第17話 農家の息子は農家を継ぐべきか?家族の選択

🧭 導入の書:この物語のはじまりに

「家を継いでくれ。それが親父の願いだ」

「でも、俺は剣術師団に入りたいんだ」

アースル村の老舗農家〈ザレア家〉で、父と息子の意見がぶつかっていた。

大地を耕して三代目。息子は四代目として期待されていたが――

夢と責任、伝統と自我。その狭間で揺れる家族の、ある夏の記録。


🌾 本章:農地に立つ者たちの記録

「父さん、俺は――農業をやりたくないんだ」


息子・カルスの声が、畑の空気を割った。


その場にいたのは、父親であるオルガン。

アースル村でも指折りの古参農家。品種改良にも積極的で、村の作物の質を底上げした立役者だ。


「……なら、お前は何をやりたい」


「王都の剣術騎士団に入って、訓練師になりたい。

剣術の型で魔力制御ができること、証明したいんだ」


その言葉に、父は眉をしかめた。


「農業をなめるな。

お前が育ったのは、俺の畑があったからだろうが!」



ギルド農協に呼ばれた風間は、二人の話を聞きながらメモを取っていた。


(オルガンさんは“農家”であることを“血”だと考えている。

カルスくんは“家族”より“個人の夢”を重視している。

……そして二人とも、“守りたいもの”がある)


「風間さん、俺は間違ってるんでしょうか?」


カルスの言葉に、風間は静かに答えた。


「正しいかどうかを決めるのは、“どっちの作物が育つか”じゃありません。

“どっちも土に種を蒔いてる”なら――方法が違うだけです」



風間は提案した。

「一年間だけ農業に携わる“研修期”制度」

農家の子どもが卒業前に一年間、親と一緒に働き、改めて判断する制度だ。


「本当にやりたくないなら、その時点で離れていい。

でも、“続けてもいいかもしれない”と思うなら、それも一つの選択になる」


カルスはその提案を受け入れた。



数ヶ月後。


「……案外、悪くないもんですね」


収穫を終えたカルスは汗をぬぐいながら言った。


「種を蒔いたとき、風が吹くのを“感じる”んです。

剣の型と同じで、“流れ”を読む感覚が必要なんですね、農業も」


オルガンは無言で頷いた。

だがその目には、少しだけ柔らかさがあった。


「親父、俺――春になったら、騎士団試験、受けます。

でも……畑も、続けていくかもしれない」


「……好きにしろ」


その言葉は、叱責でも諦めでもなく――初めて、ひとりの農家が、“子どもを信じた”瞬間だった。


🌱 収穫のひとこと

夢を選ぶことは、家族を否定することじゃない。

土に立ち続けた背中が――夢を追う勇気をくれることも、ある。

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