[5]侍チャンバラです。


 魔王城・謁見の間に現れた新たな刺客。

 勇者カザマとの戦いにデュラが赴く。


「首無しの魔物、でゅらはんと言ったか。それ故に、我が一太刀に手応え無しと見た」

「あら、私は手応えがあったのに、あんたはピンピンしているのが不思議で仕方がないわ」

 カザマの一撃によって首を落とされたデュラは、首元から黒いモヤを立たせ自らの首を小脇に抱えている。

 対するカザマはデュラを横目に、正面に刀を向ける構えを崩さない。

「とりあえず、本気でやるわ。あんたを影の舞踏ファントム・サーキットに招待してあげる」

「無用なり、其方はすでに見切っている」

「何ですって?」

 カザマは瞬時に刀を横に構え、その場で回転をしながら横薙ぎをした。カザマの振るう刃からは突風とともに斬撃が放たれ、デュラを襲った。

 デュラは「ムッ」となり、後方に大きくステップをしてカザマから距離を取った。

つぎの太刀・大至ひろし

 カザマは刀を横に振るって鞘に収める。

 カチッと鍔のぶつかる音が響くと、カザマの後方に立つデュラの体から勢いよく血が吹き出した。

「デュラ───ッ!!!」アリシアの叫び。

 デュラはその場に倒れ込み、首を転がした。

「あの勇者は相当の手練れにございます。デュラ様が苦戦するのも納得ですね……」

「だ、だからってこのままじゃデュラがっ……!」

「全く、心配性な魔王様ね……」

 カザマの背後で倒れるデュラが地面に手をついて立ち上がる。全身に切り傷を作り、鮮血を垂らす。

「拙者は未だおわりを見せておらぬ、この程度で死なれては迷惑と言うもの」

「言うじゃないの……それならお望み通り見せてあげるわ、私の本気をね」

 デュラの影が伸び、部屋を覆い隠す。黒に支配された空間に蒼い炎が灯り、いななきとともにデュラは姿を消す。

「異なことを……」

影の舞踏ファントム・サーキットへようこそ、ここの演目は私が決めるわ」

 カザマの足元から黒いドロドロが這い出る。カザマはステップで距離を取り、刀に手を置いてドロドロを警戒する。

 ドロドロは三つに分かれ、それぞれ人の形を作った。その姿は以前倒した三人の勇者、ドラジャンとノービスとサイレンスの外見になった。

「此奴らは勇者か…..死した者の姿を真似る妙術と見た」

「正解、こいつらは私の演者よ。あんたも存分に楽しんで頂戴?」

 ドロドロは勢いよくカザマに襲いかかる。カザマは臆することなく刀を抜き、次々とドロドロを斬り伏せていく。

 しかし、ドロドロは斬られた直後から再生して形を保つ。次第にカザマは囲われ、三方向から同時にドロドロが飛び掛かった。

あいだの太刀・しろ

 カザマは刀を逆手に持ち掲げる。すると刃先から閃光が放たれ、黒の空間を一瞬の白が支配した。

「目眩し? そんなもの効かないわ」

「否、この光こそ刃なり」

 瞬間、刀から放たれる閃光が線となって空間を切り刻み、黒が崩壊していく。

「何っ!? 空間を割いたとでも言うの?!」

 影を失ったドロドロは自壊し、大鎌を構えたデュラの姿が晒された。

「拙者に斬れぬものは無いと知れ。如何なるすべもこの刃の前には無力と化す」

 カザマは刀の刃先をデュラに向ける。

「しかして、魔物といえど女子おなごの命。この刃で奪わねばならぬも些か気迷う」

「おあいにくさま、私はあんたの首が欲しくてたまらないの。さっさと死んでくれないかしら?」

 再びカザマとデュラは互いを正面に睨み合う。

 ジリジリとした雰囲気に、アリシアの手にも力が入り見入っている。


死せよ、影なるフォビドゥン・大鎌の刃にて。パラダイス

 デュラは大鎌を背に構えて力を込める。蒼い炎を纏った大鎌の刃先からは黒いモヤが立ち上がり、その周囲には痛みに悶え叫ぶ人の顔が続々と浮かぶ。

「これまた面妖な……」

「あなたもここの仲間に入れてあげる。その首、頂くわ」

「ならば致し方無し。拙者も全力を持って応えるまで」

 カザマは刀を両手で握り、力を込める。

おわりの太刀・火廻ひまわり

 カザマの刃を包むように炎が渦を巻き、激しい熱波を放つ。炎は急速に温度を上げていき、刀の鍔を溶かし始める。


「「はあああぁぁぁ──────ッ!!!」」


 二人の咆哮が衝突する。

 勢いよく足を踏み出し、互いの全力をぶつけ合う。

 瞬間、激しい閃光と爆音が轟き、衝撃を放つ。

「うわぁっ!」

 アリシアは玉座ごと、謁見の間そのものが吹き飛んだ。


 残されたのは二人。立ち位置を交換し、互いに背を向けながら立ち尽くすデュラとカザマの姿があった。

 カザマは袴が焼失し、傷だらけの上半身を晒す。しかし、依然として浪人笠を被ったままだ。

 対するデュラも全身に火傷の痣を作っている。

「……お見事。しかして、未だ一歩及ばず」

 瞬間、デュラはその場に倒れ込む。

 カザマは刀を横に振い、鞘に収めた。


 カチンッ!


 その時だった。カザマの首から飛沫が上がり、勢いよく頭を飛ばした。

「……何が及ばずよ。私の方が強いに決まっているでしょ……」

 膝から崩れて倒れるカザマに、デュラは勝利を確信した。しかし、デュラもすでに瀕死の状態だ。

「デュ……デュラちゃんっ……!」

 遠くからアリシアがデュラのもとに駆け寄る。

「アリシア……無事……?」

「それはこっちのセリフだよ! すぐに回復魔術をかけるからっ……!」

 アリシアは手から緑色の光を放ちながら、デュラに向けて魔術を唱え始める。


「……これは些か予想外であるな」


「……ッ!?」

 アリシアは背後の気配に戦慄する。

 地面に転がる首から、被っている浪人笠だけを拾い上げる男。そのまま、無いはずの首の上へと笠を乗せた。

「拙者は死なず者。この身に宿るは真ノ人しんのすけなり」

 首を刎ねられたはずのカザマが、再び笠を被り立ち上がった。

 アリシアは全身を震わせ、背後に迫る存在に恐怖する。

「アリシアっ……逃げてっ……!」

 デュラは必死に声を上げる。それでもアリシアは回復を止めることなく、震え続けている。


 ◆


「死なず者? 何それ、美味しいの?」

 帝国城・作戦司令室本部。

 Dr.ヘックスは円卓に広げた数々の料理を口にしている。

「むしろ不味いと思うよ〜、だって腐ってるんだからね〜」

 Dr.ヘックスと会話をする一人の少女。彼女は帝国城の料理人として仕えている料理長のユウリである。料理人らしくコック帽を被り、橙色のショートボブをした子供のような見た目の女の子だ。

「ねぇ、あたし今ごはん食べてるんだけど。不味いとか腐ってるとか言うのやめてくれない?」

「ヘッちゃんが話を広げたんでしょ! あたちは悪くないもん!」

「まぁいいけど。その死なず者って結局何なわけ? あたしですら知らないことをどうしてあなたが知ってるの?」

「死なず者は一種の呪い。あたちの故郷に古くからある伝承みたいなものだよ。まさか本当に存在したなんて思いもしなかったけど」

 ユウリは重々しい表情で言葉を紡いだ。

「ふーん、そこにってのは関係しているのかしら。転移であたしの魔力を全部持っていかれたし、せいぜい頑張ってくれないと困っちゃう」


 ◆


 魔王城・謁見の間、だった場所。

「魔王なる者は其方であるな。その命、貰い受ける」

 カザマはアリシアの背後に立つ。その手には鍔の溶けたボロボロの刀が握られている。

「アリシアっ……!」

 デュラは体を動かせない。

「これにて御免……」

 カザマは刀を振りかぶる。


「お待ちなさい」


 カザマの背後、もう一人のカザマが刃を向けている。

「何奴……」

「自分は自分あなたです。その刃を受けるのは、自分だと知りないさい」

「その言い回し、もしかして……」

 アリシアは背後で繰り広げられるカザマ同士の争いに、もう一人のカザマの正体を察知する。


「もしかして、スエル……!」

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