第29話 どんな人がタイプと聞かれたときに

 予行は無事終了し、お昼休憩後、5限6限と授業が続いた。

 中元は社会の授業を行っていた。

 何で朝から出勤しなければいけなかったのかマジで意味が分からない。

 中元はそんなことを考えながら、黒板に字を書いていた。

 三国はまじめに板書を取っている。

 そして、授業を終えると、三国は、近くの席の者と話していた。

 その中には、河合も含まれている。

 何の話をしているのか分からなかったが、河合が何かを言って、三国を笑っていた。

 三国は、苦笑いをしていた。

 とにかく、仲は良いのだろう。

 中元には、他人と慣れ合うという経験が全くない。

 苦痛なだけであった。

 かといって、いじめられもしなかった。

 全員中元をいじめる勇気はない。

 そして、6限を終えた放課後。

 今日と明日は全部活が休みだ。

 なので、16時半が最終下校時間となった。

 中元は、各階の教室を回って、帰るように、指示していった。

 本来は、非常勤の仕事ではないのだが、昨今の人手不足で、非常勤講師も学校の仕事を一部任されることになったのである。

 河合たちはまだ話していた。

「もう、16時半ですので、下校してください。」

 覇気のない声で言った。

 すると、三国が中元に話しかけてきた。

 他の生徒は、教室の中で話しているが、廊下にいる中元にわざわざ近づいてきたのだ。

「中元先生って恋人いたことないんですか?」

「ええ。ないですよ。」

 普段は、顔など見ることはないのだが、改めて見ると、顔の形や、性格などが十人十色である。

「その...好きな人とかいなかったんですか?」

「いないですね。興味ないです。」

「じゃあ、どんな人がタイプと聞かれたときに、好きな人が近くにいたら、どうしますか?」

「どんな場合でも、その時の気分によると答えますね。」

 中元は、質問は歓迎しているので、三国の質問に答えていた。

 自分から話を切り上げるようなことはしない。

 しかし、三国は、何を質問しようか迷っていた。

 中元は催促しなかった。

 質問が出てくるまで待つだけだ。

 すると、清水が近づいてきた。

「ああ、な、中元先生が、初めて生徒に慕われている...」

 清水は感動していたが...

「清水先生には、同じ質問しないんですか?」

 中元は、三国に言った。

「え?」

 三国は声をあげたが、すかさず

「清水先生は、恋人いたことは...」

「ありますよ。普通に。」

「今は...」

「内緒です。」

「清水先生は、どんな人がタイプと聞かれたときに、好きな人が近くにいたら、どうしますか?」

 清水は、三国の内心を察していた。

「うーん、その人の特徴はなるべく避けて言いたいよね。でも、自分は違うんだって思われたらいやだし...」

「そうです...さっき、中元先生が恋人いないって話になって、その会話の流れで、どんな人が好きなのって言われたから困ってしまって。」

 清水は微笑みながら言った。

「その時にたまたま中元先生が通りかかったわけだね。」

「そうです..」

「因みに、河合さんは、何と言ってたんですか?」

 中元は三国に言った。

「背が高くて、おしゃれで、ちょっと変なところはあるけど、私のことを守ってくれる人と言ってました。」

 中元は、三国のことをまじまじと見た。

「うーん。悪くないと思いますよ。」

「え...どういう意味ですか?」

 中元はそれには答えず

「では、黒島さんは...」

 と周りにいる人を全員(男も含む)を聞いていった。

 男女6人で会話をしている。

 そのメンバーを言っていったのだ。

「一番条件に合致しているのは、河合さんですね。でも、三国さんが河合さんを好きかどうかが一番大事ですが...」

 清水は慌てふためいていた。

 三国はさっきよりも顔が赤くなっている気がする。

 中元は続けて言った。

「好きな人が近くにいるのでしょう?でも、その好きな人が三国さんを好きとは限らないので、河合さんを頑張って好きになってください。」

「つまり、どういうことですか?」

「好きな人にではなく、河合さんに好かれる努力をしてください。」

 三国は、唖然としていた。

 そして、清水は三国に声かけた。

「まあ、大事なのは、相手を大切に思って、発言すればいいということだから!!」

 そう言って励ました。

 三国は教室に戻った。

「中元先生は、恋愛についてどう思っているのですか?」

「繁殖行為の同意だと思ってます。現代社会では、中学生で、子を産むのは良くないとされているので、自分で稼げるようになってからの繁殖行為を推奨しますが、その前に関係を築いておくことで繁殖行為の、抵抗をなくそうという風にとらえております。」

「それを女性の前で言ったことありますか?」

「ないですよ。」

「ならよかったです。因みにここだけの話ですが、三国は河合さんのことを好きなんですよ」

 中元に聞こえるように小声で言った。

「清水先生...そんなくだらないことに能力使ったんですか?」

「え?」

「催眠術で、三国さんに河合さんを襲わせようとしてますね?」

「いやいや、そんなことしませんよ!!」

「じゃあ、何で、三国さんの好きな人が河合さんと言えるのですか?」

「普通に考えたら分かりますよ!!」

「もしかして...読心術も使えるんですか?」

「だから、能力は使ってませんて!!」

 生徒が帰ってから、清水は中元に分かりやすく説明した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る