第9話 「もっと安く買えるのに!」価格調整の苦悩

🧭 導入の書:この物語のはじまりに

王都の街角で聞こえる、不満げな声。

「ギルド通さずに農家から直接買えば、半額なんだよな」

それは、消費者の率直な本音だった。

しかし、ギルドが調整する価格の裏には、収穫量、需給バランス、備蓄リスク、そして農家の生活が絡んでいる。

価格は誰のためにあるのか? ギルド農協職員・風間が、価格の“重さ”と向き合う一日が始まる。


🌾 本章:農地に立つ者たちの記録

「これ、一袋500リルもするの?王都の市民に手が届くわけないでしょ!」


怒りをあらわにしていたのは、食料雑貨店の商人。

彼女の店では、農協経由で仕入れた野菜が「高すぎる」と客に避けられ、売れ残りが続いていた。


「ギルド農協が中抜きしてるって噂ですよ。現場を知らない連中が、勝手に値を吊り上げてるって」


……その場にいた俺の胸が、ズキリと痛んだ。



「直接、農家から買えば3割は安い」

「なんなら、冒険者向け露店の方が安くてうまい」


王都の街には、そうした“ギルド不信”が蔓延し始めていた。


その夜。俺は、ギルド農協の価格調整責任者・マリスと向き合った。


「……現場じゃ、みんな俺らを“価格操作屋”って言ってます」


「でも私たちは、“明日の農家を守るための価格”を考えてる。

今日安く売っても、来年も同じ野菜が並ぶとは限らないのよ」


「それは、正しい。でも……“今、買えない人”の声も、無視していいのか?」


俺たちは正反対のことを言っているようで、同じ問いの中にいた。



数日後。俺は、ある実験的な取り組みを試みた。


【試験販売プロジェクト:

 地元農家と協力し、“旬の味覚福袋”を予約制・定価指定で提供】


価格はギルド通り。だが中身は“おまかせ”。

消費者は単品を選べない代わりに、季節の“味と栄養バランス”を楽しめる構成にした。


「これなら、価格よりも“体験価値”で選んでもらえる」


反響は予想以上だった。


「どの野菜が来るか、毎週楽しみ」

「普段買わない野菜に出会えた」

「この形なら、価格の意味も理解できる気がする」


マリスも、後日ぽつりと呟いた。


「価格って、数字だけで決めるもんじゃないのね……人との信頼も含めての“値”なんだわ」



畑に立つノゼンが言った。


「安くても高くても、食ってもらえなきゃ意味ねぇ。

でもな、ちゃんと考えてくれるヤツがいるなら――俺ら、安心して作れるんだ」


🌱 収穫のひとこと

安いから、正しいとは限らない。

高いには、高いなりの理由がある。

でもその“理由”を伝えようとしなかったのは――俺たちだったのかもしれない。

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