第14話 冬

[農民D]もちろんわかってると思うが、冬も気を抜くなよ?

[至誠 ]なんでだよ。何もイベントないんだろ?

[農民D]だからこそだ。今だけは悪徳貴族も襲って来ないからな。

[至誠 ]当たり前だよ。なんだよこの雪の量はよぉ!!!

[農民D]今のうちに農地の改造をしておけば、来年はスタートダッシュ間違いなしだ

[至誠 ]そもそも家から出れねえよ!!!

[農民D]まさか家から地下を通って外に出れる道を確保してないのか?

[至誠 ]してねぇよ! 一言かあったかよ、そんな説明がよぉ!?

[農民D]……あれ?

[至誠 ]あれじゃねぇんだよぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおお



 なんていう、意味のない回想をしてる場合じゃない。


 俺は今、この世界に生まれて一年と短いくわ生の集大成のような……いや、前世も含めて一世一代の大イベントに挑んでいるから、ちょっと待って落ち着かせてほしい。

 


くわさん、私……」

「落ち着こう。コハル。なっ……」

くわさん」


 俺の胸に顔をうずめるコハル。

 その両腕は俺の背中にまわされていて、がっちりホールドされている。


 どうしてこうなった……?


 



 納税を終えて、俺達は全員一緒に帰宅した。

 ルーダの機転のおかげでなんとかコハルを奪われることなく、な。


 しかしその表情は冴えない。

 なにせ、予定していた以上の金貨をクソ悪徳貴族に取られたからだ。


 冬、どうしようか……。

 来年の苗、買えるだろうか?


 みんながそんな思いを胸に秘めつつ、重苦しい雰囲気での帰宅となった。




 

 それから数日後。



 朝起きると一面の雪景色だった。

 もちろん寒いから外には出ず、視界だけ切り替えて農地を眺めただけだ。


 今、『お前、くわなのに寝てるの?』とか、『くわなのに寒いとは?』とか疑問に思っただろ?

 いいじゃねーか、くわが寝たって。


 なぜか突然自分の力で擬人化できるようになってからは、なぜか用意してもらえた寝床で俺も寝ている。

 のんびりグダグダするって最高だな。


 なのに……。


 なのにだ。

 


くわさん……♡」


 なぜか俺の寝床に入り込んできたコハルが、俺をがっちりホールドして離してくれない。


 しかも、なんではだ……。


くわさん? 私……」


 私、なんだよ?


 夢でも見てるんだろうか?


 それならそれでいいけど、俺、前世でも独身だったし、特に彼女もいなかったから、その……女の子と添い寝するのはじめてなんだが……。



くわさん♡」


 しかもすりすりするな。

 もし万が一刃物に戻ったら危ないだろ?


 擬人化がいつ解けるかなんか、俺にはわかんないんだからさぁ。



 でも、可愛い……。






 冬の寒さの中でも農家の人って早起きしてるイメージがあるんだけど、この世界ではどうやら違うらしい。

 誰も起きてこない中で、美少女を抱きかかえて好きにできるシチュエーションにビビってただ好きなようにさせている時間が続く……。



くわさん。まだ寝ていますか?」

「いや、起きてるぞ?」

「あっ……」


 言葉を返すと真っ赤になった。

 まるで茹でだこのようなわかりやすい変化に、こっちが恥ずかしくなるわ。


「えっと、いつから……」

「お前が起きる前からだな……」

「……」


 あっ、固まった。

 そうか、俺が起きてないと思って抱きしめてすりすりしてたのか。

 可愛いなあ。


 くわが寝ると本気で思ってるとことか、可愛いなぁ……。



「うん、でもまぁ、いいです。くわさん。大好きです♡」

「うぉ……」


 俺が意識的に優位な位置から小動物を見るような心境でコハルを見ているといきなりそんな暴言を放ってきた。

 きっと攻撃力1万くらいあるな。


 大丈夫かな?

 俺の耐久値減ってないかな?


「そういうのは恋人とかに言うもんだぞ?」

「……バカ……」

「えっ?」


 なぜか脇腹のあたりをつねられた。地味に痛い。





 この世界の冬は寒く、暗い。


 でも、通常は翌年に思いをはせながら成績がスクロールされる背後で映し出されるだけで、ゲームでは数分で終わってしまう短いものだ。

 なのに、現実になるとめっちゃ長い。


 なにせ、期間だけで言えば、開墾してから台風がやってくるまでの期間と同じくらいの時間があるからだ。


 その間に使ってしまった金貨をどう補充するのかとか、金かが得られない場合にどう来年の準備をするのか考えないといけない。

 にもかかわらず、何もできない。


 なにせ、雪が凄すぎて外に出れないからだ。


 出れさえすればモンスターを買って、なけなしの金を稼ぐくらいできるかもしれない。


 この世界ではそこらへんにいるモンスターは農民でも倒せるレベルなせいか、あまり良い稼ぎにはならない。



 もどかしい……。



 そんな思いを抱えて悶々とする俺をよそに、コハルは毎晩のように寝床に入って来て、一緒に寝て、朝まである意味暴れ回って帰っていく。


 まるで心残りを無くしているかのように。






 いや、待てよ。


 ちゃんと考えようぜ?


 何か方法はあるかもしれない。


 いや、ある。


 だからさ。




「コハル……」

くわさん。私、本当にこの一年が楽しかったんです。だって、色んなことがありましたから。全部鍬くわさんのおかげです。だから……」


 だからなんだよ。

 まさか今後もこの農地をよろしくお願いしますとか言って去ったりしたら怒るからな?


 なぁ……。



---イベントクリア!---

<くわ>

[種族]    農業用具・くわ

[レベル]   100(レベルアップによって強く、魅力的になっていく)

[所有者]   コハル(親密度1,040、ラブモード突入)

[ステータス] 攻撃力+2,000

[スキル]   "身体強化"、"耕魂ソウル・テイル"、"農家の癒し"、"擬人化"、[EX]***(参照権限がありません)

[付与スキル] "耕魂ソウル・テイル"、"ビーストスラッシュ"、"農家の癒し"、"擬人化"

[耐久性]   47

[特徴]    リガイアへの転生者の魂が宿ったくわ


<討伐歴> ※名前:レア度:討伐数:備考

・ラグラン・グラード:-(判定不能):0体:悪徳貴族。討伐失敗。

・レイピア:-(判定不応):0体:ラグランの持つレイピア。討伐失敗。

・暴風の化身:8(レジェンド):1体:この世界の台風の本体。討伐した? マジで? 国に表彰されるレベルだよ?

・ビッグモグラ:3(レア):2体:残虐非道な序盤ボス

>> 詳細を見る

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