2 浦島太郎の悲劇
「うわぁぁああっ!!」
浜辺で昼寝をしていた浦島太郎は、突然の絶叫とともに目を覚ました。目の前には、ハイテク装備をまとった亀が仁王立ちしている。
「浦島太郎、貴様を竜宮城のブラックリストから抹消する!」
「……え?」
いきなり何を言っているのか分からない。
彼はただ、昔、助けた亀に連れられ、竜宮城で宴会を楽しみ、玉手箱をもらい、開けてしまっただけだ。
それがなぜ、こんなスーツ姿の亀に追われる羽目になっているのか。
「いやいや、ちょっと待ってくれよ。何の話だ?」
「とぼけるな! 貴様は竜宮城において違法な長期接待を享受し、さらにその後、機密情報である玉手箱を無断で開封した。規約違反だ!」
「規約? そんなの聞いてないぞ!」
「小さな文字で巻物の隅に書いてあったはずだ!」
「読めるか! 竜宮城語なんて分かるか!」
「では弁護士を通せ!」
「弁護士!? そんなのいるのか!?」
「いるとも! 乙姫法律事務所の乙姫弁護士だ!」
亀はスーツのポケットからスマホを取り出し、乙姫にビデオ通話を繋いだ。画面に映し出されたのは、かつての艶やかな乙姫とは似ても似つかぬ、バリキャリ眼鏡をかけた敏腕弁護士だった。
「浦島太郎さんですね?」
「あ、はい……」
「あなた、玉手箱を開けたでしょう?」
「はい、開けたけど……何か問題でも……」
「そのせいで時空のバランスが崩れ、竜宮城の財政が破綻しました。あの白髪老化エネルギーが時空改変を引き起こし、我々は深刻なブラックホール危機に陥ったのです。」
「え、そんなヤバいものだったの!?」
「その損害賠償として、あなたには再び竜宮城で働いてもらいます。」
「え、給料は?」
「……おもてなし(※無給)」
「無給!? ブラック企業どころか、奴隷じゃないか!」
「当時あなたが竜宮城で受けた接待と豪華な食事の費用を換算したら、ざっと10億竜宮円の借金が発生しています。従って、あなたは30年間働く義務があります。」
「バカな! そもそも俺、乙姫に『また来てね♡』って言われていたのに!」
「そうですね、言いました。でも『労働者契約の義務』も含まれていたんです。」
「聞いてないぞ!」
「言いました。小声で。」
「ズルすぎる!」
「契約ですので。」
こうして浦島太郎は、再び竜宮城へ連行された。
――その後、彼はブラック企業・竜宮カンパニーの皿洗い部門で長時間労働を強いられた。休憩時間は3分、賄いの料理はすべてカロリーオフ。
乙姫社長の「竜宮改革」により、豪華な宴会は撤廃され、カラオケは「社員の自主研修」に変更されていた。
「俺の知ってる竜宮城と違う……!」
浦島は涙を流しながら、皿を磨き続けた。
ブラックリスト(迷惑客リスト)から抹消された代わりに、労働者側(ブラック)になってしまったのだった。
――だが、数日後。
厨房で叱られた。
「おい浦島君、休憩中に玉手箱2号をいじるなと言っただろ!」
「え? これただの弁当箱かと……」
ポンッ!
まばゆい光とともに、また白髪に。
そしてその瞬間、時空に異変が――
「ちょ、またやったの俺!?」
再び世界が歪み始める中、浦島は気づいた。
「……これ、もしかして永久労働ループ?」
もはや彼は、“時空クラッシャー・浦島”として、社員証(永久ブラック)に登録されたのであった。
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