23 賞味期限にうるさいヘンゼルとグレーテル
ヘンゼルとグレーテルは、例によって森で迷っていた。
この二人は童話界でも有名な迷子の達人なのだ。
「グレーテル、あの森の奥に、お菓子の家が見えるぞ!」
「兄さん、また? 最近の童話界ってコスパ悪いのよ。前に見つけたクッキーの家なんて、湿気でベタベタだったじゃない」
近づいてみると、確かに今回も見た目は華やかだ。屋根はチョコレート、壁はシュガークラフト、煙突からはカラメルの香りが漂ってくる。
だが、ドアに貼られた張り紙が彼らを立ち止まらせた。
「賞味期限:2012年10月31日」
「……すごい過ぎてるわね」
「うん、これは食べたらお腹より先に運命が詰むやつだな」
そこへ、家の中から魔女が現れた。
「さぁ、かわいい子どもたち、いらっしゃい。クッキーもケーキも食べ放題だよ〜」
「おばあさん、それ全部2012年製造じゃないですか?」
「細けぇこと気にするんじゃないよ! 魔女の胃袋は何でもOKなんだよ!」
グレーテルは兄に囁いた。
「兄さん、あれ食べるくらいなら、木の根っこかじったほうが安全じゃない?」
「同感だ。てか、おばあさん、消費者庁に通報していいですか?」
魔女は急に取り乱した。
「や、やめろ! 消費期限切れお菓子で子どもを釣るビジネスは、わしの最後の収入源なんだ!」
「収入源って、これ商売だったの!?」
ヘンゼルはポケットから、父親に渡されたパンくず型GPSを取り出した。
「ほら、もう帰ろう。こんな家より、家で食べる賞味期限切れ前の食パンのほうがまだマシだ」
「そうね……兄さん、森の童話も物価上昇で質が落ちてるのかしらね」
魔女は叫んだ。
「待って! せめて1個だけでもクッキー持ってって! 転売したらレア物扱いされるかも……!」
二人は無言で去った。
背後で、古びたクッキーが崩れる音がした。
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