第17話:ジジイと桜島ダンジョン④


 ダンジョンの外に脱出した火焔とシオンの二人は、死にかけている宍谷木に回復薬をぶっかけ意識を取り戻させる。ふつうコレ死ぬだろ……ってレベルの大やけどだが、何を原材料にしているのやら分からないが完全に治っていた。


「明らかに死にかけてたのに治るのか……。コレ誰が作ったの?」


「え、市販品ですけど……」


「……なんか気楽にダンジョンに挑むヤツが多い理由が分かって来たよ」


 それはそうと遠くで気を失っている八鍬の姿も発見し、これで大丈夫だろう……と火焔が若干気を緩めた瞬間だった。よく見ればこの場に誰もいない。先ほどまで大勢いたはずのダンジョン配信者たちがいなくなっている。


「……か、火焔……!」


「え?……何ッ!?」


 突如、ボコボコと鳴り響く音が聞こえ桜島の方を見れば、そこには今まさに噴火しかけている桜島の姿があった。明らかにここにいてはヤバいと言うのが理解できるが、船は既に配信者達を載せて逃げており取り残されてしまった。


「タチの悪い冗談か……?!」


 気を失っている二人を抱えて島を出ようにも、火焔にはまだそれをできる実力がない。かと言って、仮に噴火すればここにいる全員全滅するだろう。


「流石に……ダメか!」


 だが、いくら火焔が身構えても噴火はしなかった。代わりに火口から青く燃える何かが飛んできた。その姿をよく確認してみれば、封印されていたヤツだった何かであった。


「……張り合いがないのぉ~!技ですらないパンチ一発でくたばりおったわ!!!」


 ここにいる火焔を除いた全員、内心『どの面下げてあんなこと言ってたんだコイツ』と思ったことだろう。だが事実なのだ。とりあえず激でも放ってみようかなってかる~く殴ってみたらもうびっくりするくらい簡単に死んでしまったのだ。


「じゃがまぁ……。コレはおそらくさほど強くないヤツじゃな」


「……ステージギミックみたいな奴ってことですか?」


「そういうことじゃ。……さて」


 これでひと段落か?と思ったところで、気を失っている八鍬に対し銃弾が飛んでくる。手のひらでそれを受け止めた師匠は銃弾を投げ返すと、人物に向けて指をさす。


「さっさとこちらに上がってこんかい」


「なんだぁ~……。もう気が付いてやがるのん」


 そのひょっとこの仮面をつけた男は師匠に言われるがまま海の上から歩いてくると、器用に銃を回転させながらしゃべり始める。


「俺ねぇ『ジリリ』ってんだけどさぁ~いやぁ~……。悪いけどさぁ、どいてくんない?こっちはダンジョン破壊されんのキツいんだよ分かる?」


「……。仮に退いたとして二人をどうするつもりですか?」


「そりゃもう殺すんだよ!頭をライフルで割って……(適当」


 その言葉を聞いて火焔は気絶している二人を守る為後ろに下がり、師匠は話す事すら煩わしいと前へ出始める。そして師匠のオーラがジリリの銃身に触れたと同時に、即座に銃弾をぶっ放す。


「シャァッ!」


 その銃弾は師匠の頭部に命中し、ジリリは確実に死んだだろうと銃を降ろそうとする。が、その次の姿を見て理解できないと言った様子で首をかしげる。


「……あのさぁ~。コレライフル銃よ?それをデコで受け止めないでくんない?」


「あいにく……。ライフル如きではワシの皮膚も貫けんようじゃなぁ?」


 一般人であれば確実に脳幹を直撃し死に至るはずなのだが、そこはまぁ師匠。金剛鋼すら使わずに皮膚のシワでライフル弾を受け止めていた。そして更に目をクワッと開いただけでライフル弾をはじき返すと、そのままひょっとこのお面を破壊しようとする。それは見事にひょっとこの目に当たる部分に当たり、そして一部が欠ける。


「あーあ!なんか嫌になって来たなぁ!……ホントにさぁ」


 師匠はひょっとこの下にあるはずのジリリと言う男の目を見た。そこには……何もなかった。文字通り、である。どちらかと言えばのっぺらぼうに近い見た目。


「……なるほど」


「ハァ~……。ま、いっか。いーよ別に。ソレを始末しようとしたらお前らが突っ込んでくるんだろ?ハイハイ止め止め。ただでさえクソなのにこれ以上クソになったら俺は人間便器マスクをつけた人間便所になっちまうわ」


 と、案外アッサリ引く気を見せるジリリ。若干コケ脅し感があるが、それでも引いてくれた方がうれしいところではある。何せ気絶してる奴がいる以上、真正面から戦ったら先ほどの宍谷木の数倍面倒なことになる。


「たとえが汚いのぉ……。じゃがワシらもまだやる気があるなら……徹底抗戦の構えになるぞ」


「だから止めるって言ってんだろうが……。ま、その二人は良いとして……。お前ら、ガチで配信続けるんだな?」


 ジリリは本格的に帰るつもりなのか魔法陣の書かれたメモ帳を一枚引っぺがすと、地面に叩きつける。するとそこから突如ドアが出現した。ど〇でもドアかよと思ったシオンだが口にしたが最後、ロクでもない事になるなと思ったのか言うのは止めた。


「そりゃのぉ」


「じゃセーゼー気を付けるこったな。テメーらがあーだこーだやってるだけで……。確実にお前らを狙ってくる奴らが増えていくぜ?」


「構わんよ。何人襲って来ようとも……。返り討ちじゃ」


「じゃーそう言う事で……。次の動画も待ってるのん」


 そう言ってドアの中へ入っていき、消滅していくドア。後に残されたのは一通り全てが終わったと脳が認識しペタリと力なく座り込むシオンと、いまだ戦闘態勢を崩さない火焔と、消えゆくドアを何やら忌々し気に見つめる師匠だけであった。


 ◆


「……アレは何だったんでしょうか」


 船に揺られながら、火焔は先ほどのお面を付けた奴が何者なのかというのを考えていた。師匠には一人だけ心当たりがいるようだが、顔を見て違う奴だったので何も言わず船にゆられている。


「……そういえば二人の容体は?」


「だ、大丈夫そう……。宍谷木?って人はもう目覚めて八鍬を看護してる……ウップ」


「シオン、おぬし……もしや乗り物酔いしやすいタイプか」


「じ、自慢じゃないけど地元じゃスキー旅行に行ったリフトでゲロ吐いたこともあるウッ」


「一回吐いて楽になればよかろう……」


 その後船の後方から誰かがゲロを吐く音が聞こえてきた。

 それはそうと、一度八鍬の様子を見に二階へ行く二人。すでに目覚めてはいるが起き上がれない様子。無理もないだろう、細切れにされたのは一瞬だが、それ以前に火焔相手にボッコボコに言われたのだから。


「アッお前は……誰だっけ?」


「あっどうも。初めまして火焔です。……それで、彼女は……」


「……まぁ、見ての通りだよ」


 ベッドに全体重を預け、完全な脱力状態にある八鍬。自力では動く気力もないのか、水を飲もうとして派手にベッドにぶちまけていた。


「何があったのかは分からんけどよ……。俺より先に目覚めたのにベッドから起き上がりもしねぇ。おまけに……」


「……殺して」


「これしか喋らないんだからなぁ……」


 火焔は彼女になんて言葉を描ければいいのか迷っているようで、師匠は適当な椅子に座ると成り行きを見ることにした様子。しばらくして、意を決したのか八鍬に話しかけに行く火焔。


「……八鍬さん」


「……」


「戦闘中は色々言ってしまいましたが……。僕は、復讐なんてやめてほしいと思っています」


「……」


「僕には貴方の辛さはわかりません。復讐に踏み切った理由も、理解できません。……けれど、僕は貴方に人殺しになってほしくありません」


「……」


「それだけです」


 それ以上、火焔に言えることはない。それだけ言い残すと一階へと降りシオンの背中をさすり始める。残された師匠は八鍬ではなく宍谷木に声をかける。


「ワシはこ奴の事を詳しく知っておる訳ではない。故に言うことは特にないが……。お主は良いヤツじゃ。ワシはこれ以上関われんが、そ奴の傍で見守ってやれ」


 そう言ってまだゲロ吐いてるシオンの介護に行く師匠。残された宍谷木はまだ起き上がらない八鍬に話しかけた。


「……ダンジョン配信はこれまでだな。色々面倒なことが起きてるらしい」


「……」


「まぁ、なんだ。……俺はお前に何があったのか知らねぇけどよ……。お前が良ければ、これから一緒に暮らすか?」


「……」


 何も言わない八鍬。しばらく一人にしてやるか……と階段に足をかけたところで、声が聞こえた。


「……うん」


 こうして、一行を乗せた船は一番近くの港にたどり着いたのであった。

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