4 ”彼女”の目覚め
がっくりと膝、と思われる部分をついてうなだれている。このロボットからしたら、何かを守ることが役割だからその使命を果たそうとしただけ。しかし聞かれてもないことをしゃべってしまったので相手に情報を与えた、そのことに今更気づいたようだ。
「話戻すけど、そっちには近づかない。装置を動かしてくれれば必要な水を持ってすぐに出て行くよ」
「それならありがたいし話は早いです。エネルギーを供給すれば最低限のライフラインが回復しますので、その装置も電源を入れることができるのですが……すみません、トモはしらないのです」
どこかしょんぼりした様子でそう言うが、気になったキーワードが一つ。
「トモっていうんだ」
「はい。そういえばあなたは? なぜここに来たのですか?」
「俺はアニタ」
どくん
「物資とかいろんなものがカツカツだから、何かもらえるものないかなぁと思って」
どくん、どくん
頼んだよ。必ず殺してくれ。一人も残さずに、全て
頼んだよ。
「泥棒ですか」
「身も蓋もないけど、まあそうだね。今使ってないものを分けてくれたらさっさと出て行くから」
きいいいいいん!
「へ?」
「え!?」
耳鳴りのような音。何の音だろうとびっくりしたアニタとは対照的に、トモは動揺した様子だ。
「まさか、あり得ません! なぜ!? キーはないはずなのに!」
「どういうこと!?」
「彼女が目覚めます!」
「はあ!?」
訳がわからない。しかし突然部屋の中に明かりがついた。それまでシステムダウンしていたのが嘘のようにすべての機械の電源がつき、音を立てて何かが動き始める。
「十秒でわかるように説明して!」
緊急を要しているのだけはわかるのでこう言ってみたものの。
「生体兵器が起動しました!」
「秒でわかったありがとう最悪だ!」
聞かなければよかったという内容にアニタは急いで扉に向かって走る。こういう時何かごちゃごちゃ考えていたら死ぬだけだ、考える暇があるのなら足を動かしたほうが絶対に良い。
扉から飛び出す瞬間ちらりと後ろを振り返ると、コールドスリープのようなシリンダーが壁から出てきたところだけ見えた。部屋を飛び出した瞬間に部屋の中から爆発音がして、様々な破片が飛び散ってくる。
「自らシリンダーを破壊した!? 凄まじい破壊力です、想定値の五百パーセントです!」
「そういうのいいから止める方法ないの!?」
「分りません! トモはデータ消去されてますから! 彼女のために存在すること以外何も!」
「割と絶望的な状況!」
部屋からゆっくりと出てきたのは若い女性だった。体のラインがわかるようなぴったりとフィットするボディスーツを着ている。長い髪は腰のあたりまで伸びており、おそらく十代後半位だろう。長い前髪で表情が見えなかったが、すっと上を向いたその顔は。
「こわ!!」
まっすぐアニタを見つめ殺意に満ちていた。そしてフラフラと歩き始め小走りとなりやがて走り始める。
「何とかして!」
「初めて会うので無理だと思います!」
「君の記録がないだけで向こうは覚えてるかもしれないじゃん!」
「あ、なるほど!」
生体兵器と言っていた。つまり遺伝子操作か肉体改造を受けている。確かに凄まじい速度で距離を詰めてきた。
(直線距離じゃすぐに追いつかれる!)
かといってカーブを曲がり続けたところで相手の足が速ければ追いつかれるのは時間の問題だ。いつもやる手だが体格の小ささを駆使して通風口などに逃げ込むしかない。
「こ、こんにちは!」
きああああ!!
「ダメです威嚇されました!」
声というより音に近いような絶叫を聞かされてトモは縮こまったようだった。ちなみに先ほどからトモは自分で走っているのではなくアニタに抱えられている。なぜなら部屋を飛び出したときに絶望的に遅かったからだ。
「今更ですけど助けてくれるんですね!」
「見殺しにするわけにはいかないでしょ! それに記録がないとはいえ君は唯一の手がかりなんだし!」
走り続けているアニタに代わってトモはカメラを使い、彼女の様子を観察してくれたようだ。
「まだうまく体が動かせないようですね、あちこちぶつかりながらだいぶ走るのが遅いです!」
「あれで!? あれで遅いの!?」
「彼女が本気出したら追尾用ロボットを置き去りにするぐらい速く走れますよ!」
「なんでそんなもの作っちゃったんだよここの研究者!」
今時人型の兵器など普通は作らない。大量に殺戮したいのならミサイルやガス、毒などが一般的だ。暗殺のため人にそっくりなアンドロイドが作られた時期もあったそうだが、半世紀もたたずに廃れたと聞いている。
「っていうかなんで俺を狙ってくるの!?」
「人間殺すための兵器ですから!」
「理不尽!」
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