第17話 農家の息子は農家を継ぐべきか?家族の選択
🧭 導入の書:この物語のはじまりに
「家を継いでくれ。それが親父の願いだ」
「でも、俺は剣術師団に入りたいんだ」
アースル村の老舗農家〈ザレア家〉で、父と息子の意見がぶつかっていた。
大地を耕して三代目。息子は四代目として期待されていたが――
夢と責任、伝統と自我。その狭間で揺れる家族の、ある夏の記録。
🌾 本章:農地に立つ者たちの記録
「父さん、俺は――農業をやりたくないんだ」
息子・カルスの声が、畑の空気を割った。
その場にいたのは、父親であるオルガン。
アースル村でも指折りの古参農家。品種改良にも積極的で、村の作物の質を底上げした立役者だ。
「……なら、お前は何をやりたい」
「王都の剣術騎士団に入って、訓練師になりたい。
剣術の型で魔力制御ができること、証明したいんだ」
その言葉に、父は眉をしかめた。
「農業をなめるな。
お前が育ったのは、俺の畑があったからだろうが!」
*
ギルド農協に呼ばれた風間は、二人の話を聞きながらメモを取っていた。
(オルガンさんは“農家”であることを“血”だと考えている。
カルスくんは“家族”より“個人の夢”を重視している。
……そして二人とも、“守りたいもの”がある)
「風間さん、俺は間違ってるんでしょうか?」
カルスの言葉に、風間は静かに答えた。
「正しいかどうかを決めるのは、“どっちの作物が育つか”じゃありません。
“どっちも土に種を蒔いてる”なら――方法が違うだけです」
*
風間は提案した。
「一年間だけ農業に携わる“研修期”制度」
農家の子どもが卒業前に一年間、親と一緒に働き、改めて判断する制度だ。
「本当にやりたくないなら、その時点で離れていい。
でも、“続けてもいいかもしれない”と思うなら、それも一つの選択になる」
カルスはその提案を受け入れた。
*
数ヶ月後。
「……案外、悪くないもんですね」
収穫を終えたカルスは汗をぬぐいながら言った。
「種を蒔いたとき、風が吹くのを“感じる”んです。
剣の型と同じで、“流れ”を読む感覚が必要なんですね、農業も」
オルガンは無言で頷いた。
だがその目には、少しだけ柔らかさがあった。
「親父、俺――春になったら、騎士団試験、受けます。
でも……畑も、続けていくかもしれない」
「……好きにしろ」
その言葉は、叱責でも諦めでもなく――初めて、ひとりの農家が、“子どもを信じた”瞬間だった。
🌱 収穫のひとこと
夢を選ぶことは、家族を否定することじゃない。
土に立ち続けた背中が――夢を追う勇気をくれることも、ある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます