狂人サマ、異世界を攻略する

桜月ルカ

第0話 プロローグ

◇地球の少女◇


あぁ、つまらない


世界はなぜこうも面白みがないのだろう。誰もが羨む美しさも、世界を驚かす才能も、生まれながらに持ってしまっていた異常バグな私。どちらも表に出ることはなかったが。物心ついた時から、世界の事象全てを『知って』いた。知りたかったわけではない。自ら学んだわけではない。知ってしまっていた。


5歳の時だった。両親は私を恐れ、ひとり部屋に閉じ込められた。それ以来両親と顔を合わせていない。朝にその日の食事が置かれているだけのつながり。


もっとも、私は彼らを憎んでいるわけではない。むしろ哀れだとさえ思っている。多くの人は得体の知れないものにぶつかると、恐怖するものだ。私はそれを知っている・・・・・。べつに、退屈はしなかった。私の頭の中には膨大な事象が入っている。中には小説なんかもあった。それを脳内世界で読むだけでもそれなりの時間が潰せた。


ある時、小説を読んだ。長編のものを、10時間以上も没頭した。そんなことは初めてだった。読むことに集中することはあった。しかし、食事が来たことにも気付かないほど周りが見えなくなったのは初めてだった。それから私は起きている時間のほとんどを物語にてた。それは、私の『知っている』世界の外のことが多く書かれていた。ほとんどは世界が存在しないが、それなりの知名度を誇るものはその多くが世界となっていた。中でもお気に入りだったのは、いわゆるファンタジーものだった。それは全く私の『知識』にない法則だったからだ。


それなりの数の物語に神や天使と魔王や悪魔が出てきた。多くは前者が善、後者が悪だったが、後者が善、という物語も少なからずあった。私が好きなのは後者だ。


私は別に善人というわけではない。悪人でもない。『自分』をもっていない。それは5歳の時から人とほとんど会っていなかった故の未成熟さだろう。しかし、無邪気なわけではない。この世界の美しさ、歪さ、邪悪さ、綺麗なところも、汚いところも知ってしまっている。人格と知識が釣り合っていない。


私が欲しくもないのに得てしまった能力の名は『全知』。


おそらく、他の世界から混ざってしまったのだろう。この世界に私と似た形の魂を持つものはいない。逆に、ほとんどの人々は似たりよったりの魂をしている。全く同じものはないが。


来世では元の世界に戻れることを願う。


私はつまらなかった。


私は楽しいことをしたい。


私は欲望のままに行きたい。


私は私が面白いと思うことをしたい。


何かを全力でやってみたい。


人を思いっきり不幸のどん底に重してみたい。


世界を自分の思うがままに支配してみたい。



その願いがこんなふうに叶うとは思わなかった。スリル満点で楽しくて、面白くて、退屈しない。とっても王道な異世界への転生なんて。こんなに楽しそうな世界に招いてくれてありがとう。私はこの世界で自分の思うがままに、欲望のままに生きていくよ。私の思うがままに、俺色に世界を染めてみせる。


楽しい楽しいこの世界に招いてくれたこと、心から感謝するよ。俺の行動で起こる世界の変化をぜひみてくれよ。


カ・ミ・サ・マ♪



◇少年◇


どいつもこいつも嫌いだ。


厳しかったけどおれのことを思ってくれていた父上も、おれのことをすごく大切にしてくれた母上も、学園から帰ってきたらよく遊んでくれた兄上も、ずっと優しかった姉上も、おれに懐いていたセイディも、みんな離れて行った。変なスキルを授けられたから。


どんなスキルをとっても祝福してくれるんじゃなかったの?父上。どんなスキルをとってもおれの味方なんじゃなかったの?母上。兄上も、姉上も、セイディも、何があってもおれたちは兄弟なんじゃなかったの?


きっと、きっと、頑張ったらまた褒めてもらえるよね?父上も、母上も、兄上も、姉上も、セイディだってまたお兄様と言ってくれるよね?おれ、みんなに認められるためならなんだってやったよ?


使用人の部屋よりも小さな物置のような部屋に移動させられても、みんなに暴言を吐かれても、使用人にゴミを見るような目で見られても頑張ったよ?


毎日走り込みを限界までやったよ。最初は10kmくらいが限界だったけど、今ではほとんど限界なく走れるようになったよ。

剣の素振りを毎日何千回もやったよ。最初は腕に力が入らなくなって何もできなくなったけど今では余裕でこなせるようになったよ。

誰もいない夜に訓練場で打ち込み稽古をやったよ。最初は続けて100回もできなかったけど、毎日続けたら5000回以上できるようになったよ。

武器は1種類だけじゃダメだと思って、いろんな武器を使えるように頑張ったよ。最初は全然使い方がわからなくて、ダメだったけど、今ではどれもある程度使えるようになったよ。

魔法も使えた方がいいと思ってたくさん魔導書を読み込んで、たくさんたくさんたくさん練習したよ。最初はマナなんて全くわからなくて、無茶だと思ったけど、今では図書室にある全部の魔導書の魔法を習得して、使いこなせるようになったよ。

………


ねぇ、どうやったら認めてくれたの?どうやったらまた家族になってくれたの?どうやったらおれに笑いかけてくれたの?


おれ、本当はわかってたんだ。父上も母上も兄上も姉上もセイディも、もうおれを家族にしてくれるかもはないって。

おれ、やっとこの事を認められたんだ。だから、なるべくみんなの視界に入らないように、存在すら忘れらるるように、静かに、息を殺して生きようと思ったんだ。







でもね、






ある事を知ったんだ。『ディーセルン侯爵家の次男は4年前に病気で息を引き取った』っていう話を。おれはね、みんなにおれの存在をユルしてもらうだけで良かったんだ。無視されても、暴言を吐かれても、それこそゴミのような扱いをされても、良かったんだ。

おれの存在を否定しないなら。


それでね、思ったんだ。おれはこんな家族に認めてもらうためにこんなに頑張っているけど、頑張る理由ってなんだろうって。


それでね、

おれは、こんな家族とは家族じゃなくなりたいなって思ったんだ。


おれは、おれが頑張ったことを認めて、受け入れてくれるヒトと家族になりたいなって思ったんだ。


おれは、おれみたいなやつが、他と違うから排除される人が減ったらいいなって思ったんだ。





あと、こんな家族みんな、みーんな人生のどん底を味わって、味わって、味わい尽くしてから地獄に堕ちてほしいなって思ったんだ。


だから、こんなすごい頭をくれたカミサマにはとっても、すっごく感謝しているんだ。

これからこの世界をおれの望む通りに、俺の欲望のままに変えていきたいんだ。


まだまだ遠いと思うけど、いつか絶対にやってみせるよ。今までも、無理だと思ったことも続ければいつか必ずできたから。だからね、頑張るから、みてて欲しいな。


カミサマ、本当に、本当にありがとう。



*****


趣味で描いてるので更新は不定期だと思います。

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