四十四、締結







『ねえ、ディア。あいつらへの罰は、どんなものがいいと思う?』


 バリズラとの話し合いの数日前。


 レオカディアは、エルミニオからそんな相談を受けた。


『そう・・ですね。まず、バリズラは、ミゲラ王女殿下だけでなく、国をあげて毒薬の製作法の伝授に、エルミニオ様への襲撃もありましたから、国としても賠償していただく必要があるかと思います」


『うん。ディアを襲撃した奴らは、ミゲラ王女も含めて、目をくりぬいてやろうか、それとも歯を全部抜いてやろうか・・ああ、もちろん、一番痛む方法でね』


『エルミニオ様!?』


 冷徹な顔で言い切るエルミニオに、レオカディアは悲鳴のような声をあげてしまう。


『ミゲラ王女殿下に、あまり重い罰をこちらが与えるのは、国交を考えても難しいかと。むしろ、温情をかけることで、国としてもっと有益な物を得る方がいいのではないでしょうか』


『国として有益、か。例えば?』


 いつもの、レオカディアに甘いエルミニオではない、王太子としての、外交を担う者としての顔で問うエルミニオに、レオカディアは緊張しつつも、自分の意見を口にした。


『はい。バリズラは、コーヒーの産地として有名です。ですので、こちらに有利な条件で貿易が出来るようにするというのは、いかがでしょうか』


『なるほど。悪くないね』


 国内でも、嗜好品として人気が上がってきているコーヒーを、より求めやすい価格で提供できれば経済も回ると、エルミニオは頷きを返す。


『流石、僕のディア。父上も、納得なさるだろう・・・さあ、難しい話はこれくらいにして、お茶にしようか』


『はい。エルミニオ様』




 それは、いつもの外交に関する話題と変わらず、後は交渉次第だと思ったレオカディアだったが。








 ど、どうしましょう!?


 国宝級の飾り戸棚に、矢を打ちこんでしまうなんて・・・・・!


 お父様、お母様ごめんなさい!


 弁償金額が大きすぎて、家に負担をかけてしまうかもしれません!


 クストディオお兄様、ブラウリオも、迷惑かけたらごめんなさい!




 実際の交渉の場は、レオカディアが想像したようなものでは、まったくなく。


 今、レオカディアは、飾り戸棚の弁償金額のことで頭がいっぱいだった。




 ええと、あの飾りを彫れる職人さんは、国内に数えるほどしかいないでしょ、それからあの組み立て方も独特で、艶出しの仕方も確か・・・・。 




「ディア!」


「ああ、ごめんなさいエルミニオ様!なんとか、弁償するようにしますので!職人さんも、何とかお願いできるようにして」


「ディア!そんなことはどうでもいい!怪我は無いか!?」


 混乱するままに叫ぶように言ったレオカディアの両肩を掴み、エルミニオが、素手で弓を引いたレオカディアの手を念入りに確認する。


「やっぱり、少し擦れてしまったね。痛いだろう」


「え?あの・・・あ、本当だわ」


 飾り戸棚を傷つけたことに気持ちを持って行かれていて、弓で擦ってしまった傷には気づかなかったと呟くレオカディアを、エルミニオはそっと抱き寄せた。


「はあ・・ディア。もっと自分を大切にしてくれ・・。だけど、助けてくれてありがとう。護ると言ったのに、護られてしまったな」


 そう言って自分のハンカチを取り出すと、エルミニオは、そっとレオカディアの手に巻き付ける。


「エルミニオ様」


「バリズラの連中は、全員捕縛した。現行犯だからね。文句は言わせない。こちらが望む通りに、話を通させてもらう」


「本当に、素晴らしい弓の腕だ。武勲を授けたいほどだぞ」


 悪い笑みで言うエルミニオを見て、無事で本当に良かったと、思わずその腕に手を乗せたレオカディアは、思いがけず国王に声をかけられて、ぱっとその手を離した。


「いいのよ、レオカディア。勇敢だったわ」


 しかし、その手を王妃に握られ、再びエルミニオの腕へと導かれれば、エルミニオから迎えに来るよう手が伸びて、ぎゅっと手と手が握り合う形になる。


「我が国は、安泰だな」


「ええ。本当に」


 エルミニオと手を繋ぎ合ったまま、そう言って笑い合う国王と王妃を見ていたレオカディアは、この後、矢に射抜かれた蜘蛛を特殊加工し、王家の宝として保管することになるなど、考えもしなかった。


 そして、その蜘蛛を射抜いた矢が、自分たちの婚姻後『毒蜘蛛からエルミニオ王太子殿下を護ったレオカディア王太子妃殿下の矢』と名付けられ、成婚の祝いとして国民にも一般公開されることになるなど、想像だにできなかった。








「・・・ディア。無事に、バリズラと締結したよ」


「お疲れさまでした。エルミニオ様」


 交渉、というよりは、被害者から加害者への賠償請求となった席で、王太子として参席したエルミニオは、その日、未だ王族ではないため出席できなかったレオカディアに、会合の結果を報告していた。


「まず、向こうからの申し出として、労働力付きで有益な鉱脈を幾つか手に入れた。それから、レオカディアが望んでいた通り、コーヒー農園も手に入れたよ。もちろん、労働力付きで」


「え?コーヒー農園を手に入れた、ですか?有利な貿易権や、借り受けではなく?」 


 驚くレオカディアに、エルミニオは当然と頷く。


「完全に譲渡させた。だって、その方が色々便がいいし、自由に輸出も出来るからね」


「それは、そうですけれど。よくバリズラが譲渡しましたね」


「そりゃ、国が亡びるよりいいだろうからね。今回のこと、他国には通達しないって言ったら、要求を呑んだよ」


 何でもないことのように言って、エルミニオは、レオカディアが手ずから淹れた茶を飲む。


「うん。おいしい。今度は、コーヒーも淹れてくれる?」


「もちろんです。エルミニオ様」


「ね。今回の賠償、ディアは、厳し過ぎるって思う?」


 カップに視線を落としたままのエルミニオに問われ、レオカディアは首を横に振った。


「いいえ。バリズラは、国内に危険な毒を持ち込んだうえ、エルミニオ様を襲撃しました。それだけにとどまらず、ミゲラ王女殿下への温情を願う場で、こちらへ更なる攻撃を仕掛けたのです。国として、宣戦布告したも同然です」


 バリズラは、この先、国としてかなり苦しい経済状況を強いられるだろう。


 しかしそれは、すべてバリズラが成したことの結果なのだとレオカディアは思う。




 ただ、バリズラの国民のことは、心配だけれど。




「『バリズラの国民が心配』って、顔に書いてあるよ、ディア」


「あ。すみません。こちらが甘く出れば、足を掬われるとは分かっているのですが」


「うん。ぼくも、今回はそう思うから。だからね、ディア。もし、バリズラの国民が王家に弓引く時は、手伝ってあげようと思う」


「・・・・・」


 にっこりと笑って『おかわり』とカップを差し出すエルミニオが味方でよかったと、レオカディアは心の底から思った。


~~~~~~~

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