第6話:ジジイと新たな仲間たち


「……なんじゃコレは!」


 :何?ねぇっ、なんなのコレ!怖いよーッ!

 :カメラが浮くな!……しゃべるな!

 :目ぇみたいなカメラだなぁ!


 突如として現れた何やらよくわからない存在。チックを自称するそれはシオンを確認すると他三人にも話しかけ始める。


『ワレか?ワレはまぁカメラやカメラ!と言うても千年くらい色々バージョンアップされとるけどな!』


「……千年?!」


「なるほど。アレを左回りに回すと単に時を戻すけど、右に回すと物質の時を加速させるのか……」


『ま、ちゃーんとカメラとしても使えまっからこれからよろしゅう!』


 なんともまぁ愉快な奴が現れたところで、ダンジョンが崩壊を始める。アーティファクトを使ったのでダンジョンが消えるのだ。一行はダンジョンの中にいる他の人たちに逃げるように言いながら、急いでダンジョンから脱出する。


「全員出たか!?」


「ん-……多分全員出たと思う!」


「おぉっダンジョンが崩れるぞ!」


 そして最後の一人が脱出した瞬間、ダンジョンは音を立てて崩壊しみるみるうちに元の地面へと戻っていった。完全に貫通して駅の一部と化していたのに、それが最初からなかったかのように。


「ホントにダンジョンって消えるんだな……」


 こうして、仙台ダンジョンは完全に沈黙したのであった。


 ◇


「……と、言う訳ですがどうしましょう?」


 国会議事堂の中で、先ほどシオンの手によって撮影されていた動画を見る政治家たち。疑問を隠せない人物からフェイク動画の類じゃねぇの?と質問する者まで選り取り見取りである。


「……この動画は事実なのか?」


 そしてこの動画を持ってきた奴は、常にペストマスクを付けている『ボーン』を名乗るうさん臭い奴。だがダンジョンの事には妙に詳しく、現在日本各地に出来ているダンジョンを把握しているのはコイツしかいない。


「えぇ。そりゃもう。まぎれもない事実ですし……、このまま動画を残してしまえば百万人程の人間がこちらを閲覧する事になります」


 ダンジョンを破壊するすべ、そしてダンジョン内で人が死に続けるととんでもないことになる。この二つが突如として動画内で判明したのだ、そりゃもう大騒ぎである。シオンはぶっちゃけ登録者数は低い方なので現在十数万再生程度だが、これが世界中に広まればダンジョンという産業は完全に潰える。


「これは不味いのではないか?」

「ダンジョンによる経済効果は一年足らずで十数兆円を優に超す程だ……。もちろん海外にもダンジョンはあるが、それとは比べ物にならんほど日本のダンジョンは大きい」

「それが全部無くなるのは……不味いだろう」


 僅か1年足らずでダンジョンによる経済効果は破格のモノになっていた。それを破壊されるなど彼らからすればたまったものではない。政治家たちが困っている中、ボーンは簡単にこの状況を修める手段を提案する。


「まずこのアカウントをBANし、アレが誤情報だったと言う事にすればいいのです。その上で……このアカウントを乗っ取り、我々の技術で謝罪させればそれでいいのですよ」


「そんな事が出来るのか?!」

「第一それで信じるのか!」

「倫理観はどうしたんだ倫理観は!」


 あまりに雑な対処に、政治家達からは非難轟々である。だがボーンは一切引かない。彼が出来ると言えば出来るのである。


「いいですかぁ?出来るんですよ。とにかく……出来るんです」


 有無を言わせない言葉に流石の彼らもドン引きである。

 だがそのうちの一人、この中でもトップクラスの権力を持つ男……『里羽さとば吉宗よしむね』それに許可を出した。


「……わかった。やってくれ」


「ホントにいいのかそんな事をして!」

「責任はだれがとるんだ!」

「第一コイツ誰なんだよ聞いたことねぇよ!」


「御意」


 ◇


 その日の夜。シオンのアカウントはBANされていた。


「あ、あうぅ……」


 ホテルに泊まって編集でもしようと思っていたシオンにとって、絶望的なことであった。しかも彼女には心当たりがあるときた。ガクリと肩を落としベッドに倒れるシオン。


「なんじゃスマホを後生大事そうに持って何を見とるか。……ぴーしーじゃったか?」


「わ、私のアカウントが……アカBANされちゃったぁ~!!!」


「あかばん……?なんじゃそれは」


「動画……出せないってこと……」


 ショックで倒れるシオン。かわいそうなので師匠は彼女にファサ……とベッドシーツをかけてやり、よくわからないながらも何が起きたのか調べ始める。大体こういう時っていうのは背後に何かがある。長年の経験則である。


「スマホは使えるんじゃが……如何せん動画に関しては何もわからんからな」


 とはいえ、最新の機械に関してはさっぱり何もわからないおじいちゃん。しばらくパソコンの前でうんぬん言っていると、シオンの頭に乗っていたチックがフヨフヨと師匠の元へと近寄っていく。


『お、シショー!なんや探しもんですかい?』


「そういえばお主……確かチックと言ったか。機械には詳しいのか?」


『そりゃ一応ワレ機械だし!……で、何を知りたいんでい?』


「やはり最優先は……あかばん?とやらに関してじゃな。出せるか?」


『そりゃ当然お茶の子さいさいっすワ!ンでも……時間はかかるんでよろしく!』


 そう言うと目から出たコードをパソコンにぶっ刺していくチック。情報を物理的に吸い上げているようである。んでもって時間がかかるといわれてしまったので、師匠は今日中にやっておきたい事を思い出しホテルを出る。


「……では、ワシはあ奴のところにでも行くとするか……」


 そう言って向かったのは廃墟と化した一軒家。昔誰かが住んでいたようだが、今となっては窓ガラスも砕け散り家の中はボロボロ。それでも家として認識は出来る程度。その中に、火焔の姿があった。


「やはりここか」


 火焔がいると判断するや否や、即座に窓を破壊し家の中に入った師匠。流石に困惑を隠せない様子の火焔だが、ため息を一つ吐くとあきらめた様子でその場に座り始める。


「あっ、師匠……。なぜわかったんですか?」


「……色々あるんじゃよ。ワシくらいになるとな。それより……どうする気じゃ、お主」


「……ダンジョンも無くなっちゃいましたからね……。稼ぎが無くなったので久々利は実家に帰るそうです」


 帰り際に『お前が嫌じゃないなら俺ん家で暮らすか?』と聞かれたようだが、彼はそれを断った。その上でこの家にいる。その理由などただ一つ。


「僕は死にます。僕には生きてる価値がないですから」


 自分が育った家で、両親と一緒に死ぬためである。


「……その頑固なところは、お主の両親に似たのか?」


 そんな様子の火焔を見て、師匠はボソリとそうつぶやいた。


「……知ってるんですか?父さんと母さんのこと……」


「まぁな。ワシ、元警察じゃし。と言っても表向きには好評されてない秘密機構じゃけどなぁ~。……そこでお主の両親と出会ったことがある」


 実は師匠は一方的に火焔の事を知っている。警察の中でもタブー中のタブーとされている事件に関わっている故に、一般人は当然として警察の半分も彼のことを知らないだろう。


「お主が勝手に死のうとしとるのは構わんが……。お主の両親は貴様に生きてほしいと言っておったぞ。あの状況下でな」


「……僕は」


碑矩ひかね火焔』。現在17歳。彼は十年ほど前、or経験がある。


 小学二年生が、大の大人をである。それだけなら良い。


 である。


 このことから、警察は【この一件は事件性無し、鉄骨か何かが落ちて起きた事故である】と断定。捜査を打ち切った。だが事実を知っている火焔の両親と火焔自身はそうではなかった。更に両親は被害者たちの治療費を支払っていた。


 通常支払う義務はないだろう。この事件の発端も、元をたどればその大人たちが憂さ晴らしにと火焔達小学生をリンチしようとしたのが原因、自業自得と言えばそれまでである。


 だが、負い目がある。真実を喋られても誰も信じないだろうが、万が一にでも調べられたら終わりだと。その結果、両親は闇金に手を出し……当時12歳の火焔を一人残して首を吊ったのだ。


「……僕の両親は、僕を置いて勝手に自殺しました。その後は両親の遺産と保険金を使って何とか生きてました」


「あの時は本当に大変じゃったからなぁ……。しかしあの時のチビがここまで大きくなるとはのぉ。感慨深い物があるわい」


「……なぜ助けてくれなかったんですか?」


「秘密機構と言ったろ。ワシかて助けてやりたかったわ。……じゃが、それが出来んかった。……本当にすまんかった」


「……それを言うなら僕も同じです。警察は頼れなかった。……事件を知っているから。……それに僕は、バケモノだから」


 当時は互いに事情があり歩み寄れなかった。だが今は違う。ここにいるのは単なる拳法家の師匠と、単なる一般人の火焔だけ。


「カカカ……バケモノか!ワシも似たようなものじゃよ!」


「……まぁ、そうですね」


 一通りバカ笑いを上げたところで、師匠は火焔に問う。


「で、なんじゃ?貴様にとって生きとる価値とは」


「急ですね?……生きてる価値ですか。……死んだように生きないことですかね?」


「違うな。生きている価値とは生きていること!死を望まれて生まれた生物などいない!大事なのは何をするか!そして何を成したかじゃ!」


「……僕も、そうなんですか?」


「無論じゃ!とはいえ、お主が生きる意味が欲しいというならば……。ワシがその意味を与えてやろう。ワシの弟子になれ火焔!そしてワシと共にダンジョン配信をするぞ!」


 火焔に向け差し伸べられた手。火焔は少し、ほんの少しだけ考えて……その手を握った。


「わかりました。……師匠」


「うむ!では今日は寝るぞ!寝る子は育つと言うしなぁ!」


「それ以上強くなる気ですか?」


 明日の事は誰にもわからない。だが火焔は前に進むことを決意した。


(……見ててよ、父さん、母さん。僕は……生きるよ)


 そうして家を出る二人。残された仏壇に添えられた線香の煙が、安らかに揺蕩うのであった。


 ___________________


 次章!!!

「行くぞ九州!」

「五大都市って誰から見た五大都市な訳?」

「解放の時は近い……」


「これが僕が覚えた表我流の最適な防御の型……!」


 九州ダンジョン編、お楽しみに!!!



 高評価感想ブクマ星ハート待ってます!!!

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