第6話 親密度

「きれい……」


 夜……コハルは俺を抱えて座り、普段よりもちょっとだけ強い風の中でぱちぱちと音をたてる焚火を見つめている。


 俺はそんなコハルを眺めている。


 

 親密度っていったら、あれだよな?


 ラブコメ的なゲームによくあるあれ。

 ある一定の数値を超えると、抱き寄せても、キスしても、その……最後まで行っても問題なくなるという至高のあれだよな?


 なんでそんなものが俺の鑑定結果に表示されるんだ?

 前からあったっけ?


 今思えば、クソ貴族を撃退した後の表示にもあった気がするな……はっきり覚えてないけど。

 

 イベントクリアとかボス撃破の際に表示されるのはゲームの仕様だ。

 まぁ、本来はプレーヤーキャラや農家のステータスが表示されるはずだけど、くわの鑑定結果が見えるのは俺がくわだからだろう。



 親密度60……俺からコハルへの親密度というか親愛度は最初からマックスだから、あの表記はきっとコハルから俺へのもののはず。

 

 いくつがマックス何だか知らないけど、上げていったらいつか関係性が進展するとかあるんだろうか?

 いやでも、俺、くわだぜ?


 マックスになっても何もできねぇじゃねぇか……。

 これでもし親密度マックスになったら、コハルが俺を使って(以下、放送自粛)なんてことをされても、くわですらなくただの棒扱いで俺的にはまったく楽しくない……。

 


 むぅ……。

 

 改めて俺はコハルを見る。同時に周囲も確認するが、誰もいない。

 カイルは先に寝たし、ルーダとファナは家の中だ。


 改めて見るコハルはやっぱりかわいいし、きれいだ。

 俺からすると、綺麗なのは焚火よりもお前だよ……。

 

 とか言っても、どうせ本気にはされないだろう。

 なぜかコハルは……ルーダもファナもカイルも、誰も外見を気にしていない。

 みんなどこのアイドルグループなんだろうと思うくらいのレベルだけど、まぁ農民だし仕方ないか。


 はっきり言って、どう考えても悪徳貴族の方が醜悪だ。

 もちろん性悪が醜悪なのに加えて見た目もだ。


 1,000年前の戦争に勝ったのが逆だったらよかったのにな……と思ったけど、もしコハルたちメルナ族が買っていたら農業ゲームが成り立たないから俺が関わることもないか……。


 ハラド族からしたら見た目も性格も悪い上に戦争にも弱いとなったら、滅亡一直線だから頑張ってしまったのかもしれないしな……。


 そのおかげでコハルたちが苦労するのはかわいそうだから、俺は全力で支援してやるからな!


くわさん、ありがとう♡」

『ん?』


 まさか……。俺は今この時になって初めて気付いた事実に震える……。


 

くわさんのおかげで無事に作物は成長してて、もうすぐ早いものは収穫できそう」


 焚火の穏やかな明かりに照らされたコハルは、正直言って気絶しそうなくらい可愛いけど、そんなことより大事なことがある……。

 


「お礼に、くわさんにこの前拾った黄色いシールを貼ってあげるね♡ これでよし。うん、かっこいい♡」

 

 俺ってさ……。



 名前教えていなかったっけ?

 


「お父さんが独立して畑をやるって聞いた時には私も頑張るぞっていう覚悟とともに、不安もいっぱいだったの。でも、くわさんのおかげで危険……なことはちょっとだけで、ここまで来れた。本当に農神さまの農具のよう……」

『なぁ』

「はい?」


 俺はいてもたってもいられなくなって、コハルの長い話を遮ってしまった。

 コハルは急に喋り出した俺に少し驚いたみたいだが、少し首を傾げながら俺の言葉を待っている。めっちゃ可愛い。


『俺の名前って言ってなかったっけ?』

「名前……? えぇ、聞いていなかったかと」

『そうか……』

「そういえば転生者って鑑定結果に書いてありましたね。お名前、教えてください」

『至誠だ』

「わかりました。しっかり覚えました♡」

 俺をぎゅっと握って笑顔を作るコハルがめちゃくちゃ可愛い。


 くっそ~~~。

 もしここで俺が人間だったらそのまま抱き寄せてキス位してもきっと大丈夫なくらいのラブコメ展開だ……。


 なのになんで名前を伝えることしかできないんだ……。


 っていうか、待てよ?


 俺のスキルに"擬人化"ってのがあったような……。

 親密度に気を取られて忘れていた。


 でもどうせ俺自身では使えないんだろうけど、今ならコハルがいるな……。

 よしやってもらおうか。


 ブーーーーン……



 ってなんだよ、いいところに。

 邪魔すんな、バッタ!!?


『なぁ、コハル』

「どうかしましたか?」

『あっ、いや……その……とりあえず敬語はやめてほしい』


 俺のバカァァァァアアァァァアアアアア!!!

 今、それじゃないだろ!?

 勇気を出して言うんだ!

 "擬人化"させてくれって!!!


「えっ、いいの?」

『あぁ、もちろんだとも』

「でも、農神様の農具かもしれないのに……」

『いや違うから。転生者が宿っただけで、ただの……いや、もちろん俺は凄いぞ? 凄いけど、敬われるのはなんか違うから。ほら、農具は使ってこそだし、そもそも農民と農具はパートナーだろ? だったら敬語なんかなしだ』

「わかりました……いや、わかったわ。(よくわからないけど)」


 ブーーーーン……


 うんうん。これでよし。

 じゃあ、本番だ。

 ちゃんと言うんだぞ、俺。


 ブーーーーン……

 

『あともう一個あってな』

「ん? えっと、なんかバッタが多いような……痛い!?」

『なに!?』


 っておい……まじかよ……。



『コハル、逃げるぞ!?』

「えぇ? 畑は!?」

『今は後だ! あれはまずい! 魔虫のバッタの蝗害だ! あいつらは農作物どころか家も農民も喰うぞ!?』

「えぇぇぇぇぇえええええ!?」


 なんでこんなになるまで気付かなかった!?


 普通のバッタは夜には寝るけど、この世界の魔虫のバッタは夜も活動し続ける。

 そして家に忍び込んで農民を食うんだ。


『コハル! "耕魂ソウル・テイル"だ!』

「"耕魂ソウル・テイル"!」


 黄色と緑色の魔力が溢れ、周囲にいたバッタを蹴散らす。


 とりあえずこの場にいたものは全て倒したみたいだが、蝗害がこんなに簡単に終わるわけがない。

 急いで行動を開始しなければならない。


 しかし、考えてるような時間はないようだった。


くわさん、あれ! 何か景色が歪んでるわ!」


 コハルが指さす方向には暗闇にもかかわらず明らかに大量の何かが蠢いているのがわかった。


『間違いない……バッタの大群だ……』

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