40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界行ってた どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ

第1話 シゲル

「ロサンゼルス楽しみだな~」


 私の名前は江川 茂(エガワ シゲル)。今年で40歳になり、ためていた貯金をはたいてロサンゼルスに旅行をすることにした。20から働いて貯めた貯金。少しもったいないと思いながらも使った。もう仕事から逃げたいというのが大きな理由だった。

 意気揚々と飛行機に乗り込む。東京から10時間で到着。楽しみだな~。


『はは、役立たずがロサンゼルスに旅行ですか? いい御身分ですね。せいぜい楽しんできなさい』


『は、ははは』


 部長からの声を思い出す。私のは部長からの言葉を笑いながら聞き流していた。

 部長も旅行したかったんだろう。負け惜しみの言葉で見送ってくれた。

 まあ、私は嫌われていましたからね。仕方ない。


「ふぁ~……飛行機の中で眠りにつく。そうすればすぐにでもアメリカに……。スゥ~スゥ~」


 荷物を荷物入れに入れて椅子に座る。自分の寝息を最後に意識を手放した。


「ん、んん~……。あれ? 飛行機に乗ったんじゃなかったっけ? なんで地べたに寝てるんですか私?」


 目を覚ますとそこはロサンゼルス……。そう思っていたら全く別の景色だった。驚いて体を起こしてあたりを見回す。

 石造りの家々、アメリカというよりもイギリスやフランスといった街並み。まあ、行ったことがないから確かではないけれど。


「ど、どうなって……?」


 人通りのない路地で寝ていたみたいだ。路地を少し歩いていくと目の前を馬車が横切る。


「……まさか!?」


 馬車を見てすぐに私は気が付く。ここは私のいた現代の世界じゃないと……。

 馬車の通っていった大通りを観察する。出店が大通りの両端に出てる。その姿は中世ヨーロッパを彷彿とさせる。


「……何か喋ってるけど、わからないですね」


 出店のお客さんと店主の話が聞こえてくるけど、何を言っているのかわからない。英語のようにも聞こえるけど、聞いたことのある単語はでない。まずいぞ、これは確実に異世界転移だ。

 本来は喜ぶべきところなのかもしれないが、翻訳のボーナスみたいなものがないなら罰ゲームでしかない。っていうか死ぬ。


『グラム語を習得しました』


「え?」


 不安に頭がおかしくなりそうになると変な声が聞こえてくる。機械的な女性の声、システム音声みたいだけど、その声を聞いてから周りから、聞こえてくる声が日本語に翻訳されてることに気が付く。


「た、助かった。ゲームみたいにスキルがあるんでしょうか? それにしてもすぐに覚えすぎだけど……」


 不安が少し解消されて独り言が止まらない。ゲームの世界からステータスがあるかもしれないな。この手の話では【ステータス】と思うだけで数字や文字が出てくるはずだけど。そう思っていると目の前に透明な板が現れる。パソコンのウィンドウみたいだな。


ーーーーー


ステータス


 エガワ シゲル


 職業 旅行者


 レベル1


 HP 10

 MP 10

 

 STR 10

 DEF 8

 DEX 8

 AGI 7

 INT 5

 MND 5


 スキル


【スキル習得SSS】【グラム語】


ーーーーー


 思っていた通り、スキルを覚えるのに有利なスキルが付いてる。これのおかげで言葉が分かるようになったんだな。


「って! 喜んでる場合じゃない! どうするんですかこれ!」


 ステータスを見て喜んでるとふいに現実が襲い掛かってくる。現実逃避で喜んでる場合じゃないよな!


「持ち物全部飛行機の荷物入れに入れてたからな~。財布とスマホはありますけど……。スマホは圏外で充電方法は皆無。コンセントなんてないだろうし。財布はもちろん、意味ない。日本銀行券じゃあ無理ですよね~……」


 不安が募り募って独り言が爆発中。普通の人通りのある通りだからおかしな人を見る目が突き刺さってくる。それでも無視してくれるのは少しありがたい。


「こういった場合は冒険者ギルドだけど……。魔物なんかと戦えないですよ。どうしよう……」


 異世界転移物の小説やアニメではお決まりの冒険者ギルド。自慢じゃないけれど、私は喧嘩なんて一度もやったことがない。ましてや、動物を殺めるなんて私には無理です。刃物は包丁くらいしか持ったことないですし。


「ちょっとあんた!」


「ど、どうしましょう……」


「あんた! 聞こえてないのか?」


「え!? 私ですか?」


「あんた以外いないだろ!」


 不安で顔を青くしていると声がかけられる。革の鎧を着ている男性。兵士さんでしょうか? とりあえず、営業スマイルで話を聞くことに。


「私に何か用でしょうか?」


「用ってわけじゃないんだがな。怪しい男が独り言をずっと話していると通報があったんだ。あんただよな?」


「ええ!? 私! 通報されたんですか!?」


 兵士さんの話を聞いて私はショックを受けてしまいました。

 人生40年、一度も警察にお世話になったことはありません。それなのに、異世界に来て初日に通報……ショック!


「困ってるんじゃないか? ってなんで膝ついてるんだ?」


「え!? ああ、そっちの通報でしたか! よかった!」


 不審者で通報されたんじゃないみたいです。人相だけは自信あったんです! よかったよかった!


「そうなんです! 私困っています!」


「あ、ああ……。変わった奴だな」


 素直に兵士さんに困っていることをアピールすると彼に呆れられてしまいました。でも、困っているので相談に乗ってもらわなくては。


「話を聞く前に身分を証明できるもの持ってるか? 冒険者カードとか」


「え? なんですかそれ。運転免許証はありますけど」


「運転? なんだそれ、御者証明ってことか?」


 兵士さんの言葉に答えながら運転免許証を見せる。営業をしていると車を使うことが多いので免許は取っているんですよね。私の少ない自慢できるものです。

 免許証を見ると怪訝な表情をされる兵士さん。私の身なりもかなりおかしいみたいで頭の先から足先までじっくりと見られています。


「ん~、町に入るには身分証明をしないと入れないんだがな。それを知らないってことは……。【旅人】か?」


「【旅人】? 確かに私は旅行中でしたけど」


 兵士さんは首を傾げて気になる単語を口にする。旅行中に急にここに来させられてしまった私にピッタリな単語ですね。


「別の世界から旅をしに来た奴らのことだ。あんたみたいなきめの細かい服を着ていることが多いと聞く」


「あ、結構認知されてるんですね。それですそれ!」


 知っているのなら正直に話してしまったほうがいいと思い肯定する。目立つのは怖いのですが、この兵士さんは頼りになりそうです。強そうですし。


「そうか、旅人か。それなら冒険者ギルドに行くか」


「やっぱりそこなんですか?」


「ああ、何でも屋だからな冒険者ギルドは」


 兵士さんはそう言って歩き出す。私についてくるように手招きするので素直についていく。


「そうだ。自己紹介してなかったな。俺はルドラってんだ。冒険者をしてる」


「え? 兵士さんじゃないんですか?」


「兵士は依頼のないときにやってんだ」


 ルドラさんは副職もこなしている人なんですね。私は絶対にやりたくないな~。仕事は一つに限ります。


「で? 名前は?」


「私はエガワ シゲルです」


「ってことはシゲルだな。あまり家名を入れないほうがいいぞ。面倒ごとになる」


 ルドラさんは私の名前を聞くと忠告してくれる。なるほど、中世ヨーロッパですから家名、苗字は偉い人にしかついていないんですね。


「あと、旅人ってことは内緒にしておけよ。最初にあったのが俺でよかったな」


「あ、やっぱり内緒にしたほうがいいんですね」


「ああ、旅人っていうのは必ず何かしらの力を持ってるもんだからな」


 ルドラさんはそう言って大きくため息をつく。何か嫌な思い出でもあるようですね。知り合いに旅人がいるんでしょうか?

 さしずめ私の力はスキルでしょうかね?


「おっと! 俺にお前の力を話すんじゃねえぞ! 関わりあいたくねえからな」


 スキルの話をしようと彼の顔を見ると彼が遮って止めてくる。どうやら、私とかかわりあいたくないようです。これもショックです!

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