第33話 仁科の言葉、灰武の覚悟
作戦室に入ってきた仁科は、そのまま前へ出た。
その背後では、黒服の数名が静かに整列している。
「こいつらは……あんたらが知ってる『灰武』の残りだ」
そのタイミングで、シゲルが隣で息をのむ。
その表情には、驚きと畏敬が混じっていた。
「マジか……。阿久津さんの、あの『切り札』……」
そして小声で付け加えた。
「てか……何? 阿久津さんって、あの顔で、実はちょっと中二入ってた感じ?
『俺が死んだら動き出す影の部隊』とか、マジでやってたの……?」
沙織が、それを止めるようにシゲルの腹を肘でつついた。
――切り札。
それを聞いて、晃は阿久津の最後の言葉を思い出していた。
『あと、お前らのために──切り札をひとつ、残してある。
直接言えなかったが、阿久津剛としての最後の仕事だ。必要なときに、使ってくれ』
晃は胸元に手をやり、タグの金属の感触を確かめた。
阿久津さん。あれは──このことだったのか。
晃が口を開くより早く、仁科が淡々と続けた。
「阿久津さんが死んだ後、バラバラになった部隊のメンバーを、俺が──説得して回った。
あの人が残した『タグ』がある限り、彼らはまだ生きていると思ってな」
黒服の男たちは、何も言わず、それでもどこか凛とした佇まいで立っていた。
柿沼が短く補足した。
「……阿久津は、生前に指示を残していた。『タグを渡した相手に従え』と」
晃は無言でタグの感触を確かめた。
それは以前、柿沼から託されたものだった。
灰翼の作戦指揮官だった阿久津が、自らの死を覚悟して晃に託した軍用タグ。
その金属の板に、灰武の一部──阿久津が生前に個人的に動かしていた非公式の精鋭部隊──の命令系統が紐づけられていると、沙織は言っていた。
冷たい金属が、胸の奥でゆっくりと熱を帯びるような気がした。
彼らは大部隊ではない。
阿久津が密かに育てていた精鋭の少人数──
それでも、最も困難な局面で背中を預けられるだけの覚悟と技術を持っている。
極限状況における、見えざる一手。
──阿久津が未来に託した、最後の布石だった。
そのとき、整列していた灰武の一人が一歩前へ出た。
背筋を伸ばしたまま、冷静な声で言う。
「指揮官として、ひとつだけ確認させていただきたい」
晃が目を向けると、男は静かに名乗った。
「日比谷誠司。灰武、現隊長代理だ」
彼は晃をまっすぐに見据えた。
「──我々は、タグがあるから従うわけではない。
命令があるから動くわけでもない。
問いたいのは、ただ一つ」
一拍の沈黙ののち、日比谷の声が静かに響いた。
「あなたが掲げる『目的』は──我々が命を懸けるに足るものか?」
その空気に、わずかな緊張が走る。
晃は静かに目を閉じ、そして開いた。
言葉を選ぶようにして、ゆっくりと口を開く。
「──三千人を殺させない。そのために、『白の裂界』の真実を、世界に伝える。」
それだけだった。
だが、日比谷はそれ以上何も言わなかった。
代わりに、口元をわずかに引き締め、小さく頷いた。
「了解。任務内容、確認した」
そしてぽつりと呟くように続けた。
「……阿久津さんの意志を継ぐ者。納得した」
その言葉は、訓練された兵士のそれだった。
だが、その場の空気は明らかに変わっていた。
柿沼がふっと口元を緩めた。
「ようやく、面子が揃った」
***
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