第8話 虎形拳「牙」

 河合は外に逃げた。

 藍那が心配であった。

 なにより、イヤリングを奪われたのだ。

 河合は自転車に乗って家に帰った。

 黒島は小野と格闘していた。

 小野の身長は167cm

 体は細い。

 しかし、右腕が太い。

 体が細いという弱点も、姿が変わったことにより、無効化されているようであった。

 さらに動きが早くなっていた。

 黒島は、小野の顎に蹴りを放った。

 それが命中する。

 しかし、怯む様子はない。

 このままだと、自分が砂になって死ぬのでは?

 そう思った。

 しかし、辞めるわけにはいかない。

 こいつから、イヤリングを取り返さないといけないのだ。

 黒島は拳を次々と叩きこんだ。

 足技も、繰り出す。

 肘や膝も、小野に叩き込んだ。

 攻撃をしていると体力を消耗していく。

 しかし、小野からはそんな様子を感じない。

 耐久力がけた違いなのだ。

 小野は黒島に蹴りを放った。

 黒島は地面を転がる。

 そして、黒島は、小野に腕をかまれた。

 獣のような牙で噛まれたのだ。

 動脈をえぐられた。

 出血が止まらない。

 小野は右足を踏み込み、そのまま、ジャンプした。

 すると、何やらきらきらとしたものが、黒島の眼前に現れた。

 それに吸い込まれるようだ。

 小野は飛んでから、黒島に向かって足を向けていた。

 ジャンピングキックだ。

 よける体力はもう残っていない。

 このまま死ぬのか...

 徐々に小野の足が迫っていた。

 動きがスローモーションだ。

 すると、目の前から小野の足が消えていた。

 きらきらしたものも見えなくなっていた。

 見ると小野は地面に倒れこんでいた。

 そして、目の前には、中元がいた。

「なるほど、ゴールドを奪われた訳ですか...」

 小野のジャンピングキックを、中元はハイキックで応酬した。

 黒島は、腕を抑えて、その場に倒れていた。

「今だったら、変身できるぞ...」

 小野は中元に言った。

「いやですよ。美肌が売りなので。」

 小野は中元に襲い掛かった。

 中元はそれをよけ、ボディーブローを打った。

 正拳ではなく、親指を天に向けた状態でそれを放つ。

 小野は吐血した。

 肺を守っている骨が砕け、内臓に刺さったのだ。

 小野の体は特殊な物質でおおわれていた。

 変身を解除するには、小野を倒すほかなかった。

 中元は小野の脳天に向けて、踵落としを行った。そのあと、頭にある足をそのままにして、顎に向かって挟み込むように、膝を打った。

 中国武術、虎形拳こけいけんの技「きば」であった。

 小野の牙は、粉々に砕けた。

 小野はその状態にいる中元を抱えようとしたが、中元は小野の頭を足場にして、小野を飛び越えた。

 そして、背後から、スリーパーホールドを決めた。

 小野の頸動脈は謎の物質でプロテクトされた状態でも圧迫されていた。

 数分後、小野は砂になって消えた。

 家についた河合は、早速、シャワーを浴びた。

 シャワー何て浴びている場合ではない。

 助けにいきたかったが、助けを呼ぶことを、黒島は許さないだろう。

 誰が何と言おうと、黒島に任せるしか選択肢はないのだ。

 風呂場を出、脱衣所からパジャマに着替えた河合は、イヤリングを付けていなかった。

 それもそのはずである。

「あら、今日は、つけないの?」

 母親が珍しく話しかけてきた。

「うん。どこかでなくしちゃって。」

「そうなの。お母さんが新しいの買ってきてあげるわ」

 母親が珍しく優しい言葉をかけてきた。

 なぜだろうか...

 そう思いながら、夕食を共に食べた。

 娘と久しぶりに口を利けたのがうれしかったのだろうか、どこか嬉しそうであった。

 黒島はその後救急車に運ばれた。

 傷害事件として、被害届が出された。

 犯人は見つからない。

 参考人として、中元は警察署に出頭し、供述した。

 翌日

 河合は学校を休んで、お見舞いに向かった。

 黒島は、1週間の入院を余儀なくされた。

 黒島は警察に事情を離した。

 小野と言う男が、イヤリングを盗んで、それを使って姿を変え、河合を襲おうとしたところを自分が守った。

 そして、気が付いたときには病院にいた。

 だが、警察はそれを信じなかった。

 犯人不明のまま、事件は迷宮入りした。

 中元は、病院で河合にイヤリングを返した。

「今回はちゃんと磨いておきましたよ。」

 いつもはそのまま返していた。

 河合は別に気にしていなかったが、中元は気にしているようだった。

「ありがとうございます。」

 しかし、不思議なことがあった。

 小野と河合たちはいつも遊んでいたが、そんなそぶりは今まで一度も見せていなかった。

 しかし、今日豹変したのだ。

 一体小野の身に何が起こったのだろうか....

「小野さんに最近変わったことは?」

 中元は、河合と黒川に尋ねた。

「特にありませんでした。ただ...」

「ただ?」

「昨日の部活で、倒れたんです。でも、何事もなかったように続けてて。アホだなあって思ってみてましたけど。」

 河合が答えた。

 中元は違和感を覚えた。

「顧問の先生は何と?」

「念のため保健室に行けと言ってました。そのあとはどうなったかは...」

 倒れた原因はおそらく熱中症だと思った。

 しかし、その後、小野は普通に学校に来ている。

 病院で検査するのが普通じゃないのか?

 熱中症の場合重度だと後遺症がある。最悪の場合脳に障害が残り、日常生活が送れなくなる可能性があるのだ。

 今どき救急車を呼んでもおかしくない。

 しかし、小野は普通に帰っていた。

「小野はどんな性格ですか?」

「真面目だと思います。女子がいる前では、格好つけだということで有名です。」

 中元は、小野に何があったのか調べる必要を感じた。

 

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