第21話 鰐口流「砕」

 小川は、更衣室から、廊下にいる中元に向かって、波動砲を打った。

 中元はそれを避けるが、その波動砲は、軌道を変え、中元に向かって襲ってきた。

 中元はそれを裏拳で破壊した。

「私、他の人たちとは一味違うんですよ。」

 小川は中元に言うが

「それを、死亡フラグと言うんですよ。」

 中元はにっこりと笑った。

 小川は、中元に人差し指をむけ、レーザービームを放った。

 弾丸で、短く打つときもあれば、長く照射したり、とばらばらであった。

 小川は爪から長い針を四本出した。

 30cmほどである。

「当たるだけで一気に寿命が縮まりますよ。」

 その爪で中元を引っ掻こうとした。

 間合いが30㎝縮まるだけでも、攻撃は有利になる。

 しかも、当てるだけでいいなら、さらに有利だ。

 おそらく毒が仕込まれているのだろう。

 中元は躱す一方だった。

 体力が徐々に削られていく。

 その毒針付きの爪で中元を突こうとしたとき、小川にスキが生まれた。

 中元は、小川の爪を避けながら、その手首に小手返しを行った。

 小川は自分の体に毒針を突き刺した。

 そして、そのまま、小川を一回転させ、地面に伏せた。

 しかし、小川は、爪を収納し、レーザービームを放った。

「なかなかやりますね。」

 そう言いながら、小川はフラフラになっていた。

 中元は、小川にハイキックを決めた。

 顎に見事命中した。

 すると、生徒たちが、体育大会からの練習から戻ってきた。

 チャイムが鳴る前に終わったのだ。

 そういえば、数分前から、スピーカーの音はならなくなっていた。

 口頭で説明するときは、スピーカーを使わないのだろうか。

「小川先生と、中元先生...何やってんの?」

 女子生徒が二人に話しかけた。

 すると、戻ってくることを察知して、変身を解いていた小川が...

「中元先生が、女子更衣室を物色していたから、注意していたんです。そしたら、いきなり顎をけられてしまって。」

 平然とうそをついたのだ。

 すると、女子生徒はざわつき始めた。

 中元を軽蔑するような眼で見ていたのだ。

 しかし、中元は死んだ魚の目をしていた。

「意外とむっつりスケベなんだね、先生。」

 女子生徒に言われるが、中元は動じていなかった。

 中元はどう言い訳しようか考えていた。

 河合は当然いるが、何も説明できないだろう。

 すると、あるものが叫んだ。

「いい加減にしなよ。何で冗談を真に受けちゃうの?あんたたちバカでしょ。」

 そう言ったのは、黒島だった。

「藍那、こいつのことをかばうの?」

「庇うとか庇わないとかじゃなくてさ。ほら、先生いつものセリフいいなよ。」

「いつものセリフとは?」

「信子が先生をからかっている時にいつも言ってるじゃん。」

 中元は一瞬考えてから。

「蒙古斑がある女性には、興味がないですか?」

「そう!それそれ!」

 女子生徒はざわついた。

「蒙古斑って何?」

 黒島が答えた。

「うちらのケツにある、青いやつだよ。」

 女子生徒は、いや、うちもう消えてるし、と言っていたが、一人だけ消えていないものがいた、河合である。

 中元は、口から出まかせで言っただけだが、河合にはまだ残っていたのだ。

 小川が呟いた。

「先生、生徒にそんなことを言ってたんですか?」

「何か、問題でも?」

「デリカシーなさすぎですよ!!そういったデリケートなことはちょっと..」

「いや、でも、生物上、当たり前のことを言ってるまでですが?」

 中元は悪びれる様子はなかった。

「この変人!!」

 そう言って、女子生徒たちは、更衣室に入った。

「絶対見るなよ。」

「はいはい。」

 中元は、屋上に向かって歩いた。

 小川もそれについてきた。

「何でついてくるんですか?」

「あなたを消すように言われたので。」

「それで、あんな嘘を?」

「社会的にという意味ではありません。」

 屋上には、清水がいた。

「清水。お前のことも消す。中元を消した後でね。」

「そうですか。」

 清水は、笑っていた。

「清水先生がいたずら、したのかと思いましたよ。」

 中元は清水に言うが。

「言ったでしょう?私は何もしないと。」

「傍観者ポジションですか。」

 中元は言った。

「中元先生。」

 清水は中元に言った。

「なんでしょう。」

「女の子に、蒙古斑のことを言うのはやめてあげてくださいね。」

「以後気を付けます。」

 中元は構えた。

 小川も変身する。

 小川はレーザービームを次々と打ちまくった。

 中元は清水を巻き込まないようにしてよけた。

 そして、柵を背にして、小川の攻撃を、受けようとした。

 しかし、小川のレーザービームは縦横無尽である。

 さらに、波動砲もあるのだ。

 小川はレーザービームを空中に向けて撃った。

 それが、中元に向かって集中放火されたのだ。

 しかし、中元はそれをすべて無傷で受けた。

 柵の鉄柱を引っこ抜きそれを、剣のように振り回したからだ。

 そして、それを、小川に向かって投げた。

 豪速球だ。

 小川の目を貫通した。

 小川の目を通り過ぎ、それが、小川の後ろで音を立てた。

「ぐへええ!!」

 そして、中元は小川に容赦なく、ギロチンチョークを行った。

 しかし、小川は、至近距離で、レーザービームが打てたのだ。

 中元はギロチンチョークを解いた。

 そして、中元は小川に向けて、両足を飛んで伸ばした。

 そして、宙に浮きながら、右足を振り上げ、左足を振り下げる。

 その両足を、顔に向かって挟んだのだ。

 この技は、中国武術、鰐口流わにこうりゅう、「さい」であった。

 中元の踵は、小川の脳天を、つま先は、喉元を砕いた。

 虎形拳の「牙」にも似ているが、攻撃か所が違った。

 「牙」は、踵と膝で噛みつくだけなのに対し、「砕」は、頭部全体を圧縮し、砕く技であった。

 さらに、砕くために、右足のハムストリングと、左足の大腿四頭筋で、その頭部を圧縮するのだ。

 驚くべきは、中元は、足のみで、挟んでいるということである。

 両腕は、バランスを保つために、広げていた。

 ワニが獲物を丸呑みするために咀嚼するように、中元は小川の頭を足で挟んでいる。

 小川はレーザービームを打つが、出鱈目なところに打っていた。

 そして、数十秒の格闘の末、中元がそれを勝ち取った。

 小川は砂になって消えた。

 

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