第6話 セルヴィは見た



 セルヴィはびっくりした。

 まさか、傭兵団と揉めている時にうちの領主に出くわすことになるとは。

 向こうは覚えていないみたいだけど、セルヴィは会ったことがある。

 父である町長がいまの若様が領主になる時に挨拶に向かった際に、セルヴィも同行しているのだ。


 執務机に座って疲弊し切っていた若様には、セルヴィの顔まで覚える余裕はなかったかもしれない。

 そして、いまここにいる若様は、とても生き生きとした顔をしている。


 そういえば町長パパも言っていたっけ?


『お前が若様と出くわすことになるかどうかわからないが、これだけは肝に銘じておけ。若様に、というか、代々の領主様に、難しいことを考えさせるな!』

『それじゃあ、まるでバカみたいじゃない』

『みたいじゃなく、バカだと思っておけと言っているんだ!』


 ……最初聞いた時は、意味がわからなかった。

 貴族だよ?

 領主様だよ?

 自分たちの主君だよ?

 ご先祖はセイダシーバ王国の勃興に関係する賢者様だよ?

 童謡にだってなっているような方の子孫だよ?

 なんでそんな方々の一人である若様をバカだと思わないといけないわけ?


 そりゃ、ちょっと書類仕事は苦手そうだったけど、そんな……。


 とか思ったけど、傭兵たちをあっという間に全員宙に放り投げるということをやってみせた時にわかった。


 あ、この人、本当にバカなんだ、と。


 すごくイキイキした顔をしてるんだもの、絶対後先のことなんか考えてない。


「はっはっはっ、これぞ正当防衛!」

「いやあの、若様?」

「え? バレてる⁉︎」


 バレていないと思っていたらしい。

 バレていなかったら、今頃衛兵を呼んでいるのだけれど。

 まぁ、若様を捕まえることができる衛兵なんて、この世にはいないとわかっているけれど。


「こんなのでも、大事な商品を運ぶ人手なんです。これだと、依頼を受けてくれないかも」

「むむむ……」


 というか、もう受けないでしょうね。

 それなら問題は、この後の傭兵ギルドとのやり合いの方になる。

 でも、この荷物も運ばないといけないんだけど。

 どうしたものかと思っていると、若様が質問してきた。


「どこに運ぶんだ?」

「え? とりあえず、南にある街です」


 そこまで運べれば、以前から契約している傭兵団と合流できるのだ。


「南? 国境を越える?」

「あ、はい。越えますよ」


 今回の荷物のほとんどは帝国の研究機関からだった。


「そうか。なら、俺がそこまで護衛をするよ」

「へ⁉︎」


 どうしてそうなる?

 あなた、領主様ですよ?

 しかも、この国でも一番に特殊な領主様。

 街から出ることだって、許されないのでは?

 それなのに、外に出るだけでなく国外にまで⁉︎

 無茶が過ぎるのでは?


「大丈夫、ちゃんとヴァスカールの許可はもらってるから!」


 あ、ヴァスカール様の署名がある通行証。

 なら、本当に大丈夫なのかな?


「ええと、それではお願いします?」

「任せとけ!」


 というわけで、南の街の名前と合流する傭兵団の名前を教えて、地図と商隊用の通行証を渡す。


「傭兵団『銀鹿団』だな。わかった!」

「あ、でも馬車の乗り手が……」


 それも傭兵たちがやる予定だったんだけど。


「ううん? 大丈夫じゃないかな?」


 そう言うと、若様は馬車の馬一頭一頭と顔合わせのようなことをしていった。

 みんな、一目視線が合うと、まるでわかったとでも言うように頭を下げている。


「あの、なにが?」

「ダンジョンで魔物を足に使う時の方法を試してみたけど、うまくいったな。こいつらの方が遥かに素直で良い子だ」


 なんて笑っている。

 ええと……魔物を足?

 つまり乗り物として使うということ?

 それってもしかして、【魔物支配】みたいなスキルということ?

 え? 【魔物支配】ってけっこう特殊なスキルだって聞いたことがあるような?

 若様に聖痕なんてあったっけ?

 いや……。

 さすがは若様、ということよね。

 深く考えるのはやめよう。

 大丈夫。

 ヴァスカール様が承認していらっしゃることなら、なんとかなるに違いない。

 ……信じますよ、ヴァスカール様。


「若様、道沿いに南に進んでいけばいいだけですからね。後、国境の警備隊とは喧嘩しないでください。この通行証を見せれば大丈夫ですからね。それから……警備隊と賊の区別は付きますか? 抵抗していいのは賊だけですからね」

「大丈夫、大丈夫」


 わははははは! と、若様は機嫌良く笑って行ってしまった。

 大丈夫かな?

 まぁ、あれ全部、若様がダンジョンで採ってきたものだから、自己責任ではあるんだけど。

 いや、それ以前に、大丈夫かな?

 若様に、ダンジョン以外のことを任せるなんて……。


 大丈夫かな?


 ああ、でも、こっちもこっちで仕事をしないと。

 まずは衛兵を呼んで、こいつらを拘束。

 あ、もう騒ぎを聞きつけてやってきているわね。

 優秀、優秀。

 領地の貴人に手を出したんだから重罪でいいわよ。

 後は傭兵ギルドに正式な抗議文を送るとして、あ、ヴァスカール様に報告して手伝ってもらわないと。

 ああ、大変だ。


 でも、心配だ。


 どうか、若様も大丈夫でありますように。


 でないと、私たちの生活がなくなってしまいますから。


 あっ、魔導通信から連絡が。

 国境警備隊から?

 え? もう着いてる⁉︎

 はいはい。

 大丈夫です。

 その人は大丈夫です。

 通行証も本物です!

 お願いですからその人を犯罪者扱いしないでください!


 ああ、危なかった。


 ていうか、普通の人でも馬車で二日はかかる距離を一時間もかからずに到着してるの?

 本当に尋常じゃないなぁ。

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