第4話 クソ貴族

「あなた男なの!?」

 俺を握りしめたとっても可愛い女の子が突然大きな声をあげる。


 ちょっとコハル……いくら美人さんで、健康的で、素敵なお前でも、そんなに素っ頓狂な声をあげていたら幻滅されるぜ?


 それに俺が男なんて、そんなの見たらわかるだろう?


『そうだよ。当たり前だろ? もし俺が女だったら剣になっていたはずだ?』

「えっと……そういうもの?」

 

 しかしコハルはきょとんとしたまま。

 失礼だな。

『そうだ。この世界に出てくるものだと、例えばレイピアだな。ちょっと力を入れればすぐに曲がる癖に、妙に気取ってやがるし女々しいだろ? でも、くわは力強く大地を耕すんだ。どう考えても男だろ?』

「えっ……えぇ……そうね(うん……どうでもいいや。頷かないと話進まない感じだし適当に頷いておこう……くわさんが凄いのは確かだし♡)」


 なにか小声でぼそぼそ言っているけど、わかってくれたならいいか。


『だろ? だからお前は安心して俺に身を委ねろ』

「むしろあなたが私に身を委ねないとなにもできないような……」

『なにか言ったか?』

「うっ、ううん。なんでもないわ」

『あとは、ちゃんと磨いて綺麗にしてくれ。たまに油を塗ったり、刃を研いだりな。それからできれば持ち手のところは使い終わったら拭いて、使わない時は綺麗な布を巻くのと……』

「要求が多いよ~~~」

『当然だろ!? たしなみは重要だ!』

くわにたしなみって必要……?」

『おい! 道具は手入れ次第でもちが全然変わるんだぜ? ちゃんとお手入れしてくれないと、俺すぐにサビちゃうだろ?』

「はぁ……」


 なんだよその態度は!?


 って、何をしてるのかだって?

 現実逃避だ、現実逃避!


 俺自身と、俺の可愛いコハルの記憶からあのクソ野郎……ラグラン・グラード伯爵を消し去るんだ!?






 話は数日前にさかのぼる。


 無事に開墾した土地を耕した俺たちは、国が支援のために送ってくれた苗や種を載せた馬車を迎え入れた。


 ルードさんもファナさんもコハルもカイルもやる気に満ちた目をしていた。

 

 これでこそ開墾民だな。

 なにせ魔獣が蔓延る土地を切り開いていくんだから、バイタリティーにあふれた人たち。


 俺はくわになったせいか、農民である彼らのことがとても眩しく見える。


 頑張れ!


 俺の心はその想いでいっぱいになっていた。



 しかしそんな良い気分があっさりとぶち壊された。




「くっくっく。新しい農地。たしかに確認した。」

「……領主様。我らルードとその家族。必ずやこの土地をより豊かなものにしてみせます」

 のっそりと嫌な笑みを張り付けた男に、ルードが首を垂れる。

 くそぅ、殴り飛ばしたい。


「ふん……せいぜい頑張るんだな。罪を消してやるのだから、文字通り命がけで励むことだ……ん?」


 ここで言う罪とは、ルードたちの生まれのことだ。


 この世界には支配者層であるハラド族と、被支配者層であるメルナ族がいる。

 1,000年以上前にあった大きな戦争で勝ったハラド族が、負けたメルナ族を支配しているんだ。

 その戦争は穏やかに暮らしていたハラド族を突如としてメルナ族が攻め、返り討ちにあったとされている。


 もちろん事実がどうかなんてわからない。

 ただ、この話は広く信じられており、ハラド族はメルナ族を罪人と断じ、自らの支配の正当性を主張している。


 世界のいたるところでメルナ族は不当に貶められており、この国でも開墾とは名ばかりで、未開の地を命がけで侵攻させられているとも言える。


 まぁ、今言っても仕方がないことではある。

 なにせここで何を言ってもルードたちにできるのは農作物を育て、農地を増やしていくことだけだ。


 もし10年以上、大きなミスもなく発展し続けて行けば、ハラド族の支配を終わらせる大戦争シナリオに進むこともできる。

 できるが、俺はこの選択肢は絶対に選ばない。


 なにせ、大戦争になったらただでさえ鬼畜ルートなこのゲームがさらに酷いものになるからだ。

 そこかしこに設定される地雷を目隠しで進んで行くような運ゲー。


 物語……ゲームとしてチャレンジしたことはもちろんあるが、リアルになってしまったこの世界でそんなことをしてむざむざコハルを失うつもりはない。

 




「お前……よいではないか……我の愛人にしてやろう。良かったな。お前たちの罪が少し軽くなるかもしれんぞ」

「きゃっ……」

「ふごぉ……」

 

 って、いけない。また現実逃避していた。

 その間にクソ野郎がコハルの腰を取り、驚いたコハルが腕を振った勢いでクソ野郎がひっくり返った。ウケる。


 そう言えば身体強化をかけ続けたままだったな。


「貴様! 罪を重ねる気か!?」

『コハル、俺を振り上げろ!』

「はっ、はい~」

 

 キィン!!


「くっ……」


 怒りで顔を真っ赤に染めたクソ野郎が手に持っていたレイピアをコハルに振るったので、俺を使って防がせる。


 俺の攻撃力は640……。

 これ、初期の農民が装備しても騎士をぶった切れる攻撃力だぜ?

 軟弱なクソ貴族なんか目じゃないわ!



「愛人になんかなりません! 私たちはしっかりと農民としてこの農地をはってんさせていきますので!」

「くっ、生意気な……」


 レイピアを防いだことで自信を持ったのか、コハルが宣言する。

 クソ貴族ははじかれたレイピアを見て呆然としている。


 けど、あれ?

 そもそもグラード伯爵って、レイピアなんか持ってたっけ?

 

 記憶にない。

 なにせ出てくるときはたいてい俺の可愛いキャラが殺されたり襲われたりするところ。

 レイピアよりも人によっては息子とも呼ぶ汚いアレを振り回してることの方が多いクソキャラだ。


 あぁ、このまま斬り殺していいかな?

 世界を平和に……

 

「うぐぅ……」

 殺気を出すと顔をしかめるクソ貴族。

 

 ……ダメか。

 そうだよな。もし斬ったりしたらコハルたちが本当に罪人になってしまう……。


 だとしたら、とっとと追い返そう。


 クソ貴族は農家の小娘に勝てないことに信じられないといった顔をしているが、てめぇが打ち合ったのはなにせこの俺だからな?


 きっとレア度が表示されるとしたらSSR(スーパースペシャルレア)。もしかしたらUR(アルティメットレア)かもしれない。

 そんな俺に弾かれたのにレイピアが無事だったことを喜びながら、とっとと帰れ。


『コハル……唱えて』

「えっ?」

『"耕魂ソウル・テイル"』

「"耕魂ソウル・テイル"」

「うごぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおおおおお!!! 」


 俺の刃の部分から放たれた黄色と緑の魔力がクソ貴族を吹っ飛ばす。

 良かった、ちゃんと攻撃スキルだったな。


 ハラド族はクソばっかりだけど、戦争に勝っただけあって頑丈だし魔法にも秀でているのは確かだからきっと死にはしないだろう。


「貴様ら! 覚えてろよぉぉおおぉぉおおお!!!」

 ほら生きてた。

 悔しそうに顔についた泥や手に持っていたものを地面に叩き付けてから走り去っていった。


 きっとプライドが高いから、メルナ族に負けて逃げ帰ったとは言うまい。



「あっ……ありがとう」

『あぁ。あれがクソ貴族だ。絶対にあんなやつにお前を渡したりしないからな』

「うん。私も頑張るよ」


 クソ野郎のことは早く記憶から消去するとして、あいつのおかげでちょっとだけコハルと仲良くなった気がするのはなんか癪だけど嬉しいからまぁいっか……。




---イベントクリア!---

<くわ>

[種族]    農業用具・くわ

[レベル]   16(レベルアップによって強く、魅力的になっていく)

[所有者]   コハル(親密度20)

[ステータス] 攻撃力+640

[スキル]   "身体強化"

[付与スキル] "耕魂ソウル・テイル"、"ビーストスラッシュ"、"農家の癒し"

[耐久性]   798

[特徴]    リガイアへの転生者の魂が宿ったくわ


<討伐歴> ※名前:レア度:討伐数:備考

new ラグラン・グラード:-(判定不能):0体:悪徳貴族。討伐失敗。

new レイピア:-(判定不応):0体:ラグランの持つレイピア。討伐失敗。

・ビッグモグラ:3(レア):1体:残虐非道な序盤ボス

・ラージボア:2(アンコモン):1体:なし

・大芋虫:1(コモン):78体:なし

・モグラ:1(コモン):69体:なし

・大ミミズ:1(コモン):87体:なし

・野ネズミ:1(コモン):102体:なし

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