第35話 あきらめてもらうまでだ。
1
ラジット商会と、中元と清水は、一定の秩序を保ちながら、ゴールドイヤリングを奪い合っていた。
清水は、グルに、ピアスを奪われたままだ。
互いに、寿命の何年かは、使ってしまった。
翌日
中元たちは何事もなかったように過ごしていた。
三国はどこもけがをしていない。
中元がやった無寸勁は、一時的に交感神経を抑えるための、技である。
普段の倍以上の心拍数を正常に戻した。
河合は三国のことを気にかかっていた。
昨日、三国はメッセージアプリで河合に謝った。
河合は事情を中元から説明をされたが、その説明は納得いくものではなかった。
曰く
「グル先生は、清水先生のピアスで、彼を操ったそうです。理由は分かりませんが。」
しかし、中元は昨日、自分には聞えなかったが、三国を説得しているように見えた。
それを尋ねても中元も清水も答えてくれなかった。
学校であっても、お互い目を合わせなかった。
気まずい空気である。
一緒に話していても、距離を保っていた。
河合と三国は、部活の集合時間に遅れたことを、責められたが、気のない返事をするばかりであった。
2
黒島は、部活が終わった後、空手の稽古を積んでいた。
自分の弱さと向き合っていたのだ。
そうしないと、ラジット商会に付け込まれてしまうからだ。
阿部は、道場生たちの精神状態を気遣うようになった。
黒島は、中元に言われたことを反芻していた。
3
河合は、なぜ、イヤリングをそんなに死守をしたいのかを考えた。
おばあちゃんから預かったからだろう。
たとえ、それが他人のものであったとしても、自分はおばあちゃんが大好きだ。
それに、これを自分は気に入っている。
だから守りたいのだ。
それを奪われるといやな気持ちになる。
三国がそれをグルに渡そうとしているのを見たときにはショックだった。
しかし、三国はそれを拒んでいたのだ。
だが、それを奪ったのか?
何で、グルは、三国に催眠術を掛けたのか。
三国に何かあったのではないか?
河合は、三国に電話を掛けた。
「どうした?やっぱり、直接謝った方がよかった?」
「そうじゃなくて、最近なんかあったのかなって。三国、私の前だと元気ないよ。」
「心配してくれてるのか?」
「はぐらかさないで、なんか言ってよ。」
三国は、中元に言われたことを思い出していた。
自分の弱さに向き合えと。
「俺はただ弱虫なだけだ。みんなの前でかっこつけるしか能がない。嫌われているかどうかを気にしないと生きていけない。ただそれだけだ。満足したか?」
「私にできることあったらいつでも言っていいから、イヤリング盗むようなことしないでよ。」
「分かった。」
三国は電話を切った。
「心配してくれてるのか...」
三国はそうつぶやいて、布団に入った。
4
翌日
中元と清水は、授業が始まるまで、屋上で話していた。
「一昨日、三国君に、寄り添える発言をしていましたね。」
「そうしないと、倒したところで、また起き上がてきますから。」
「てっきり殺しちゃうのかと思いましたよ。」
「清水先生じゃあるまいし、そんなことしませんよ。」
「でも、何人も殺してるじゃないですか、我々。普通の人よりそういうの抵抗がないから。」
「そうですね。これで、三国さんが自分に向き合ってくれたらいいんですけどね。」
「どうですかね。今の子はスマホばかりで、他人とばかり向き合ってて、心が弱いんですよ。それを、スキマ時間は、ゲームで潰すしかない。」
「清水先生はどうだったんですか?」
「やっぱり、他人とぶつかるときもありましたが、直接会話すると楽しいですよ。からかわれることもありましたが、彼女を作ってよかったと思います。」
「変わってますね。」
「変わってるのは中元先生の方ですよ。」
「今どきは、インターネットで、情報を拾える時代です。その中には、断定的な口調な情報やいい加減な情報が混ざっている。人は、それにすがってしまいがちです。自分にとって耳障りがいい情報に。それをすると、ラジットからすれば格好の餌なんですけどね。」
「だからとて、無闇に進化させればいいというわけでもない。」
「そうです。」
「無責任ですね。」
「責任ないですからね。」
「そういえば、河合さんも気にしているような感じでしたが。」
「そうですね。とことん迷ってほしいところですが、彼女には難しいでしょうね。」
「あきらめるんですか?」
「あきらめはしません。」
すると、授業を終えた、グルが近づいてきた。
「諦める気になったか?」
「先ほど言った通り、私はあきらめませんよ。」
「そうか。なら、あきらめてもらうまでだ。」
グルはピアスを耳にセットした。
そして、清水と中元を石化し、二人を砕いた。
グルは、河合の元に向かった。
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