第14話 予想外
「彼をチームから外してください」
静かに、しかしはっきりとそう言った。
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
「……えっ?」
思わず漏れた上野先輩の声。
驚きに満ちたその顔には、
まさかそんな返答がくるとは思っていなかった、という感情が色濃くにじんでいた。
「小鹿くん……今の流れ的に、こう……
“一緒に頑張っていきましょう”って……君ならそう言うと思ったんだけど」
上野先輩が困惑したように言う。
「待て、上野」
野獣先輩が手を挙げて制した。
「小鹿の話を最後まで聞こう」
だが、その言葉すら待たず、朝日先輩はゆっくりと立ち上がった。
「その必要はないです。俺はもう出ていくので。それじゃ……」
背を向けた朝日先輩が、扉に向かって数歩歩いたところで——
「ちょっと待ってください!」
俺は先輩を呼び止めた。
朝日先輩はぴたりと足を止め、振り返る。
その顔には、戸惑いと、少しだけ悲しみが混じっているようだ。
俺は一歩前に出て、深呼吸しながら言葉を紡ぐ。
「マムシドリンクで……体調、すぐれないでしょうし。
だから今日だけは、朝日先輩……
チームから外れた方がいいんじゃないかって、そう思ったんです」
一瞬の沈黙。
そして
「——なら、小鹿くんだって同じじゃん?」
と、朝日先輩が言い返した。
「あ、確かに」
俺の言葉に、上野先輩が吹き出した。
「ははっ……そう来るか。やられたな、朝日」
野獣先輩は呆れたように、しかし少しだけ口角を上げて言った。
「まったく……お前ら、手間かけさせやがって」
そして二人に視線を向け、静かに続ける。
「お前ら二人、今日はもう帰れ。部長には俺から言っておく」
「……すみません」
「わかりました」
俺と朝日先輩はほぼ同時にうなずいた。
カバンを手にオフィスを出た瞬間、背後から足音が聞こえた。
いやな予感がして振り返ると、やっぱりそこには金髪のあの人
――朝日先輩がいた。
「小鹿くん!」
小走りで駆け寄ってくる姿は、無邪気な子供のように見える。
「さっきは……本当にごめん。お詫びに、家まで車で送るよ」
俺は一度立ち止まり、ジト目で先輩を見つめる。
「知り合って間もない先輩の車に乗るなんて、危機感なさすぎなので結構です」
「えっ!?」
先輩の顔が見る見る青くなる。
冗談が通じなかったかと一瞬だけ不安になったけど、すぐにニヤリと笑って言い直す。
「冗談ですよ」
先輩はその場で崩れ落ちそうな勢いでホッと息をつき、
大げさに胸をなでおろした。
「やめてよマジで……心臓止まるかと思ったじゃん」
そんなやりとりの後、俺たちは一緒に会社の駐車場に向かった。
先輩の車は思った以上にオシャレで、
やたらとピカピカに磨かれてるコンパクトSUVだった。
助手席に乗り込むと、レザーの匂いとほんのり甘い芳香剤の香りが鼻をくすぐる。
「んじゃ、道案内よろしく小鹿くん」
エンジンの音が静かに響き、車はスムーズに発進した。
昼過ぎの街を抜け、人気のないコンビニや、まだ点灯していない街灯を横目に見ながら、俺は自宅への道を淡々と説明していく。
……ときどき、先輩がちらちらとこちらを見ている気がしたけど、
気のせいだと思いたい。
そして、マンションの前に到着する。
「このマンションです。ありがとうございます」
「うん。また明日!小鹿くん」
軽く手を振ってくる先輩に、
「お疲れさまでした」と返し、頭を下げて車から降りた。
見送るように先輩の車が静かに去っていくのを、しばらく見つめていた。
ようやく日常に帰ってきたような、でも何かが確実に変わったような、
そんな妙な気持ちを抱えながら、マンションのエントランスをくぐった。
エレベーターに乗り、部屋の前に立ち、鍵を差し込む。
カチャリと音を立てて扉が開く。
「……ふぅ」
一歩、家の中に足を踏み入れたとたん、全身の力が抜けた。
未知のプロテインバープロジェクトのカオスっぷり。
そして、野獣先輩の男気――。
朝日先輩の悪ふざけ。
上野先輩の優しさと怒り。
すべてが頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。
「……明日、大丈夫かな……」
思わず、誰にも届かない独り言が口から漏れた。
明日は、例のプロテインバーの工場見学。
果たして本当に、
全長1メートルの“魔法の杖”みたいなバーが完成しているのか……。
ベッドに倒れ込み、天井を見つめたまま、俺は深くため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます