ゴブリン6体分の暮らし
街に戻った僕らは真っ先にギルドに行ってゴブリンの耳を換金した。
ゴブリンの耳6枚で60ルア、受付の女性は昨日と同じ人だった。
「少しは綺麗に剥ぎ取れるようになったわね」
とにこやかに応対してくれた。
その足で鍛冶屋にも向かい、昨日と同じようにナイフ2本を1本5ルアで引き取ってもらう。
「また地味なの持ってきたなぁ」
とガストンに笑われながらも、しっかり10ルア受け取る。
「今日の分で、合計……100ルアだね」
「昨日より多いわ!
だけどハルト、私ちょっと思ったの」
「なに?」
「地図、必要じゃない?
そろそろ本格的に探索するなら絶対に必要よ」
「確かに……。
今日は少し奥の方に行ったけど、帰り道が少し心配になったよ。
それに、道がわかってたら不意打ちのリスクも減らせそうだね」
「昨日ギルド周辺の露店を見て回ったときに、紙を売っている露店があったのよ。
今思えば、あれって地図とかを書く冒険者に向けて売ってるんだわ」
というわけで、昨日レインが見つけたという露店に行ってみる。
確かに紙の束と棒状の木炭に紐を巻いたようなものが売っていた。
後者は炭筆というらしい。
合わせて、10ルア。
「へえ、これが羊皮紙か。結構ゴワゴワしてるんだね。」
受け取った紙の束の表面を触りながらいった。
羊皮紙といえば、ファンタジーの定番アイテムな気がする。
「何言ってんのハルト。これは植物で作った紙よ。
羊皮紙はもっと頑丈でツルツルしてるし、値段もこんなもんじゃないわ。
何にも知らなんだから、もう。」
レインにクスクスと笑われた。
悪意のある笑い方ではないが、ちょっと悔しい。
いつかレインにテレビを見せて、
「ハルト、箱の中に人がいるわ!!」
「レイン、これはテレビと言って、箱の中に人がいるんじゃないよ」
と言ってやりたい。
「教えてくれてありがとう。
ところで地図係はレインに任せようかな。
僕の絵は……うん、ちょっとアレだし」
学生時代、美術と図工はお情けで評価3を貰っていた。
とても人が読める地図を描けるとは思えない。
「任せなさい、私、魔法陣を書く訓練をしてたから、
こういうのは得意なのよ!」
レインは胸を張ってそう言った。
その後は特に何も買わず宿に戻る。
宿に戻って、レインと部屋に入ろうとしたそのとき――
「あっ、そういえば洗濯物!」
二人で声をそろえて思い出した。
「ああ、そうだった取りに行かないと」
裏庭に回ると、干してあった洗濯物はちゃんと乾いていた。
手洗いで洗濯もの絞るのはずいぶん苦労したが、そのかいがあったようだ。
「そうだ、ゴブリンが持っていた銅貨も洗っておこう。
随分汚れていたから、そのままだと支払いに使えないかもしれないし」
井戸を見て思い出した。
「じゃあ、私はこの洗濯物もって部屋に戻ってるわ」
「了解」
泥と血、魔物の脂で汚れた銅貨を井戸の水で一枚ずつ丁寧に洗う。
終わって戻ると、部屋にはハルトの洗濯物もちゃんと取り込まれていた。
「ありがとう、レイン」
「ふふ、どういたしまして。じゃあ、そろそろ……」
「うん、身体を拭いて着替えたいね」
宿の店主に頼んで、タオルと水桶を再び借りる。今日も4ルア。
部屋で交代に身体を拭き、着替えを済ませると――
「よし、食堂行こう。今までで一番早い時間の晩ごはんじゃない?」
「まだ外、明るいしね。でもお腹は真っ暗よ。空っぽってことよ!」
レインがテーブルに着くなり、慣れた手つきで硬貨を並べる。
「えーっと、今日の稼ぎは100ルアあったけど、
地図とお湯を貰うのに使ったから、残りは86ルア。
それから、宿代が30ルアで、朝食代が10ルア。40ルアをよけて……残りは46ルアね」
「全部使うのはもったい気がするね。これからは少しずつ貯金してもいいかも。」
「賛成。でも各自が自由に使えるお金も欲しいわ。」
「確かにね。
じゃあ三分割はどう? 僕、レイン、そして共通のパーティ貯金」
「いいわね。
じゃあ、今日は……」
レインが銅貨4枚を食事代として横に置き、残りを仕分けしながら言った。
「1人、2ルアね・・・」
「まあ、何事もコツコツやっていくのが大切だよ」
やれやれ、食事をして屋根のある場所で寝る、普通に暮らすだけでも結構大変だ。
こうして思うと最初に装備に1200ルアを使えたのは、かなりの幸運だ。
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