第2話 微妙

「シーカー協会のスキル一覧には載ってないな」


自室のベッドに寝転び、スマホでシーカー協会のページを見たが、俺の取得したユニークスキル【幸運】の事は載っていなかった。

俺が世界初、もしくは、取得者が申告していないためだろうと思われる。


因みにシーカー協会というのは、世界各国のダンジョンを包括して管理する組織だ。

国連とかWHOとかみたいな組織だと思って貰えばいい。

たぶん。

有名な動画配信者がそう言ってたから。


シーカーとして活動する人間は、基本的にここに登録する必要があった。

じゃないとダンジョンに入れないから。


「ふむ、簡易説明には幸運ステータスの効果アップって書いてあるけど……」


スキルに意識を集中させると、その簡易的効果が表示されるようになっている。

そこで【幸運】に表示されたのが、今のである。


「うーん……」


ユニークスキルは強力な物が多い。

多いが、全てが一級品という訳ではなかった。

中には、微妙な物も混ざっていたりする。


そしてこの幸運からは、その微妙な匂いがプンプン漂っていた。

なぜなら、シーカーにとって幸運というステータスが非常に微妙な……というか、産廃に近い能力だからだ。


「普通のシーカーは、幸運には一ポイントも振らないからな」


シーカーにはレベルがあり、それが上がるとステータスポイントが手に入る。

それを自分で振り分けて行く訳だが、幸運に振り分ける奴は基本いない。

効果が今一だと分かっている物に振るぐらいなら、別のステに振るというのが自然の摂理である。


幸運のステータス効果は4つ。

クリティカル発生率アップと幸運バリアー、それにドロップ率アップにレア抽選アップだ。


クリティカルアップは幸運1に付きクリティカル発生率が0,3%上昇し、カンストの100まで上げたばあいは最大30%の補正が付く。

クリティカルの効果は、防御力を半減させる――クリティカルが発生した攻撃のみ――というもの。


幸運ガードは、幸運1につき0,2%の確率で発生する。

なので幸運100で20%だ。

その効果は、発生時敵からのダメージを90%カットしてくれる。


なんで幸運でバリアーがつくんだ?

しらん。

神様に聞いてくれ。


車にかれたのに軽傷で済んだ。

そんな、運が良かった的な物だと思っておけばいいんじゃないか。


ドロップ率アップは、幸運の値分%が上昇する。

幸運100で上昇率は100%。


ただこれは絶対値の加算じゃなくて、敵のドロップ率に対する乗算なので、幸運100にしても絶対ドロップするってな感じにはならない。

敵がアイテムを落とす確率が2倍になると思って貰えばいい。

ドロップ率が5%なら、二倍の10%だ。


そして最後がレア抽選だ。

アイテムドロップ、もしくはスティールなどでレアアイテムを引ける確率が上昇するという物で、幸運の値分%が上昇する。

こっちもドロップ率アップと同じで、引ける確率が2倍になるだけである。


さて、幸運が人気がない理由を上げて行こうか。


まず第一に、ドロップアップや抽選アップがしょぼい。

二倍だと、単に魔物を二倍狩ればいいやレベルにしかならないからな。

しかもパーティーを組んでいる場合、メンバー全体の幸運の平均値が適用されてしまう。

そのため幸運の恩恵を受けようとすると、全員幸運を上げる必要があった。


高レベルはほぼパーティー前提だし、幸運上げまくったパーティーとかゴミだからな。

なのでドロップ系関連のために運に振る馬鹿はいない。


次にクリティカルの微妙さをあげよう。


30%で敵の防御力を半減させるだけ。

確かに火力アップではあるが、あまりにもその上げ幅がしょぼ過ぎる。

幸運に振った非力な奴が、敵の防御力を半分無視したからなんだってんだって話である。


これが防御力無視なら……まあ正直、それでも微妙か。


で、最後が幸運バリアーだ。


90%カットは優秀だとは思う。

しかしいかんせん、発動率20%が上限じゃ安定した防御能力としては期待できない。

幸運に振りまくってたら、体力もほぼ上げられないし猶更である。

つまり微妙。

ないよりはましレベルである。


と言う様に、4つとも微妙。

三人寄れば文殊の知恵なんて言葉もあるが、幸運の残念効果四天王は寄り集まっても産廃のままなのでした。

まる。


「うーん……」


さて、俺のユニークスキル【幸運】に話を戻そう。

ステータス幸運の効果を上げるらしいので、4つの効果が上がる訳だが……このスキル説明だとそれがどれぐらい上がるのかが分からない。


鑑定して貰えれば一発なのだが、鑑定のユニークスキル持ちは超絶希少だ。

アルマイヤさんの時みたいなのは例外中の例外で、普通は相当な金額を積まないとみて貰えない物である。

そして当然だが、俺にはそんな金はない。


「効果が5倍とか10倍ならいいんだけど……」


もし5倍なら、幸運100で全クリティカルに常時幸運バリアーが実現する。

まあ流石にそれはロマンだが、5倍にもなるなら、ある程度振るだけでも十分効果が実感できるだろうから、ちょい幸運振りって感じにやれば悪くない筈だ。


「ユニークスキルだからそれ位の効果はあるはず、たぶん。けど、仮にそれだけの効果があっても……レベル1でそこまで効果があるかって言われるとなぁ……」


ユニークスキルにはレベルがある物が多い。

俺の【幸運】の概要にもバッチリレベル1と表示されているので、レベルありだ。


当然だが、レベルは高い方が効果は強くなる。

逆に言うと、レベルが低い間は効果は抑え気味という事でもあった。


なので、レベル1で5倍とかダイナミックな効果は期待できないと思っていいだろう。


え?

レベルがあるなら上げればいいじゃない?


そうしたいのは山々なんだけど、問題はレベルの上げ方だ。

概要にはご丁寧にその方法が書いてある訳だが――


――その方法は、幸運にステータスを振る、である。


つまり、スキルをレベルアップさせたければガンガンステータスに振ってねって事だ。

そうなると、当然ちょい振りってのは難しくなってしまう。

レベルを上げる為には、ある程度がっつり振る必要があるだろうから。


「はぁ……」


そこまで考えて、俺は大きくため息を吐く。

ほんの数分前までは覚醒に浮かれてたってのに、手に入ったユニークスキルが微妙なせいで、もう完全にそんな気分は吹っ飛んでしまっていた。


ぶっちゃけ、自力での一流シーカーはもう無理そうだなとすら思ってる。


「俺に取れる選択肢は三つだな」


一つ、【幸運】の事はすっぱり忘れて普通のシーフとしてやっていく。


シーフはそこそこ人気のあるクラスなので、上手い事優秀な奴らと組めれば、俺自身が一流は無理でも、一流パーティーのメンバーに名を連ねる事は出来るかもしれない。


まあ、少々寄生虫っぽいが……


二つ目は、ぼちぼち様子を見ながら幸運を上げて行く、だ。

ちょい振りでも結構いい感じに嵌ってくれる可能性も、なくもないし。

レベル1や2の倍率次第で、ある程度満足いく効果を得られる可能性も十分あるだろう。


「多少ギャンブルではあるけど……」


レベル1の効果が低くて、レベル2に上げる為に大量に幸運に降らなければならなかった場合、二つ目の選択は、ステータスを一部どぶに捨てる事になりかねないリスクがあった。


けどまあ……上振れれば、最強のシーフにはなれるんだよなぁ。


で、三つめが――


幸運にがっつり振っていく、である。

最悪、さっき言った全クリティカルの全バリアーになる覚悟で。


そう、どうせ一流になれないならオンリーワンを目指すのだ!


「いやまあ、3はねーか」


そもそも幸運全ブッパとか、途中どうやってレベルを上げるんだって話である。

そしてそんなステータスの奴をパーティーに入れてくれる奇特な奴らはいないだろう。


なので、選ぶとしたら謙虚堅実に1か、多少上振れ下振れがあるかもしれない2である。


「まあ2でいくかぁ……」


取りあえず、まずは幸運20辺りを目安にステータスを振ってみよう。

それで好感触ならよし。

駄目なら他のステータスを上げていく。


よし!

決まり!


じゃあこれからシーカー協会に行って登録して、早速ダンジョン行ってみるとしよう。


この時の俺は夢にも思わなかった。

【幸運】の効果が、想像以上である事。

そして、このスキルがレベルアップする事で追加の効果が発生する事に。

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