第16話 通りすがりの社会科教師

 褐色のいい肌、日焼けのせいか赤らんでいる頬、身長は170㎝程度で、程よい肉付きをしており、服の上からも分かるその丸みは、夢に出てくるような優雅な肢体を想起させた。

 長髪をお団子にしていた。

 名は、河合純奈

 森脇の部下の報告通りである。

 そして、その横にいるのが、身長158㎝程度。ショートカットで、眉毛が濃く、鼻に木をくくるような顔をしている。

 歯列矯正のためのブリッジをしていた。

 名は、黒島藍那

 そして、もう一人は、身長160㎝、キツネのような切れ長の目に、肩より長い髪を両サイドにおろしていた。

 前髪を髪留めで止めている。

 肌は雪のように白く、ほっそりとした体つきをしていた。

 名は、高田信子

 岩崎は、褐色のいい肌の少女に近づいた。

「たしか...河合純奈だな。」

 太い声で話しかけた。

「は、はい...」

「俺は、連中みたいに、卑怯な真似はしねえから安心してくれ。」

 河合は固まった。

「どういう意味ですか?」

「俺も、そのイヤリングを狙ってるってことだ。」

 岩崎は、河合のイヤリングをじっと見た。

 すると、そこに気怠そうな顔をした、髪はぼさぼさで、ひげを生やしているが、スーツをきちんと着こなすという、格好に、頓着しているのか、無頓着なのか分からない男が来た。

 中元碧清だ。

「これは、これは、プロレスラーの岩崎龍馬さん、じゃないですか。」

 岩崎は中元に目線を移した。

「誰だ、あんた?」

「通りすがりの、社会科教師です。」

 中元は岩崎を少し見上げていた。

 中元と岩崎の身長差は15㎝である。

「あんた、阿部さんを倒したんだってな。」

「どうでしょうかね...」

「今やったら勝てそうか?」

「さあ、分かりません。」

「俺は、中国武術をなめちゃいないぜ。」

 岩崎は熱気の温度を上げた。

 近づくだけで、その周りが熱くなっている。

 人間からこれほどの熱気が出るとは思えない。

「あんた、何が目的なんだ?」

「目的?」

「何で、あの嬢ちゃんをかばうんだって言ってるんだ。」

「そうですね。私自身のことについて知りたいからです。」

「あんた自身の事?」

「ええそうです。」

「まあ、いいや。とりあえず、俺の邪魔はしてくれるなよ。」

「嫌だと言ったら?」

「それは、俺に勝負を吹っ掛けているとみなす。」

「望むところですよ。」

 中元は去る岩崎を見届けた。

「先生どうしてここに?」

 河合は中元に問うた。

「もしかして、純奈のことを追っかけてきたんじゃ...」

 事情を知らない、高田はそういうが...

「実は、昔からプロレスファンでしてね。ザ・ドラゴン岩崎がここにきているという情報を聞きつけて、ミーハー心でここに来たわけです。」

 と、高田に説明した。

「ホントにー?純奈は活発で可愛いからなあ。」

 中元は、死んだ魚の目をしていた。

 それを見た高田は...

「いやいや、冗談だからー」

 と笑ってごまかした。

「では、変な輩に気を付けて、貴重な週末を過ごしてください。」

 中元はそう言って去った。

 黒島は、二人と解散した後、空手の稽古をしていた。

 型の稽古から、組手まで、毎日やることは同じだが、日々自分で、高みを目指していかないといけなかった。

 このままだと、純奈を守れない。

 その思いが原動力だった。

 超えるべき壁が、二つあった。

 まず、師範である、阿部だ。

 相変わらず、ボディタッチが激しかったが、自分より、強い者の論理こそが武に生きる者にとっての不文律だった。

 愛でるも自由、殺傷するも自由、それが、強さの最小単位。

 強さそれ自体は、善でも、悪でもないのだ。

 そして、もう一人が、兄である、芳樹だ。

 だが、その前に、超えたい人がいる。

 中元先生だ。

 彼は、中国武術をやっているのだそうだ。

 兄に少し、それを教えたらしい。

 中元は基本的に、流浪の身で、どこにでも姿を現すのだ。

 だから、数年前にこっちに来ても何もおかしくはない。

 兄は現在高校の寮に入っている。

 本格的に空手を極めるためだ。

 阿部先生が推薦状を書いたらしい。

 早く2人に追いつき、追い越すのが目標だ。

 それが、純奈を守ることにつながる。

 河合は、ハウスキーパーと会話を交わすことはないが、日ごろから感謝はしていた。

 料理に心が通っているからだ。

 母親の料理もおいしく作られているが、作業の一環としてそれをこなしているようだった。

 ハウスキーパーが仕事なのは、分かっているが、心が通っている料理を食べたのは久しぶりだった。

 一瞬うるんだ瞳になったが、それをこらえ、ご飯をむしゃむしゃと食べた。

 そして、自室にこもり、ベットに寝そべりながらスマホを触る。

 ドアが開く音が聞こえ、窓から外を覗く。

 それに気づいたのか、ハウスキーパーは河合に会釈をした。

 最初はハウスキーパーを警戒していた。

 外から来た人間を信用できなかったからだ。

 しかし、ハウスキーパーは張り付いたような、屈託のない笑顔ではなく、心の通った人間の顔をしていた。

 河合は再びベットに寝そべる。

 肉体は悲鳴をあげているが、河合はそれに耳を貸さなかった。

 その結果、河合は疲労を感じないところまで来てしまったのだ。

 体が疲労に順応してきたのだろうか。

 河合はそんなことを考えながら、スマホをスワイプしていく。

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