくぶっ飛ばされ……ることはなく、代わりにこめかみを抉るように拳骨でぐりぐりされることとなった。
ある程度怒りを沈めた後、涙目で頭を抑えているシャネアを他所にシトゥネは本題の続きを語り始める。
「――話は戻すけど、あれを今の貴女に使うと間違いなく死ぬのよ。魔王と初めて契約してから貴女の中には瘴気が巡っている。本来人間にはないものなのよ。それに契約解除したら瘴気の逃げ道がなくなって死ぬことになる。これが意味していることがわかるかしら?」
「元の世界にはクソ犬は行けない。つまり契約が破棄される……元の世界に戻ると瘴気が出せなくなって死ぬってことですね」
「クソ犬って……貴女の上に立つ者でしょう!?」
「犬に変身するからクソ犬です」
「えぇ……まぁいいけど、でも今言った推測は正しいわ。まぁ他に方法が無いわけじゃないけどそれはそれでかなり危険なものになる。最悪死ぬわ。それでもいいなら私の元へ来なさい」
ノエルの魔王の扱いに軽く引きながらも、肯定して他にも方法はあることを言う。だが具体的には話すことはせず彼女の気配はすっと消えてしまった。
彼女の言葉が嘘では無いのならば、シャネアは実質元の世界に戻ることができない。しかし一つの僅かな可能性があるのも事実であることになる。
どのみち元の世界へと戻るのならば死を覚悟しなければならない事実。だが生きて帰られる可能性が僅かながらあるのならばと、シャネアはエルフの森の中へと入る決意を決める。
しかしその前に意識を失い倒れた魔王を起こさなければならない。しゃがみこんで魔王の頬をぐりぐりと引っ張る。
「起きてナルシスト」
「……はっ! ここは誰……我はドコ……って痛たぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「今からエルフの森に行くから着いてきて。栗をふるぼっこにしたいエルフがいるみたいだから気をつけて」
「頬! 我のプリチーな頬! もげる! 取れる! というか栗! 我トゲトゲしてる食べ物やった!? あれ美味しいんよねぇ……ってちゃうー! 我食べ物ちゃう! あとボコられには行きたくないわ!」
「いつものに戻った。一安心」
「いやここまで情緒不安定じゃないだろいつも。話もコロコロと変わってるし大丈夫か?」
「ダークエルフに同情されたぁぁぁ!」
「黙れ、落ち着け、封印するぞ、お前を」
「はい……」
起き上がったグリフェノルはいつも以上に動揺しており、ころころと表情やら話しやらが変わっていた。
シャネアからするといつもの事のようにしか見えていないが、代わりにシールが魔王の変化にきづき心配そうに見つめる。
けれどもその気持ちを壊すかのごとく、グリフェノルは涙を浮かばせながら叫び、シールの堪忍の尾が切れ睨みつけては威圧する。
それで怯んでは魔王とは呼べないようなものだが、一度負けている手前、グリフェノルは大人しくする他なかった。
「どのみち死ぬことになるかもしれないけど、元の世界に戻れる方法があるかもしれないから、とりあえず行こう」
しょげている魔王を後目にシャネアは森の中へと歩みを進め始める。なんて事ない様子を浮かべ、自らのために動いているが、強く握る手は静かに震えていた。
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