第9話 「もっと安く買えるのに!」価格調整の苦悩
🧭 導入の書:この物語のはじまりに
王都の街角で聞こえる、不満げな声。
「ギルド通さずに農家から直接買えば、半額なんだよな」
それは、消費者の率直な本音だった。
しかし、ギルドが調整する価格の裏には、収穫量、需給バランス、備蓄リスク、そして農家の生活が絡んでいる。
価格は誰のためにあるのか? ギルド農協職員・風間が、価格の“重さ”と向き合う一日が始まる。
🌾 本章:農地に立つ者たちの記録
「これ、一袋500リルもするの?王都の市民に手が届くわけないでしょ!」
怒りをあらわにしていたのは、食料雑貨店の商人。
彼女の店では、農協経由で仕入れた野菜が「高すぎる」と客に避けられ、売れ残りが続いていた。
「ギルド農協が中抜きしてるって噂ですよ。現場を知らない連中が、勝手に値を吊り上げてるって」
……その場にいた俺の胸が、ズキリと痛んだ。
*
「直接、農家から買えば3割は安い」
「なんなら、冒険者向け露店の方が安くてうまい」
王都の街には、そうした“ギルド不信”が蔓延し始めていた。
その夜。俺は、ギルド農協の価格調整責任者・マリスと向き合った。
「……現場じゃ、みんな俺らを“価格操作屋”って言ってます」
「でも私たちは、“明日の農家を守るための価格”を考えてる。
今日安く売っても、来年も同じ野菜が並ぶとは限らないのよ」
「それは、正しい。でも……“今、買えない人”の声も、無視していいのか?」
俺たちは正反対のことを言っているようで、同じ問いの中にいた。
*
数日後。俺は、ある実験的な取り組みを試みた。
【試験販売プロジェクト:
地元農家と協力し、“旬の味覚福袋”を予約制・定価指定で提供】
価格はギルド通り。だが中身は“おまかせ”。
消費者は単品を選べない代わりに、季節の“味と栄養バランス”を楽しめる構成にした。
「これなら、価格よりも“体験価値”で選んでもらえる」
反響は予想以上だった。
「どの野菜が来るか、毎週楽しみ」
「普段買わない野菜に出会えた」
「この形なら、価格の意味も理解できる気がする」
マリスも、後日ぽつりと呟いた。
「価格って、数字だけで決めるもんじゃないのね……人との信頼も含めての“値”なんだわ」
*
畑に立つノゼンが言った。
「安くても高くても、食ってもらえなきゃ意味ねぇ。
でもな、ちゃんと考えてくれるヤツがいるなら――俺ら、安心して作れるんだ」
🌱 収穫のひとこと
安いから、正しいとは限らない。
高いには、高いなりの理由がある。
でもその“理由”を伝えようとしなかったのは――俺たちだったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます