第13話 リリスの城にて③

「なるほどのう。それで、行く当てのないハイエルフを連れて帰ってきた、と……」

 リリスは不貞腐れた様子で言った。


 無理もない。

 自室のソファーで、オークニーと熱い口づけを交わしていたところに、突然オレとジルベスタが、転移魔法で現れたのだ。

 オークニーは恥じらうように下を向いて所在なさげにしていた。


「プライベートな時間を邪魔してしまったことは謝る。でも、緊急事態だったんだよ。街にはアルメリア新皇国の異端審問官が潜んでいて、ギルモアたちを監視したり、連絡を取り合っていた可能性も考えられたから……」


「リリス様、無礼極まりない訪問、心から謝罪いたします」

 ジルベスタが頭を下げた。


 転移する前、ジルベスタには治癒魔法と回復魔法を施しておいた。

 怪我、魔力、体力は完全に元通りになっている。


「こたびの原因は、全て私にあります。ですから、どうか魔王様を責めないでください」


 リリスの片方の眉がピクンと跳ねた。


(“魔王”というワードか? ジルがオレを“魔王様”と呼んだことに対してお怒りになられているのか?)


「ジルベスタよ、今日はもう休め。いろいろと気持ちの整理が必要じゃろう。」

オークニー、この者に食事と部屋を用意しろ」


「すぐに手配をいたします」


 ジルベスタはオークニーに連れられて、リリスの部屋から出て行った。


「あのハイエルフ、サタンのことを魔王と呼んだな」


「あ、ああ……。ギルモアを斬る前に、〖魔王サタン〗って言っちゃったからかな……? でも、あれはその場の勢いというか……以前意にも言ったけど、オレは別に魔王になりたいわけじゃないんだ。勝手に魔王を名乗って、スマン!」


「謝る必要はない。妾がおぬしを魔王と認めるのに躊躇した理由はただ一つ。異世界の人間だった者が、この世界の人間を殺せるのかとうか、疑問だったからじゃよ。妾もサタン同様、こちらから争いを仕掛けるつもりはない。しかし、人間側から攻めてきたとしたら? その時、人間を殺すことを躊躇うような魔王に、魔族の未来を託すわけにはいかん……そう思っておった。じゃが、それは杞憂だったようじゃの」


 リリスはオレの前に跪いた。


「魔王サタン様、リリスは生涯をかけてあなた様に忠誠を捧げ、どのような困難も共に乗り越えることを、ここに誓いましょう」


  ◇


 【真女神教・大聖堂の地下】


 いにしえの魔法陣の前にニコラス教皇が立っている。

 手には門外不出の秘宝、勇者召喚の杖が握られている。


 魔法陣を挟む形でフランシスコ大司教を先頭に30名の司祭が整列し、勇者召喚の杖に魔力を送り続けていた。


「φΓξΔθαψηΘρζΓΔΨ……」


 古代語による、ニコラス教皇の詠唱が続く。

 宝杖ほうじょうから金色の粒子のような光が飛び散り始める。

 司祭たちは一段と強い魔力を送るべく力を振り絞る。

 

「……我らは女神メーティスの敬虔なる信徒にして宝杖を賜りし者なり。……女神メーティス、我らの願いを聞き届け給え!」


 ニコラウス教皇が杖を振り下ろすと、魔法陣が光を放った。

 その場にいた誰もが目を開けていられない程の強烈な光――

 

 光の柱は大聖堂を突き抜けると、遥か天界にまで届いた。


《願いは聞き届けられました。異世界より勇者を召喚しましょう》

 神託が下った。


 天界まで伸びていた光の柱は徐々に短くなり、やがて完全にその姿を消した。


 ニコラス教皇と司祭たちが目を開けた時、魔法陣の中央には、日本の高校の制服に身を包んだ長い黒髪の女性が立っていた。

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