2 宇宙に咲く花
旧世代の人類たちが惑星を飛び出して二百年が経つ。生まれも育ちも外宇宙のアニタには全くの未知の世界だ。そのため今教えられた情報がほぼ間違っていることに当然気づいていない。
「冗談はさておき」
「おいこら、どこからどこまで冗談だ」
「建物に特大の花が咲いているようにしか見えないが。あれはエネルギー収集用パラボラだ」
言いながらデルはデータから画像を見せる。
「半円型はエネルギーを集めやすい。カーブに沿って反射し集約しやすいからな」
「それはわかるけど。ツッコミしかねえな」
どう見ても一軒家に巨大な花が咲いているようにしか見えない。
「エネルギーを効率よく採取するために稼働領域を変えられる。あれが最大限に伸ばされた状態なのだろう。しかし研究施設だったらあんなものでエネルギーを集めずとも施設内でエネルギーを生成できるはずだ」
「確かに。なんであるんだ?」
「緊急用だな。それが立ち上がっているのなら、やはり事故があったのだろう。システムを回復するためにエネルギー採取に情熱を注いでいる真っ最中、というところだ。さてアニタ」
画像拡大し、ある一点をデルは指でトントンと叩く。
「このパラボラを牡丹と命名するとして」
「なにそれ」
「私の激推しの極東の島国に咲いていたと言われる花だ。芍薬、牡丹、百合は美しい女性の例えでもある。あの牡丹、なぜ光っていると思う?」
拡大された場所は確かに輝いている。宇宙にある施設は外部から盗撮されないよう、カメラに映らないシステムが構築されている。光と温度を調整して光学カメラには映りにくくなる仕様だ。要は勝手にモザイクがかかるという状況になるのだが、ここまで鮮明に見えるのはおかしい。
「熱源もあるね。光と温度のセンサーが壊れてあそこだけ暴走してるとか?」
「とても優等生な回答だがまだまだ。宇宙において一般常識は全く役に立たん、発想を四十八度傾けて考える必要がある」
「相変わらず例えがわかりにくい。つまり?」
デルはカッと目を見開いた。
「美少女が眠っているに違いない!」
「……は?」
「私激推しの
「いや、怪事件だろそれ」
「結局その娘は異星人で、故郷である別の星に帰ってしまったらしいのだが。この娘がとんでもなく美しかったそうだ、島中の男が結婚を詰め寄ってきたらしい」
「ここだけ聞いてるとかなりホラーなんだけど」
「男は常に美女を求める生物だ、Y染色体に深く刻まれている。抗えんな」
「嫌なDNAだな」
「男二人ではあまりにもむさ苦しいと思っていた」
「むさ苦しいのは一人だけだろ」
「そろそろウチにも女子が必要だ」
「はあ……」
深いため息をつくが、とりあえず超気分屋のデルがやる気を出したのは良いことだ。宇宙生活において待ちの姿勢は死を意味する。いけるときはいくしかない。
「じゃ、女の子目指してレッツゴー。仕事も忘れないでくれよ」
「大和撫子以外興味は無い」
「やま? まあいいや。行くよ」
人間、と呼ばれる者たちは何度も科学的発展を遂げてきた。発展しては滅び、発展しては滅びを繰り返し。とうとう宇宙に出て様々な場所で暮らし始めたのだが。
各地に適した生活をするうちに、違う遺伝子を持つ人間が現れ始めた。進化なのか突然変異なのかはわからないが。もはやオリジナルの「地球人」は存在しないと言われている。
残っている資料によれば母星では数回カタストロフィが起きているらしい。それぞれの世代で研究されていたこと、科学のレベルも質も様々なためロストテクノロジーがある日突然見つかったりするのだ。
それが役に立つものならまさに億万長者、歴史に名を残すレベルである。そういったスペースドリームを求めてこの職業になる者は後を絶たない。
アニタは半年前デルに拾われた。頭数が足りないから手伝えと言われてこの船に乗せてもらっている。前は人形のように無表情だったが様々なことを知り、次第に喜怒哀楽が激しくなりやかましくもなった。
光の中心に女の子がいるとは思えないが、なぜ光っているのか無視はできない。何せ依頼でここをきれいにしろと言われているのだ。出てきた物は全て引き取るのが前提、たとえ価値のあるものが出てきても依頼主には渡さないと言う契約も終了している。
お宝があれば一攫千金だが、危険ゴミを全部引き受けるのが条件なのだ。リスクは高い。
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