第33話 ~僕と女王陛下~
「なにを考えている!勝手に討伐に行くとは! 覚悟しておけ!」
ゴネータ大臣は相当おかんむりだ。僕たち4人は女王陛下のまえにいる。
秘密の社会科見学はあっさりバレてしまった。
「ま、シキは一人も敵を倒してないけどな。ヤッパ、モモタロウはオレだろ?」
「チェスをしたことがないのか?キングやクイーンは簡単には動かさないんだよ」
「ちょっと待ってくれ。僕の倒した数は20だよ。倒した数なら僕が1番だよ?」
「はあ? 親玉を倒したんだから俺が一番だろ!?」
「レイジくんと2人で倒したんだから、手柄も半分だ」
「うるせーな、討伐数0のクセに!」
「たしかにわたしは一人も倒していないが…ドアを開けただろう!キミの足場を作っただろう!みんなの送り迎えをしただろう!空間転移の解除もしたんだぞ?」
いやさ……しかし……だいたいキミたちは……ナニ言ってんだ……オレがだな…
「うるさいゾ! 黙ってられんのか!!」
「「「すいませ~ん!」」」
大臣が3人を怒鳴りつける。その横で側近が大臣に話しかけた。
「ゴネータ大臣。過程と結果を総合的に判断して裁判に…」
「だまれ! 物事は結果がすべてなのだ!」
「待ってください!」
そういって口を開いたのはカノンさんだった。
「結果がすべてというのなら、彼らの活躍によって大災害を未然に防ぐことができた…というのも結果の一つでしょう」
「ムッ…」
大臣は押し黙る。
「彼らは、私利私欲のために動いたのではありません。それは民衆の反応を見れば明らかです。たしかに実行犯の中には重傷者が数名います。しかし死人は出ておりません。彼らはオールハートの精神は守っています。私は
(カノンさん…)
そう言い終えたあと…カノンさんは大臣を一瞥する。
「それとも、ハナビートに王位継承権があることが…あなたにとって都合が悪いのですか? ゴネータ大臣?」
「ぐぬ…言いがかりだ!」
「…へっ、あんのじゃじゃ馬ムスメ…言うようになったじゃねぇか」
(じゃじゃ馬ムスメ…? カノンさんが…?)
「どうしたものか……」
女王陛下は考えている…。そしてサーディンたちに問いかけた。
「おまえたちの希望を聞こうか」
一瞬だけ…3人は顔を見合わせた。そしてそれぞれ主張した。
「レイジの無罪で」
「レイジくんを地上に返すことを」
「レイジにオルテンシアの名産品つめあわせセットを」
「「「お願いします!」」」
3人同時にハモった。まわりはみんなキョトンとしていた。
女王陛下は眉ひとつ動かさず…彼らに聞く。
「…それでいいのか? 自分たちのことは…なにも…?」
「今さら罪状が1つ増えたところで…なあ?」
「女王陛下、わたしは研究のしすぎで頭が痛いのです。なにもない牢屋で過ごす方が、かえって心身ともに健康になれるかもしれません」
「ランディアンとはいえ、相手は子ども…。僕は子どもを犠牲にしてまで、無罪になりたいとは思いません。それは王族のすることではないでしょう?」
3人がひと通り主張したあと、サーディンがまた口を開いた。
「レイジは被害者だ。ワケわかんねぇまま、こんなトコに連れてこられて…。オレらといるときも泣き言いわずについてきました。ランディアンとはいえ…10歳のガキが根性みせました。気持ち…汲んでやってくださいよ、女王陛下」
(サーディン………)
「ふむ、わかった…3人とも意志はかたいようだな」
「女王陛下、お咎め覚悟でしました。身内に甘い処分をすると、他のものに示しがつきません。泣いて
「ハナビート。民を想っての行動は評価している…。だが、上に立つものは感情で動いてはならぬ。感情と理性を両立せよ。それだけ言えば…わかるだろう?おまえには王位継承権があるのだ。それを忘れるな」
「お心遣い、感謝します。女王陛下…」
「ハナビート…!みんな…!まって、こんなのおかしい!!」
「レイジ。ありがとう…。でもこれが大人の世界なんだ。行動一つ一つに責任が生じる…。僕らはこうなることもある程度は予想していたんだ。でも君だけは地上に帰さないといけない。そう話し合ったんだ…」
「そんな…!!」
「話しは済んだか?連れていけ…!」
3人は連れていかれた。残ったのは僕だけだ。
さっきまで険しい表情だった女王陛下は、ハナビートを見て微笑むような、
呆れるような…そんな表情をしていた。
「さて、次はそなたの処分についてだ。ランディアンの少年」
女王陛下は僕をじっと見る。僕も目をそらさない。
「カノンの主張では、そなたも功労者だ。考えがあるならばきこう」
「なんでもいいのですか?」
「内容次第だ」
僕はいろいろ考えた。正直ヒドーデスは許せない。
死刑にしてほしいくらいだ。アイツのせいでじいちゃんは…。
でも、アイツが死刑になったとしても、じいちゃんは戻ってこない。
それと、僕なりに全力でヒドーデスに一矢報いたためか、
そこまでヤツの死刑を願ってはいなかった。…となれば答えは一つ…。
サーディンたちがここまでしてくれたんだ…。
いつまで人にたよっているんだ、いつまで守られているんだ、僕は…?
僕も勇気を出さなきゃ…!!自分の意見は…自分の口から言わなきゃ……!!
僕は深呼吸して、まっすぐ女王陛下を見て口を開いた。
「サーディンたちを…無罪にしてください!」
「…なに?」
女王陛下はもちろん、カノンさんやまわりの人たちも驚いていた。
「ぼ、僕は…自分の意志で彼らについていきました」
「そうか…もし、それとひきかえに、地上に帰れなくなる…といったらどうする?」
「かまいません!」
自分でも不思議なくらいに即答だった。
「ほう…」
女王陛下の眼光が鋭くなった。すかさず大臣が横から口をはさんだ。
「地上にもどれなくなってもいいのか!?」
「今回の道中、本来なら死んでいてもおかしくなかった…。足手まといにしかならなかった僕を彼らは守りながら戦ってくれました。そして短い間ですが、行動を共にしているうちに…彼らと暮らせるのなら、それもいいのかも…と考えるようになったのです」
僕の予想外の返答に女王陛下は、しばし閉眼した。
「そなたは…義を重んじる人間のようだな…まだ子どもなのに、立派なことだ」
「義を重んじる…それも3人から学んだことです!…あ、でも、僕がここに残ったら妹にクスリを届けられない…」
「その件はコチラの不手際だ。だから妹の命は保証しよう。しかし…いいのか?」
「はい!」
僕は女王陛下を見て言った。少しも目をそらさずに。
「この状況でなお…マリーシアンの安否を考えるか…」
女王陛下はまた閉眼し…口を開く。
「迷いのない目だな…。よかろう、彼らの件を不問としよう」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、条件付きで、だがな…細かい処遇は後日考える」
「じょ、女王陛下! よろしいのですか!?」
「民衆がヒーロー扱いしているものを有罪にすれば、士気にかかわるだろう…」
「む…ぐ、ぬううぅ…」
ゴネータ大臣は納得していないようだった。
それとは対照的に女王陛下は納得しているように見えた。
「ランディアンの少年…」
女王陛下はまっすぐに僕を見た。少し笑っているように見えた。
「今日はゆっくり休め。明後日地上へ送ろう」
「はい!失礼します」
(礼儀作法…これで合ってたのかな…?)
その日は…僕はなかなか寝付けなかったが…。
自分の思いの丈を女王陛下に伝えることができたので、清々しい気分だった。
~~~
それから2日後、僕はカノンさんのサメのマシンで帰ることになった。
見送りにはたくさんの人が来てくれた。
「ありがとよ、レイジ。おまえのおかげで掃除係1ヶ月で済んだぜ」
「じゃあ、レイジ。元気で」
ジャララ~ン! とハナビートがギターを鳴らす。
「ハナビートもありがとう」
「ランディアンとのセッションも悪くなかったよ。キミはもう『チルラッパー・レイジ』じゃない。『ブレイジング・レイジ』だ」
言葉の意味はわからないが…。見直したとか、そんな意味だろう、たぶん…。
「ハナビートの音楽は元気がでるよ」
「レイジ、音楽というのは掛け算みたいなものだよ」
「音楽が…掛け算?」
「優れた音楽というのは人の感情をゆさぶるものだ。でもね、その人の感情が『0』だったら、意味がないんだ。いい結果にはならないんだよ」
「うん…」
「今回レイジは、亡くなった祖父の無念をはらすために感情を爆発させ、行動を起こした…。それが良い結果につながったんだ。僕のハイレベルな音楽はその手助けをしただけなんだよ。自分を卑下しないでいい。感情を奮い起こさせ、行動を起こした自分を誇りなよ」
「うん…ありがとう、ハナビート」
さっきの言葉はよくわからなかったけど…
今の話はなんとなくわかったような気がする。
「次はわたしか? レイジくん」
「シキさん…その、ごめんなさい。あのとき感情まかせに走って…」
「あ、ああ。あのときのことかい?気にしないでいい。子どもが感情で動くのは正常だ。まぁ、大人になっても感情だけで動いていると、社会からハジかれるがね」
「あ? なんで、オレ見て言うんだよ?」
「今の会話の後半は、キミにも当てはまると思ったからさ…解説が必要かい?」
「いや、いい…反省してま~す」
(絶対に反省してないだろ。この人…)
「それから…彼らを洗ってみたが…おじいさんに関係するものは出てこなかった。だから希望を捨てるな、レイジくん。まだ、わからんよ…」
「ありがとうシキさん。でも僕…気持ちの整理がついたから大丈夫です」
「そうか…強いな、キミは」
「さて、最後はオレか…レイジ!」
サーディンが、ずいぃっと前にでる。
「っ! サーディン…」
「なんだよ?」
「その、ごめん…」
「…なにが?」
「特訓してもらったのに…なんの役にもたてなかったから…」
「…カ…ヤロウ!」
「…え?」
「バッカヤロっつったんだよ!!」
ゴン!
その瞬間、頭にチョップされた。
「あいたた、なにすんのいきなり?」
「活躍できなかったって、あったりめぇだろ! 特訓を3時間ガンバったくれーでなぁ!ヒーローになれりゃ、だーれも苦労しねぇっつーの!」
クス…クス…クス…
まわりのみんなは笑っている…。なんだか恥ずかしい…。
シキさんが肩をすくめる。
「サーディン、暴力はよくないぞ?なぜ評判が悪いリーダーなのかわかったぞ」
「うっせぇ!アレコレ口で言うより、こっちのほうがはえーもん。時短だよ、じ・た・ん。まあ……活躍は見られなかったがよ、意地は見せてもらったぜ、レイジ」
「…そう?」
「おまえは強くなるよ。最後まで目ん玉、見開いてただろ? 人間は追い詰められたときに本性が出るもんだ。圧倒的な力をまえにしても屈しない強さ…。それがおまえにはある」
「へへ、そうかな…?」
「まぁ、オレのチョップをそんなに痛がっているようじゃあ、正義のヒーローになるには、もうちょい時間がかかりそうだけどな」
ハッハッハ…
一同が笑い合う。お別れのときが迫ってきている。
そう思うと逆に何を言っていいかわからない。
言葉は出なかったけど、僕は彼らを見てつくり笑いをした。
鼻がジンジンする…。サーディンたちがだんだん滲んで見えた…。
「準備はいい? じゃあ、行くわよ」
僕とカノンさんはサメの乗り物に乗って、オルテンシアから離れる。
お互いの姿が見えなくなるまで、僕とみんなは手を振り合った。
別れの言葉を口にした。
「元気でな! 今度来たら実戦式で稽古つけてやるよぉ~」
「みんな…バイバイ!」
「さようなら~!!」
オルテンシアがあたたかな輝きを放ちながらどんどん遠ざかってゆく…。
「いいわね、オトコ同士って…」
「え? 何か言った?」
「ううん、なんでもないわ」
「そう。ならいいけど…。カノンさん。その…ありがとう」
「…? わたしはなにもしてないわよ? あなたの送迎しかしてないわ」
「してくれたよ。サーディンを子守り役に選んでくれた」
「ふふ、そうね…」
虚をつかれたのか、カノンさんは少し笑っていた。
「そういえば、僕って記憶は消されないの? このおみやげは大丈夫?」
「厳重な審査のもとだから持ち帰っても大丈夫よ。あと記憶のほうも問題ないわ」
「どうして?」
「子どもが海の底に行ってきたなんて、だれも信じないわ」
「それもそうだね…」
「あら?」
カノンさんは手元のメーターを見ながら僕に言う。
「ごめんなさいね。今からお昼寝してもらうわ。機密保持のためにね」
「うん、わかった」
そういうと僕はボンヤリと意識がなくなっていく。
まるで手術前の麻酔のように…
徐々に意識がなくなっていった…………。
「こちらこそ、ありがとう。私も…キミに…教えられたわ…」
薄れゆく意識の中で、僕は確かにそう聞こえたのだった…。
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